兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第232回 睡眠導入剤の処方をご相談してみました】
若年性認知症の兄の特別養護老人ホーム入所の道は絶たれてしまいました。一緒に暮らす妹のツガエマナミコさんは、この先どうしていいか途方に暮れるばかり。そんな中、「睡眠導入剤で夜しっかり寝て動き回らないようになれば入所が可能かも」という施設側の意見を受けて、相談に行ったクリニックで、医師が親身になってくれたのです。
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「何か力になれたらと思います」(by兄のデイケア併設の内科医)
「でも、お兄さんの場合、まだ65歳でしょう。特別養護老人ホームに入るにはまだ若いですよね。特養はだいたい高齢者ばかりですから、そこへお兄さんぐらい若い元気な人が入ると一人だけ周りと違った対応をしなければならないので、それもネックかもしれません。グループホームなどで数年過ごして、認知症がもうすこし進んだら特養に行くのが一般的かなと思います」
そう言ってくださったのは、兄が通うデイケアに併設している内科医院の先生でした。じつは寝たきりになった母親を定期的に往診していただき、最後は死亡診断書を書いてくださった先生でもあります。
兄に睡眠導入剤を処方していただけるかどうかをご相談しに行き、特養で受入れ不可になった経緯をかいつまんでお話ししてみたのでございます。すると「困っている人を助けられない介護施設って何でしょうね」と一言おっしゃってから、冒頭のお言葉がありました。
そして、睡眠導入剤は睡眠薬ではないことや、ふらつきが出る可能性があること、薬は本人のためではなく、あくまで介護する人間の勝手な都合であることを確認された上で、「睡眠導入剤を出すことは可能です」とおっしゃいました。でも、続けて「ただ薬で排尿排便の行動をコントロールできるのか、私は専門ではないのでわかりません。精神科にかかっているなら、それができるのかどうか、薬の処方を含めて、そちらで相談した方が適切かと思います」とのことでした。
ついでに認知症対応のグループホームなら、排泄コントロールができない人でも入所できるのかを伺ってみると、「それはいろいろです」と濁されました。公的施設ではないので施設ごとにルールや方針が違うものなのです。
「本来はケアマネがお兄さんの状態をみて、”こういうところがいいと思いますけどどうですか?”と提案するものだと思いますけど」とおっしゃるのを聞いて、「そうか、そうなんだわ」と、なんとなく溜飲が降りた気がいたしました。
我がケアマネさまは遠慮深いことに加え、公平な立場を重んじるケアマネジャーとして特定の施設をオススメすることはしないタイプ。お願いしたことは一生懸命やってくださるけれど、こちらが訊かない情報は出てこないし、訊き方が悪いのか的を射た答えが返ってこないので期待もしなくなりました。
とはいえ、今のケアマネさまに大きな不満はございません。チェンジすることもできると存じていますが、「誰がなってもこんなもんだろう」と思っているので……。もし「ケアマネの達人」という方がいるのなら、一度その達人とお話しをしてみたい。ケアマネさま次第でどれだけの違いがあるのか、ないのか? 兄に対してどんなケアプランを立ててくださるのか? 伺ってみたいものでございます。
少し前にケアマネさまから、SS(ショートステイ)は1か月に最大29日だか30日間は利用可能と伺いました。極端に言えば、ひと月に1泊だけ在宅し、残りの日はずっとSSを利用することも不可能ではないということでございます。
「じゃぁ、特養なんていらないやん。ずっとそれでもいいやんけ」と思ったのでございますが、内科医院の先生は「SSは、基本的にほったらかしです。運動やレクリエーションのようなことはしないのが普通。だから長くいるとつまらなくて、それはそれで利用者本人にストレスがかかります」とおっしゃいました。
先生のお話を伺いながら、やはりグループホームや小規模多機能型に一度相談しに行ってみなければ…という思いに至り、とりあえず睡眠導入剤はいただかずに相談を終えました。「何か力になれたらと思っています。いつでも相談に来てください」と、内科医院なのにそういっていただけたことで少し拠り所を見つけた気がいたしました。
兄のような人は、どうしたらいいのでしょう。鉄のパンツをはかせて、勝手に放出できないようにすることぐらいしか、わたくしには思いつきません。昨日もお便さま攻撃で、朝から2回シャワーに連れて行く騒動になりました。こういうことがある限り、兄に集団生活はできません。前途は多難でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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