健康

認知症のグレーゾーンからよみがえる食事の秘訣 リスクを減らす「地中海食と緑茶」を専門家が解説

 平均寿命が延び、「人生100年時代」といわれるなかで認知症の罹患者が急増している。認知症の前段階の『軽度認知障害(MCI)』は、認知症になる人は必ず通るものだという。本人や家族が“最近ちょっとおかしいなぁ”と感じる、いわば『認知症グレーゾーン』のことだ。その状態から認知症に移行するまで、平均7年かかるといわれており、この期間に適切な対応をすれば認知機能の低下を緩やかにすることも。そこで、専門家に認知症予防におすすめの食事や対処法などを教えてもらいました。

教えてくれた人

九段坂病院院長 山田正仁さん

筑波大学名誉教授・メモリークリニックお茶の水院長 朝田隆さん

認知症グレーゾーンを抜ける「食事」のポイント

 グレーゾーンを抜けるためには「食事」が重要な鍵。筑波大学名誉教授でメモリークリニックお茶の水院長の朝田隆さんは言う。

「認知症グレーゾーンになると何をしても“めんどうくさい”と感じるようになり、食事もおろそかになりがち。いちばんの薬はバランスよく食べることです」(朝田さん)

 朝田さんが推奨するのは「まごたちわやさしい」。「ま」は豆類、「ご」はごま、「た」は卵というように、認知症対策に役立つ食品の頭文字をつなげた言葉だ。

認知症予防には「ま・ご・た・ち・わ・や・さ・し・い」をバランスよく

※朝田隆さんへの取材をもとに本誌が作成

(ま)豆類
 優秀なたんぱく源のほか、抗酸化作用を持つイソフラボンやサポニンが含まれる。

(ご)ごま
 カルシウムや鉄、ミネラル、食物繊維だけではなく、抗酸化物質のリグナンも含有している。

(た)卵
 良質なたんぱく源で、食物繊維とビタミンCを除くすべての栄養素が入っている。

(ち)乳製品
 たんぱく質・脂質・炭水化物をはじめ、栄養素がバランスよく含まれている。

(わ)わかめなど海藻類
 マグネシウムやカルシウム、ミネラルだけではなく、オメガ3脂肪酸のDHAもたっぷり。

(や)野菜
 特にほうれん草やにんじん、かぼちゃなどの緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンやビタミンCは、アンチエイジング効果のある抗酸化成分として優秀。

(さ)魚
 特に脂ののった青魚はオメガ3脂肪酸のEPA・DHAが豊富。

(し)しいたけなどきのこ類
 骨を丈夫にするビタミンDが豊富。

(い)いも類
 栄養価が高く、現代人が不足しがちな食物繊維が多く含まれている。

地中海食でリスクが最大23%減少

 並行して取り入れたいのが「地中海食」だ。

「今年3月にイギリスの電子版医学誌が、地中海食をとっている人はそうでない人に比べて、認知症リスクが最大23%も低くなったと報告しています。肉よりも魚が多い、オリーブオイルを使う、ビタミンEやポリフェノールが豊富なナッツ類をたっぷりとるといった特徴があります」

 実際に地中海料理でグレーゾーンを脱した例もある。茨城県在住の主婦・富田沙織さん(47才・仮名)が言う。

「ひとり暮らしの76才の母は、1年ほど前から物忘れがひどくなり、“やる気が起きない” “めんどうくさい”が口癖になりました。様子を見に行くと肉中心の総菜や白米、パンばかり食べていたので、私が旬の野菜と魚介類を中心に、オリーブオイルを使った料理を作って食べさせ、食事中には赤ワインを1杯飲むようにアドバイスしました。それがとても気に入ったらしく、簡単ではあるけれど自分で地中海風の料理を作って食べるようになったんです。

 3か月くらいで見違えるように元気になり、いまは“頭と体が楽になったような気がする”と言って喜んでいますし、積極的に外に出るようになった。会話をしていても『あのとき、あんたこう言ってたわよね』と前よりも記憶がしっかりしています」

 とはいえ、忙しくて料理にかける時間がないという人も少なくないだろう。

毎日「緑茶」摂取でMCI・認知症のリスクが軽減

「そんなときは洗わずに食べられるパック入りのカット野菜を買ってきて、さばの水煮缶をのせたり、海藻を加えて海藻サラダにしたり、ナッツをトッピングしてオリーブオイルや亜麻仁油などをかければ、簡単に“地中海風メニュー”が完成します」(朝田さん)

 飲み物では緑茶に注目だ。九段坂病院院長の山田正仁さんは金沢大学に在任中(現在、名誉教授)、石川県七尾市中島町で60才以上を対象に認知症の大規模調査を継続した。

「認知機能正常の人を5年間追跡調査した結果、緑茶を毎日摂取している群では緑茶を飲まない群と比較して、5年の間にMCIあるいは認知症になるリスクが3分の1に減少していることがわかりました」(山田さん)

認知症グレーゾーンからよみがえる秘訣

「あれがない」と物を必死に探したり、急に怒り出したり――。認知症グレーゾーンの人の振る舞いは時として、周囲を驚かせる。その際のかかわる家族や友人の接し方も、Uターンができるかどうかの重要な要素だ。朝田さんは「まずは誰もが認知症になるという前提でいることが大事」(山田さん) 

 としたうえで、「怒らないこと」が鉄則だと話す。

「グレーゾーンになると失敗したり、間違えたりすることが頻繁に起こります。それは本人も自覚していて、“なんでこんな簡単なことができないんだ”と内心もどかしく思っている。そんなときに失敗を指摘されたり叱られたりすると、プライドが傷ついて怒りを抑えられなくなり、怒鳴ったり、暴言を吐いたりすることもあるのです」(山田さん)

 失敗をしたときに整合性のない作り話をすることもよくあるが、頭ごなしに否定したり、本人を傷つけるような言葉を投げかけてはいけない。

「話をちゃんと聞いて、たとえ整合性がなかったとしても叱るより、むしろ“褒め倒す”くらいの気持ちでいる方が得策です。実際、散歩に出たまま道に迷い、帰りが遅くなった義父の“道がわからず困っていた人を助けていた”というウソをお嫁さんが“とにかく無事でよかった”とのみ込み、症状が快方に向かったケースもある。

 一方、家族としてはどうしても認知能力がどれくらいあるか気がかりで “これは誰かわかる?” などと質問してしまいがちですが、本人にとってはバカにされているように感じ、一気に認知機能が下がった事例もある。

 本人へのリスペクトと愛情を持って接しながら食事や生活習慣の改善を行えば、Uターンへの道は必ず開けるはずです」(朝田さん)

 人と交わり、相手を褒め、自分も褒める――明るく前向きな生活習慣こそが、「認知症グレーゾーン」からよみがえる秘訣のようだ。

※女性セブン2023年11月30・12月7日号
https://josei7.com/

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