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声がけは2ステップで!親子で考える高齢ドライバーの運転免許返納

 ブレーキとアクセルの踏み間違いや高速道路の逆走。高齢者の交通事故のニュースを見て、親の顔が浮かび、他人事ではないと思った人も多いのではないだろうか。

 2月14日に発表された警察庁の集計によると、75歳以上のドライバーが過失の最も重い当事者になった交通死亡事故が前年を42件上回る460件で、全体3099件の14.8%を占め、過去最高の割合となった。75歳以上の免許保有者は2018年12月末時点で563万人。団塊の世代が今後高齢化していくこともあり、年々増加傾向だ。

→高齢者の運転 賛否両論のアンケート結果をどう考えるべきか

高齢ドライバーの交通事故は増加傾向だが運転には自信あり

 NEXCO東日本(東京都千代田区)は、高速道路での逆走の過半数(66%)が65歳以上のドライバーによるもの(※1)という事実を踏まえ、ドライバー本人のみだけでなく、その家族にも逆走防止のためのアクションを呼びかける「家族みんなで 無くそう逆走」プロジェクトを昨年10月より開始している。

 そして、その一環として、高齢ドライバー(65歳以上男女104名)と65歳以上のドライバーを親に持つ子ども世代(30~50代男女312名)に対し、車の運転に関する意識調査を実施。インターネットを使って全国を対象に行われた調査では「高齢ドライバーによる高速道路での逆走」や「免許返納」に関する高齢ドライバーの意識や家族での話し合いの実態についても回答を得ており、興味深い結果が出ている。

 調査によると、高齢ドライバーは「運転はまだまだ現役だ」と思っているようだ。高齢男性ドライバーの約8割が運転に「自信あり」と回答しており、高齢になればなるほど「自信あり」が増加。

 そして「免許返納してもよいと思う年齢」の平均は約80歳という結果に。また、「高速道路で発生する逆走のうち66%が65歳以上のドライバーによるもの」と伝えたにも関わらず、4割近くの高齢ドライバーは「高速道路の『逆走』は自分と関係ない・興味ない」と回答。やはり自分の運転に自信を持っている高齢ドライバーが多いようだ。

 一方、家族は本人の自信とは逆に心配が尽きないようだ。約8割の子ども世代は「運転が危ない」と親に伝えているが、8割弱の高齢ドライバーは「運転が危ない」と子どもから言われたことがないと回答している。どうやら親に子どもの心配は届いてないようだ。運転に自信を持っている親に対しては伝え方にも工夫が必要そうだ。

 運転に自信を持っている高齢者と、万が一を心配しながらもなかなか免許返納について話を切り出せない家族。「家族みんなで 無くそう逆走」を監修した朝田隆氏(メモリークリニックお茶の水院長)は「高齢ドライバーが70歳になったら家族で話し合いをするべき」だと言う。

 そもそも高齢者が運転をする場合、どのようなポイントに気をつければいいのだろうか。朝田氏に聞いてみた。

「NEXCO東日本のサイトにて、『運転ここに注目リスト』をご紹介していますが、このリストは、運転操作、車体や車幅などの感覚、刻々と変わる道路状況の変化の確認、注意力など運転に必要な能力を包括的にチェックできます。ぜひ、このリストを使って、実際に高齢ドライバーが運転する車に同乗し、運転を確認してください」(朝田氏)
→「運転ここに注目リスト

「運転ここに注目リスト」には「急ブレーキや急発信が増えた」「駐車場などでのバック運転に手間取る」「通いなれた道順を忘れたり、間違えたりする」「合流が苦手になった」「信号を見誤ったり、標識を見落としたりする」といった具体的でチェックしやすい項目が全部で10個ある。これなら家族が同乗した時に簡単に確認できそうだ。

ケンカにならない子どもから親への免許返納の切り出し方

 多くの人が躊躇していると思われる運転免許返納を促す声のかけ方についてもアドバイスをもらった。

 高齢ドライバーの気持ちを尊重しながら、2ステップで話を進めることがポイントだという。

「大切なのは、一気に話をまとめようと思わないこと。返納が『ご本人にとって栄誉ある決断』になるように話し合いをしたいところです。一般論として、最近の高齢ドライバーによる交通事故の話題がいいかもしれません。次のステップは、他人事からご本人の問題として受け止めてもらうことです。『過去の優れた実績は認めます。けれども、誰しも加齢とともに注意力や反射神経が鈍ってくるので、明日はどうなるかわかりませんよ』というご本人が聞きたくないメッセージを伝える段階です。具体的には、『優秀ドライバーとしての有終の美を飾ってほしい。これからも平穏な生活を送る基本が事故をしないこと』というメッセージを繰り返し伝え、納得してもらう努力をしましょう。また、『いつまでに免許返納をしよう』と返納タイミングを決めることが大切です。次の『免許書き換え時』や『車検時』は、免許返納を納得しやすいタイミングといえます。免許返納を決めたら、高齢ドライバーと家族で思い出づくりをしましょう」(朝田氏)

 宮内庁は昨年、天皇陛下が85歳の誕生日を迎えるのを機に、車の運転をやめる意向を示されていると明らかにした。97歳のフィリップ殿下が事故を起こしたことをきっかけに、運転免許を2月に返納したことも記憶に新しい。朝田氏のアドバイスを参考に親と免許の返納について考えてみてはいかがだろうか。

※1:平成23年~29年の高速道路(国土交通省及び高速道路会社管理)における事故または確保に至った逆走事案

→高齢者ドライバーの死亡事故 原因の多くは「視野」にある!?

朝田隆(あさだ・たかし)

「家族みんなで 無くそう逆走」監修。1955年生まれ。メモリークリニックお茶の水院長、筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学医学部特任教授、医学博士。数々の認知症実態調査に関わり、軽度認知障害(MCI)のうちに予防を始めることを強く推奨、デイケアプログラムの実施など第一線で活躍中。『効く!「脳トレ」ブック』(三笠書房)など編著書多数。

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この記事へのみんなのコメント

  • イチロウ

    駐車場で実験してみれば車に乗れる「資格」があるか否かが分るでしょう。 別に高齢者で無くても、この実験で適性があるか否かが分かります。 それは、パニック・ブレーキが出来るか否か、です。 発進して直ぐに、ブレーキを蹴飛ばして、路面でタイヤが焼ける程に停止が出来るか否か、です。 ハンド・ブレーキの操作も同様です。 停止と同時にハンド・ブレーキの操作を素早く出来るか否か、です。 これ等が出来なければ、もう運転は諦めましょう。 頭の判断と動作が素早く連携していないことの証明ですから。 もっとも、今、車に乗っている人々でも出来ない人が多いですが。 それで、事故の時には、怪我や死亡が増えるのでしょう。

  • SingleAgedBoy

    70歳以上のドライバーに義務付けられた高齢者講習とは別に、70歳未満のドライバーも含めて、運転中の信号・道路標識の見落としや危険回避能力の低下、混乱による運転誤操作のリスクなどを点数化して評価する適性検査を、専門家の協力を得て考案し、それが自動車教習所において実施されるならば、ドライバーが適性検査を自主的に受けることにより、重大事故の発生を未然に防いだり、マイカーに代わる移動手段の確保などの対策を早めに検討することが出来るのではないだろうか。

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