熟年離婚を考え始めた女性に毒蝮三太夫はズバリ「別れるな」。その理由とは?「マムちゃんの毒入り相談室」第48回
長く連れ添った夫と、これからもいっしょに過ごしていく自信を失っている59歳の女性。「熟年離婚」という言葉に強く惹かれつつも、実際に踏み込む勇気は出ないと迷っている。相談を読んだ毒蝮さんは、開口一番「別れないほうがいいよ」と言い切った。そのココロは? 相談者が夫と幸せな老後を過ごすにはどうすればいいのか?(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「短気ですぐに怒る夫と熟年離婚を考えている」
7月7日に銀座ブロッサム・中央会館で、ナイツや春風亭一之輔やたくさんの芸人に出演してもらって、17回目の「マムちゃん寄席」をやった。コロナ禍もあって3年半ぶりの開催だったけど、ありがたいことに大盛況だった。
この日は永六輔さんの7度目の命日だったんだよね。俺やいろんな出演者が、永さんの思い出話を語った。永さんは生前「人間は二度死ぬ。一度目は息が止まったとき、二度目は人が噂をしなくなったとき」って言ってたけど、俺たちが永さんの話をしている限り、永さんは生きている。これからも話し続けて、しぶとく生き続けてもらわなきゃな。
さて、今回の相談は、59歳の会社員の女性からだ。同い年の夫と熟年離婚するかどうかで悩んでいる。長年にわたって積もり積もった不満があるみたいだ。
「同い年の夫は、短気ですぐに怒ります。夫が生まれた地域の特性なのか、早口で乱暴な言葉遣いなので、怒られるといつもとても傷つきます。そのことを指摘すると、その私の言い方のほうが怖いと聞く耳をもってくれません。
もうこの繰り返しを25年も続けてきました。歳を取ったら丸くなるかと期待していたのですが、夫の態度はどんどんひどくなる一方で、最近はあきらめの境地です。
先日、女友達と話をしていたら、『老後、パートナーの介護ができるどうか』で、離婚も視野に入れた方がいいという意見を聞いて、確かにそれはそうかもしれないと思い至りました。熟年離婚というのはこういうことなのかと、急に自分事に思えてきたいのです。
とはいえ、実際に離婚する勇気はありませんが、最近は離婚したほうがいいのか、しないほうがいいのか、離婚したらどうなるのか、そんなことばかり考えるようになってしまいました。こんな私にアドバイスをください」
回答:「夫婦は長く連れ添うことに意味がある。別れなさんな。いっしょにいれば老後の喜びや人生の満足感につながる」
これはね、別れないほうがいいよ。別れたら今より幸せな日々が送れるみたいに思ってるかもしれないけど、それははっきり言って幻想だ。近ごろはすぐにホイホイ別れちゃうけど、夫婦っていうのは山や谷を乗り越えて「長く連れ添う」ことに意味があるんだから。
だから俺は結婚式で祝辞を頼まれると、必ず「絶対に別れなさんな」と言ってる。立川談志もそうだったな。長く連れ添っていれば、いろんなことがある。お互いに相手のイヤなところだって見えてくるし、ケンカもたくさんするだろう。それでも別れないでいっしょにいることが、老後の大きな喜びや人生の満足感につながるんだよ。
あなたの旦那は、怒りっぽくて頑固な人らしい。それはたしかに短所だけど、いいところだっていっぱいあるはずだ。相手の腹の立つ言葉や困った部分にばっかり目を向けていたら、どんどん憎たらしくなっちゃうよ。今のあなたは「熟年離婚」っていう言葉に一種の憧れを抱いて、踏み切る理由を探すことに熱中してるんじゃないかな。
それよりも、旦那のいいところを探してみよう。結婚生活を続けていくには、お互いがお互いを理解し合うことが大切だ。俺は思うんだけど、結婚生活に欠かせないものがふたつある。それは「尊敬」と「我慢」だよ。お互いに尊敬に値する人じゃないと長く続かない。同時に、それぞれが我慢しないと長く続かない。
惚れたはれたの気持ちなんて、10年もすれば無くなる。もっと短いかもしれない。それでもいっしょにいるのは、相手に対する尊敬の念があるからだ。もちろん、人間は完璧じゃないから、気に入らないところや腹が立つところもいっぱいある。言って改まる場合もあるけど、それがその人の個性なんだったら変わりようがない。我慢が必要になってくる。
プラスもマイナスもいろいろあって、たとえばプラスが60%でマイナスが40%だとしたら上出来だ。相撲ならギリギリ8勝7敗でも番付は上がる。マイナスや黒星もあるから、人間は成長できるし前にも進めるんじゃないかな。人生も夫婦関係も、ちょっと勝ち越しぐらいがちょうどいいんだよ。どんなに探しても尊敬できるところなんてまったくなくて、我慢やマイナスや黒星しかないなら、別れることを考えたほうがいいけどね。
あなたのがんばりどころは、旦那さんの欠点を並べ立てることじゃない。旦那さんときちんと向き合って、素直な気持ちを伝えることをがんばってみよう。自分の不満の原因はどこにあるのか、旦那さんは自分をどう見ているのか、突き詰めて話し合えば、末永くいい夫婦関係を築いていくための糸口がきっと見つかるよ。
旦那さんへの怒りがどうしても収まらないようなら、一時期ためしに別居してみるのもいかもね。あなたは冷静に旦那さんを見つめ直すことができるし、旦那さんもあなたの大切さに気付くことができる。
「25年間連れ添ってきた相手」っていうのは、かけがえのない存在だよ。人生の中で、また別の人と同じことはできない。熟年離婚という「隣りの芝」の青さに惑わされてないで、自分たちが作ってきた大事な庭をもう一度、ちゃんと手入れしてみてくれ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
いしはら・そういちろう
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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