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ナイチンゲール、宇野千代さんら偉人たちの“最後の5年間”に学ぶ長寿の秘密「保ち続ける他者との関係」

 日本の女性は平均寿命、健康寿命ともに世界のトップクラスだが、誰もが人生最後まで健康に過ごせるわけではない。医療費や介護にかかる出費で頭を悩ませている人も多いだろう。それならば、元気なうちに健康を意識して老後のライフスタイルを考えておきたいもの。社会を変革してきた女性の偉人たちの「最後の5年間」から見つけた長寿法を紹介する。

教えてくれた人

渡邊宏行さん/精神科医、繁田信一さん/歴史民俗学者、工藤美代子さん/作家、日置千弓さん/ファッションジャーナリスト

寝たきりになっても偉業を成し遂げたフローレンス・ナイチンゲール

“やるべき仕事”を持つことの重要性を佐々木さんが解説する。

「退職年齢が若い国ほど60代前半の認知機能が低下していたとの研究報告もあり、毎日やるべき課題があることは心身の健康維持に役立ちます。ただし大事なのが心の持ちようで、楽しんで仕事に取り組むことが不可欠。疲弊するばかりの仕事は過大なストレスになって、むしろ心身の健康を害します」

 ベッドの上で生涯現役を貫いた女性もいる。フローレンス・ナイチンゲール(享年90)だ。上流階級に生まれた彼女は、高貴な女性が職を持つことがあり得ない時代に自ら志願して看護師になり、ロシアとオスマン・トルコ、イギリスなどの連合軍が戦ったクリミア戦争では野戦病院で必死の看護を続けて、「クリミアの天使」と呼ばれた。

 戦場から帰還後に感染病を発症し、以後約50年間のほとんどをベッドで過ごすことになる。しかしめげることなく、病床で戦死者や疾病者の膨大なデータの統計的な分析を続け、イギリスの医療衛生改革に貢献した。

「寝たきりになって一切の望みを失う人もいれば、“まだできることがある”と考える人もいます。ベッドの上でも体の一部は動いて脳は働くわけで、ナイチンゲールはそんな状態でも一縷の希望を見出して長く研究を続けた。相当メンタルが強い女性だったと思います」(精神科医の渡邊宏行さん)

 優雅なイメージのある平安貴族も多くが「生涯現役」として働いていた。歴史民俗学者の繁田信一さんが語る。

「平安時代は50代で亡くなる人が多く、40~50代が晩年とされました。あの時代、宮仕えする女性に“定年”はなく、多くの女性が死ぬまで自分の主人にお仕えし続けたので、50代で活躍する女官も珍しくなかった。また、当時は一度結婚した後に離婚や夫との死別を経て宮仕えする女性も多く、そのなかにはお勤め中に意中の男性と出会い、引退後に“熟年再婚”したケースもあります。清少納言も夫と離婚後に宮仕えを始めて引退後に再婚した後、その夫にも先立たれて、晩年は出家しておひとりさまとして暮らしていた記録が残っています」

 仕事においてもパートナーとの関係性においても、自分が主体となって行動しようとする積極性とポジティブさが生涯現役を作ったのだろう。

 作家や編集者、着物デザイナーや実業家などマルチな能力を発揮した宇野千代さん(享年98)はその代表格。

 14才で最初の結婚をしたのち幾度となく離婚と結婚を繰り返し、多くの男性と浮き名を流した“恋多き女”は仕事にも熱心で作家として多くの名作を世に出し、85才のときに記した自伝的小説『生きて行く私』はベストセラーになった。

「やっと時代が宇野千代に追いついてきました」

 と語るのは、宇野さんの伝記『恋づくし』の著者で作家の工藤美代子さんだ。

「宇野さんは70才になっても80才になっても恋をして、男性に愛情を大盤振る舞いしていた。彼女の生涯を通じ、何度失敗しても女の人は立ち上がれるんだと勉強になりましたし、何より自分が輝くために積極的に行動するその姿は“男前”ならぬ“女前”。あるとき、知人女性から『好きな男性がいるけど振り向いてくれない』と相談された宇野さんは、その女性に5万円を手渡してこう言ったんです。『このお金でその男をよいレストランに招待して、そのまま寝てもらいなさい!』男女が平等ではない時代、彼女は離婚するたびにパワーが増えて、思う存分、自由に生きていたその姿は、カッコイイの一言です」(工藤さん)

 宇野さんは晩年も仕事に邁進しながら男性との“交流”を楽しんでいたと語る。

「ウオーキングや体操など俗にいう“健康法”はまったく実践していなかったのに、元気で矍鑠(かくしゃく)としていました。90才を過ぎても男性と会うと必ず手をぎゅっと握り、その力は『大きな手ですごい力で握手された』と男性が漏らすほど。朝まで麻雀をすることも大好きで、徹夜明けでほかの人がぐったりするなか彼女だけは『朝になったからご飯食べて原稿を書かなきゃ』と溌溂(はつらつ)としていたそうです」(工藤さん)

 パートナーをはじめとした他者との触れ合いが最後の5年間を充実して生ききるための活力となっていたのはファッション界の偉人たちも同様だ。

「ファッションデザイナーの中ではアバンギャルドなデザインで人気を博したヴィヴィアン・ウエストウッドさん(享年81)や日本人で唯一のパリのオートクチュールデザイナーだった森英恵さん(享年96)も長寿にして生涯現役を貫きました。2人にはよき伴侶がいて、家族や友人に支えられて長くよい仕事ができたと思います。生涯独身を貫いたシャネルも、若い頃に英国貴族に愛された記憶や、かわいがっていた甥やその娘との交流がありました。それでもさみしさがつのると、店に来た若い女性を友人として“スカウト”したこともあったようです」(ファッションジャーナリストの日置千弓さん)

文/池田道大 取材/小山内麗香、桜田容子、田村菜津季、祓川学、平田淳 写真/アフロ、時事通信社、産経新聞

※女性セブン2023年10月26日号
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