未破裂脳動脈瘤が発見されたら「くも膜下出血予防治療」の相談を
くも膜下出血の約9割は脳動脈瘤からの出血が原因だ。発症すると3分の1が死亡し、残り半分に後遺症が残る。近年、脳ドックなどの普及により、脳動脈瘤が発見されるケースが増えている。未破裂脳動脈瘤のくも膜下出血リスクは以前から、年間約1%といわれていたが、新しい調査によれば、それより高いとの結果が出た。未破裂脳動脈瘤の予防治療に対し、影響を与える可能性がある。
働き盛りにも発症が多いくも膜下出血
寝たきりの大きな原因の一つである脳梗塞や脳出血は比較的高齢者に発症するが、くも膜下出血は40〜50歳代の働き盛りの発症も多い。主な原因は脳動脈瘤からの出血である。脳動脈瘤とは動脈に発生した瘤状、あるいは紡錘状の膨らみで、それらが破裂すると出血し、脳全体を包んでいる膜の内側に血液が充満する。これが、くも膜下出血だ。
近年、脳の画像診断を希望する人が増え、健診のオプションとして脳ドックを取り入れている企業も多い。50歳前後を対象とした脳のMRI検査では、100人に対して5〜6人に未破裂脳動脈瘤が見つかっている。
日本赤十字社医療センター脳神経外科の木村俊運副部長に話を聞いた。
未破裂脳動脈瘤の出血リスクは、これまでの言われているより高い可能性がある
「未破裂脳動脈瘤の出血リスクについては各国で調査が行なわれ、年間1%と推計されていました。日本脳神経外科学会が2001〜2004年にかけて実地調査した『UCAS Japan』の結果でも、未破裂脳動脈瘤の出血率は年間で0.95%という結果となっています。しかし、臨床での実感や調査対象に予防治療実施患者が含まれていることも考慮すると、少し低く見積もりすぎでは、と思いました。そこで独自に自施設での調査を実施しました」
調査は2000〜2009年に未破裂脳動脈瘤を指摘された722人を対象とし、2014年末までの出血率を算定した。その結果、全患者の1.2%に未破裂脳動脈瘤が見つかり、2年以内にくも膜下出血を発症していた。一方、同じ2年間に全体の38・4%が予防手術を受けている。
つまり、くも膜下出血を発症した患者は動脈瘤が小さいなどの理由で治療対象とならなかったか、患者本人が治療を選択しなかった中で起こっている。これにより従来いわれていたよりも、未破裂脳動脈瘤の出血リスクが高い可能性があることがわかった。この結果はアメリカ脳外科学会誌である『Journal of Neurosurgery』に掲載された。
国内でのくも膜下出血の発症は年間10万人に対して20〜60人で、その中の約6割は6ミリ未満の小型の脳動脈瘤からの出血だ。
予防治療は、カテーテルで動脈瘤にコイル留置か開頭手術で根元をクリップ止め
「未破裂脳動脈瘤の出血リスクは大きさが5ミリ以上とされています。他に自分や家族がくも膜下出血を発症した、喫煙習慣、高血圧、それに歯周病などの慢性炎症がある場合に高くなるともいわれています。特に動脈瘤の大きさと発生した場所は出血に関係が深い。一方で2〜3ミリの小さいものなら、出血リスクはさほどありません」(木村副部長)
予防治療はカテーテルで動脈瘤にコイルを留置する方法か、開頭手術で動脈瘤の根本をクリップで止める方法がある。あまりに大きいものや動脈瘤の底辺が広いものはコイル治療には向かない。
健診などで未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、出血リスクを考え、治療について主治医と相談することが重要だ。
※週刊ポスト2019年4月19日号
●「腹部大動脈瘤」は破裂すると致命的… 原因、予防法を名医が解説