「施設はつまらないから入所したくない」高次脳機能障害の母の言葉に頭を悩ますヤングケアラーの娘が用意したアイテム
高次脳機能障害の母を幼い頃からケアしているヤングケアラーの高橋唯さん。母が暮らす施設を探しているが、なかなか決められずにいる。宿泊(ショートステイ)の体験を経て、2つの施設まで絞ったのだが、母は「施設はつまらない」という。そんな母のためにあるアイテムを用意してみたが…。施設選びに悩める娘の想いとは。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
どうなる?母の入所施設探し
障害のある母の入所施設探しを1年以上かけて進めてきたが、いよいよ終盤に差し掛かってきた。
1年前から何回かショートステイを利用している施設Aか、今年に入ってからショートステイを利用している施設Bかの2択まで絞り、7月にはいよいよどちらかの施設に入所する。
――はずだったのだが、今日も母は家にいる。
まず6月に施設Aから連絡があり、緊急で入所させたい人がいるとのことだったので、順番を譲ることにした。それでもショートステイはこれまで通り使えるとのことで、とりあえず一安心。
しかし、そういうことなら施設Bにすぐ入所を決めればよかったのだが、いまいち決めきれずに今に至る。
母が暮らす施設なのだから、母に選んでもらうのが1番よい。ところが、母はとにかく「どこだろうと施設には入りたくない」の一点張り。母の意思を参考にすることができない以上、いったい何を基準にこれから長く暮らす住処を決めればよいのだろうか。
個人的には大部屋ではなく個室の施設Bが好みだが、職員数が多く手厚いのは施設Aに思えて、なかなか決めかねている。自分勝手なことだが、なるべく筆者自身の罪悪感も少ない選択がしたい。
「施設はつまらない」という母
母の主張としては「デイサービスでは日中いろいろな活動をして楽しいけれど、施設では活動が少ないのでつまらない」とのこと。
そこで、塗り絵や簡単なドリルを持たせてみたものの、自発的には手をつけず、一緒にやってくれる人がいなければ取り組まない。
母のために用意したアイテム
結局、母は誰かに構ってもらえないことを「つまらない、暇だ」と表現しているようだが、施設の職員も忙しいので、ずっと母にかかりきりという訳にはいかない。
どうしたものかと悩んでいたら、昔、母方の祖母の家にあったおしゃべりする人形『プリモプエル』のことを思い出した。父方の曽祖母の家にも同じ人形がいて、祖母も曾祖母もよく可愛がっていた。
これだ!と思い、さっそく我が家にも迎えてみた。話しかけた言葉に反応し、おしゃべりする。今はより介護に特化した別のおしゃべり人形も販売されているようだが、母の実家にあって馴染みがあるもののほうがよいだろうと思い、こちらを選んだ。
母に渡してみると、興味は示したものの、「こんにちはって言ってごらん」「抱っこしてごらん」とこちらから促さないと、自分からコミュニケーションを取ろうとはしない。
一旦、自宅で慣れる期間を設けてから、ショートステイにも連れて行ってもらったが、はたしてショートステイ期間中に仲良くなれたのだろうか。
おしゃべり人形、定番から進化系まで
音声認識でおしゃべりする人形には、母が購入した『プリモプエル』のような定番のものから、最新AIを活用した進化形まで、さまざまなモデルがある。※価格はすべて税込。
『ハートそだつよ!プリモプエル』(バンダイ)
価格:1万4850円
話しかける内容や接し方によって会話が変化する。黒とピンクがある。
https://toy.bandai.co.jp/item/detail/10635/
『おしゃべりみーちゃん』(パートナーズ)
価格:1万3750円
音声認識人形のロングセラーシリーズ。会話や歌、日付や曜日を教えてくれるなど多彩なコミュニケーションが可能。男の子『スマイルけんちゃん』や、犬・猫のモデルも販売。
https://www.ptns-sp.com/service/original-item/
『NICOBO(ニコボ)』(パナソニック)
価格:6万500円(月額利用料1100円)、36回分割払いプランは月額2700円(37回目以降1100円)
「永遠の2歳児」をテーマに、最新技術を搭載したカメラと顔認識・感情認識技術により少しずつ言葉を覚えていく。
https://ec-plus.panasonic.jp/store/page/NICOBO/
ケアラーにも、ケアを受けている人にも自分らしく生きる権利がある
6月時点では、なんとしても7月前半には母を施設に入所させようという気持ちでいたが、結局それができずにダラダラしているうちに、自分の決定が正しいと思えなくなってきてしまった。
2022年、国連の障害者権利委員会は日本政府への勧告を発表し、障害児・者の施設収容廃止(脱施設化)を求めた。翌年、厚労省は’26年度末の施設入所者数を‘22年度末比で5%以上減らすという目標を定めた。そんな中、母を施設に入所させようとしているのはなんだか時代に逆行しているようにも感じる。
また、障害や認知症により、1人で物事を決めることが難しい人が意思決定できるように行う支援「意思決定支援」について、厚労省の資料では「本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くすこと」や「本人に代わって意思決定するのは最終手段であること」などがポイントとして示されている。
筆者は母に対して十分な意思決定支援ができていると言えるだろうか。
「意思決定支援」は、すべての人には意思があるという前提で行われる。ケアを受けている人にも、ケアラーにも意思がある。
この先、母に大好きなデイサービスをやめさせて、下手をすると筆者がこれまで生きてきたよりも長い期間、本人の望まない生活をさせることも、筆者がずっとケアを続けることも、どちらも健全ではないと思う。お互いの権利がぶつかる中、これからの生活をどう考えていけばよいのだろうか。悩みは尽きない。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz