ユニバーサルグランピング、インクルーシブ公園「障がいの有無を問わず誰もが楽しめる」アウトドアの新スポット3選
年齢や障がいの有無にかかわらず誰もが楽しめる場所を目指す“SDGs”の取り組みが全国で広がりを見せている。中でも注目なのが「ユニバーサルグランピング」や「インクルーシブ公園」といったアウトドアスポット。介護が必要な人や障がいをもつ人には利用しにくかった屋外の遊び場が進化を遂げている。注目の新スポットをピックアップ!
長崎発!話題のグランピング「車いすでアウトドアを満喫」
介護が必要な人や障がいをもつ人も旅を楽しむ「ユニバーサルツーリズム」が注目を集めているが、手ぶらでアウトドアキャンプを楽しめる人気の“グランピング”にもユニバーサルデザインを取り入れた新スポットが誕生。
長崎空港から車で約1時間、大自然に囲まれた長崎市長浦町に、ユニバーサルグランピング施設『Flat Glamping Nagasaki』(以下『フラット』)がオープンした。
誰もが笑顔でアウトドアを楽しめる場所を
「すべての人に旅行体験を、旅行をもっとフラットに」をコンセプトに、障がいのある人も車いすの人も、誰もが安心してアウトドアを満喫できる今話題のグランピング施設だ。
同施設の代表を務める理学療法士の宮田貴史さんにその想いを聞いた。
「医療的ケアが必要な人、車いすユーザーやそのご家族は、『普通の旅行でも大変なのに、キャンプなんて絶対に無理だよ』と考えている人が多いんです。だからこそ『アウトドアができたんだから、もうどこにだって行けるよね』と勇気をもってもらえるような体験をしてほしくて…」
これまで長崎市内で障がい児向けの通所施設や訪問看護の運営を手掛けてきた宮田さん。自身も、障がいを抱える息子さんを育てた経験がある。
→「障がいを持つ子供の親が安心して死んでいける地域を作りたい」長崎・理学療法士の挑戦
「長男が難治性てんかんという障がいがあって車いすを利用していました。家族でキャンプに行ってみたいけど、トイレは大丈夫だろうか、おむつを交換する場所はあるのだろうかと心配ばかりが先行して、二の足を踏んでいたんです」
そんな想いから、宮田さんはアウトドアとバリアフリーを融合したグランピング施設の建設に着手。「誰もが笑顔でアウトドアを楽しめる場所」を作るべく、総工費1億円以上かけた大プロジェクトに挑んだという。
大自然の中で「もしもの時のケアも安心」
波が穏やかで美しい大村湾を臨む自然豊かな山間の町に建つ『フラット』。2300坪という広大な敷地に限定4棟のオシャレなドーム型のテントが並ぶ。
「車いすでスムーズに移動できるようにと、草が生い茂る砂利地を開拓してコンクリートを敷き詰める作業は、なかなか骨の折れる作業でした」
全室にトイレ・バス付き、最大4名まで宿泊可能。4棟のうち2棟は完全車いす対応、バストイレも広々。オストメイトへの対応やリクライニングベッドを完備し、ベッド柵や点滴スタンドなどのレンタルのサービスも用意されている。
また、理学療法士が勤務しているため、事前に相談すれば簡易的な介護補助なども可能となっており、安心して旅行を計画できる。
「車いす利用者の宿泊を考えたとき、どうしてもテント内にトイレとお風呂は設置したかったんです。車いすに対応した部屋は2棟限定にして、スタッフの目と手を掛けられるようにしました」
食事は地元食材を使ったBBQだ。車いす利用者でも楽しめるテーブルの設計から、障がいのある人でも使いやすいカトラリーにまでこだわったという。
また、焚火、ボッチャ、コーヒーの焙煎体験、まきわり体験などアクティビティも充実。
最大の魅力は自然の恵みに溶け込むような非日常的な体験だ。
「山から上る朝日は感動的な美しさ、夜には静かな大村湾の水面に月の明かりが反射して幻想的な景色が広がります」
【データ】
Flat Glamping Nagasaki
所在地:長崎県長崎市長浦町1812-17
運営:ユースリー
料金:1泊1万5100円〜(※2食付きBBQプラン、定員4名)
アメリカンなキャンプ場にバリアフリーの宿泊棟を設置
アウトドア施設のバリアフリー化は全国に広がりを見せている。千葉県旭市にオープンしたドレッシーライフ・あさひシーサイドコテージは、ビンテージのトレーラーを宿泊棟に使用したキャンプ場だ。
代表を務める清本弘毅さんが、大腸がんを患った経験から、「障がいのある人も楽しめる施設」を目指したという。
施設内には、車いすでも利用可能なバリアフリーの宿泊棟を設置。高齢の人も安心な電動ベッドも備え付けてある。
宿泊棟全室にプライベートトイレとシャワー、エアコンを完備。敷地内には、障がい者用トイレも設置した。
テントサウナ、キッズプール、本物の船のデッキを使った露天風呂などもあり、そのほとんどが清本さんとその友人のDIYによる、人の温もりを感じられる施設だ。
アメリカから取り寄せたという『エアストリーム』『スパルタン』という2台のヴィンテージトレーラーが、カリフォルニアを彷彿とさせる。アメリカンな雰囲気の中、誰もが安心してゆったりとしたひと時を過ごせそうだ。
【データ】
あさひシーサイドコテージ
所在地:千葉県旭市東足洗2778−151
運営:コペルニクス
料金:1泊1万5400円~(2名~定員5名)
https://camp.travel.rakuten.co.jp/properties/618
誰もが安心して遊べる遊具を設置したインクルーシブ広場
多様性のある社会を目指すSDGsの取り組みの中で、「インクルーシブ」をテーマに掲げた公園が全国に広まっている。
インクルーシブとは、包括的などの意味をもつ言葉。障がいの有無にかかわらずすべての子どもたちが誰でも安心して遊べる「インクルーシブパーク」に注目したい。
国立競技場に隣接する東京・都立明治公園がリニューアルし、10月に一部が開園。2024年1月には店舗などもオープンする予定だ。
園内にはテーマ性の異なる3つの広場があり、そのうちの1つが「インクルーシブ広場」だ。
広場には円形の敷地に毛足が長くて触り心地が柔らかい人工芝が敷き詰められ、障がいの有無にかかわらず誰でも安心して遊べるジャクエツ製の遊具を設置。
真っ白で不思議な形の遊具は、医療的ケアを必要とする子どもたちの診療を行う医師の紅谷浩之さん監修によるもので、角がなくケガなどに配慮されている。
トランポリン遊具『YURAGI(ゆらぎ)』は、真ん中に穴が空いたドーナッツ型の形で、内と外からケアしやすい設計。球型の形で背中がぴったりと座面につき、安定した姿勢で揺れることができるブランコ『KOMORI(こもり)』など、みんなが楽しく遊べるようになっている。
園内には、オールジェンダー(男女共用)のトイレやベビーケアルーム(授乳室)やオムツ交換台も用意されている。
【データ】
都立明治公園
所在地:東京都新宿区霞ヶ丘町地内、渋谷区神宮前2丁目地内
運営:Tokyo Legacy Parks株式会社
取材・文/氏家裕子
●旅に看護師が付き添うツアーナースに注目!「ユニバーサルツーリズム」の現状をレポート