コロナだけじゃない!覚えておくべき「感染症」のキホン「かかる人・かからない人の違いは?」ウイルス研究に従事する医師が解説
2020年以降、全世界が新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)との闘いに明け暮れた。それ以外の病気などないかのように――しかしその陰に隠れて、感染が拡大している病気は多いため注意が必要だ。感染症の原因となる病原体の種類や感染する仕組みなど、意外と知らない感染症の基礎知識を専門家が解説する。
教えてくれた人
生田和良さん/医学博士・大阪大学名誉教授。長年ウイルス学の研究に従事し、診断法やワクチン開発にも携わる。主な著書に『たいせつな家族を感染症から守る本』(講談社)など。
「感染症」とは?
感染症とは、病原体が体に侵入して発症する病気を指す。
「新型コロナのように新しい病原体による感染症を『新興感染症』といいます。こうした世界中を巻き込む感染症は、災害と同様、数年おきに発生しており、コロナが収まっても新たな感染症が流行する可能性は高いといえます」
とは、大阪大学名誉教授でウイルス学に詳しい生田和良さんだ(「」内以下同)。
怖いのは新興感染症だけではない。国立感染症研究所によると、今年の梅毒感染者数は1万1260人(10月10日現在)。過去最多だった昨年より早いペースで増えており、コロナ同様、第5類感染症(※)に指定されている。
このように、水面下で広がりを見せている感染症は常にある。しかし、むやみに怖がることはないという。
「感染症は忘れた頃に大流行します。だからこそ備えが重要。原因や予防法、年齢に応じてどんな感染症に気をつけないといけないのかなど正しい知識を身につけておけば、冷静に対応できるはずです」
コロナ禍のときのようにいたずらに恐怖し、差別などを生まないためにも、“知る”ということが大切なのだ。
※季節性インフルエンザなどと同様の一般的な感染症の類型。外出自粛などの規制はない。
感染経路と代表的な病気の例
【1】飛沫感染/(例)インフルエンザ、新型コロナウイルス、風しんなど
【2】エアロゾル感染/(例)新型コロナウイルス、レジオネラ症など
【3】血液媒介性感染/(例)HIV、B型肝炎など
【4】空気感染/(例)麻しん(はしか)、水痘、結核など
【5】接触・粘膜感染/(例)ノロウイルス、RSウイルス、梅毒など
【6】蚊・ダニ・動物由来の感染/(例)日本紅斑熱、狂犬病など
感染症の原因を知る「細菌とウイルスの違いは?」
感染症を引き起こす原因となる病原体には、肺炎球菌、ブドウ球菌などの「細菌」、インフルエンザやコロナなどの「ウイルス」、白癬(はくせん)菌やカンジダなどの「真菌」、アニサキスやエキノコックスなどの「寄生虫」、マラリア原虫、トキソプラズマ原虫などの「原虫」などがある。
「この中で、特に身近な感染症は、ウイルスが起因のものです。ウイルスによる感染症は、病原体がのどや肺で増殖して発熱など風邪に似た症状を起こす呼吸器感染症(インフルエンザやコロナなど)と、病原体が腸管内で増殖して下痢などの症状を起こす腸管感染症(ノロウイルスやロタウイルスなど)に大別されます」(生田和良さん・以下同)
ウイルスは飛沫感染や空気感染、接触感染などで体内に入ってくるため、防ぎきるのは難しいが、ただ体内に入っただけでは何も悪さはしない。つまり、感染はしないという。なぜなら、ウイルスは自分だけで増える力を持っていないからだ。
「細菌は細胞分裂をして自らの力で増えますが、ウイルスにそのような力はなく、必ず“宿主(しゅくしゅ)細胞”という増殖を手助けしてくれる細胞が必要となります。たとえば、インフルエンザやコロナの場合、のどや肺のあたりにウイルスの増殖を助ける宿主細胞があり、ウイルスはこの宿主細胞と接触し、その中で増殖。増えたウイルスを体内に放出します。この瞬間が感染したことになり、体にも症状が出始めます」
ウイルスが好む宿主細胞が体のどの部分にあるかによって症状は異なる。
コロナなどの呼吸器感染症は呼吸器系に宿主細胞があるため、のどが腫れる、咳が出るなどの症状が表れる。一方、ノロウイルスやロタウイルスは、胃から腸にかけて宿主細胞が存在するため、下痢や嘔吐などの症状が出る、というわけだ。
感染症を起こす主な病原体
【1】原核生物
細菌(赤痢菌、肺炎球菌、ブドウ球菌、サルモネラ)
【2】真核生物
真菌(白癬菌、カンジダ)、寄生虫(アニサキス、エキノコックス)、原虫(マラリア原虫、トキソプラズマ原虫)
【3】ウイルス
インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルス