「補聴器をつけてほしいのに聞く耳をもたぬ夫に困った…」嘆く妻に毒蝮さんが授けたアドバイスとは「マムちゃんの毒入り相談室」第51回
誰しも「自分の老い」は認めたくない。すっかり耳が遠くなった68歳の夫。妻は補聴器をつけることを勧めているが、本人は「聞く耳」を持とうとしない。夫の耳が聞こえづらいことが原因で、夫婦の関係もギクシャクし始めた。「最近は夫と話す気力も失せてきました」と途方に暮れる相談者に、マムシさんが耳寄りな解決策を提案する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「耳が遠くなった68歳の夫に補聴器をつけてほしいのですが…」
このあいだ『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に招かれて、久しぶりに黒柳徹子さんに会った。いやあ、あの方は変わらないね。90歳を迎えてますます元気いっぱいだし、トークにしてもリアクションにしても切れ味はさすがだった。
徹子さんだけじゃなくて、90歳を超えても元気に活躍なさっている方々はたくさんいる。山田洋次監督、仲代達也さん、大村崑さん、高木ブーさん……。オレも、そういう人たちに負けないように、まだまだがんばらなきゃな。
放送は2023年10月17日(火)の13時からだ。カミさんと結婚したときのエピソードや、この連載が元になった本『70歳からの人生相談』の話をしている。ぜひ見てくれ!
今回の相談は、60歳のパートの女性からだ。旦那さんのことで悩んでいる。
「68才の夫のことで相談です。ここ一年くらいで、夫の耳がとても遠くなりました。テレビの音がどんどん大きくなり、私が話しかけても、一回では聞こえないらしく、必ず『え?』と言います。最終的に私がすごく大声で話しかけて、やっとわかるくらいです。そして、夫は大声になった私の話し方が『怖い。もっとやさしく話してほしい』と文句を言います。
私だって大きな声で話したくはありません。夫にはきちんと耳鼻科を受診して、必要があれば補聴器をつけてほしいのです。何度か促しましたが、本人はそれこそ聞く耳を持たず、『困っていない』の一点張りで埒があきません。
いまどきの補聴器はとても進化していてカッコいいものもたくさんあること、補聴器をつけているほうが、人と話をするときにスマートで好印象ではないか、などと持ちかけてみますが、この話題になると、不機嫌になり『うるさい』と怒ってしまうのです。どうしたら夫に機嫌よく補聴器を検討してもらえるようになるでしょうか。最近は、夫と話す気力も失せてきました」
回答:「大声で話すとケンカみたいになっちゃよな。まずは、あなたが本気で心配していることを伝えてみようよ」
こういう話は、よく聞くよね。もう20年ぐらい前の話だけど、俺たちの仲人をやってくれた俳優の小林桂樹さんも、年齢を重ねて耳が遠くなってきた。まわりに勧められて補聴器をつけたんだけど、「俺はこれ、つけたくないんだよ」って言ってた。年寄り臭く見えるっていうだけじゃなくて、聞きたくないことまで聞こえちゃうから余計に嫌なんだって。そういう言い草が、またシャレてるよね。
耳が遠くなって補聴器をするのは、目が悪くなったからメガネをかけるのとおなじことのはずだ。でも、あなたのダンナみたいに、抵抗を感じる人がまだまだ多い。補聴器の話をするたびに「うるさい」って怒られたら、嫌になっちゃうよな。「それこそ聞く耳を持たず」か。コノヤロー、うまいこと言いやがって。
いちばんの問題は、ダンナの耳が遠くなったことが原因で、家の中がギスギスしちゃってることだ。あなたも声を張り上げないとダンナに言いたいことが伝わらないし、耳が遠い本人だって、どうしても声が大きくなる。聞こえてないのに聞こえたフリをしてたら、夫婦のコミュニケーションがどんどんすれ違っていっちゃう。
やっぱり人間にとって、穏やかに話すっているのは大切なことだよ。お互いに大きな声を出してたら、気持ちまでケンカしてるみたいになる。まあ、俺もよく「声がでかい」って言われるんだけどね。仕事のときはしょうがないけど、家の中でカミさんと話すときは気を付けなきゃと思ってるよ。
ダンナが補聴器をつけてくれないなら、夫婦の会話に筆談を取り入れてみるといいんじゃないか。ダンナは「俺は聞こえてるよ!」と怒るかもしれないけど、「あなたに向かって大きな声を出したくないんです」「私の言いたいことをちゃんとわかってもらいたいんです」と伝えれば、こっちの思いを感じ取ってくれるかもしれない。
「補聴器が嫌なら、ふたりで手話を習いましょう」と提案するのもいいな。いっしょに習いに行けば、夫婦のコミュニケーションも密に取れる。上達したら、耳が聞こえない人を助けるボランティア活動だってできるしね。覚えて損はないよ。
ちょっと突飛な案かもしれないけど、それだけこっちが切実に悩んでいることは伝わる。そもそも60代で耳が遠くなるのは、年齢以外の原因があるかもしれない。そういう意味でも、早く耳鼻科に行ったほうがよさそうだ。やさしい口調で「あなたとまだまだこの先も、おしゃべりをしながら生きていきたい。だから耳鼻科でちゃんと診てもらってほしい」と頼めば、考えを変えるんじゃないかな。
耳鼻科で補聴器を勧められて、ダンナもその気になったら、一緒にあちこちの店をまわってみよう。ダンナに似合うデザインで、いちばん聞こえやすい補聴器を探してやってくれ。自分を心から心配してくれる奥さんのアドバイスには、きっと耳を傾けてくれるよ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
●「妻と会話が続かない…」嘆く男性に毒蝮三太夫が授けた夫婦が仲良くする方法「マムちゃんの毒入り相談室」第50回