「妻と会話が続かない…」嘆く男性に毒蝮三太夫が授けた夫婦が仲良くする方法「マムちゃんの毒入り相談室」第50回
「夫婦の会話」は、とくにふたりだけで暮らす高齢者夫婦にとっては、毎日を楽しく暮らす上でとても大切である。しかし、妻と何を話せばいいのかわからずに悩む夫は少なくない。過去の無愛想な態度を反省しつつ、自分の殻を破りたい、気の利いたことを言うコツを知りたいと助けを求める男性に、マムシさんが具体的な方策を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「家内とのコミュニケーションがうまくいかずに困っている」
ちょっと時間が経ったけど、今年2023年の9月1日は、関東大震災が発生して100年目の節目だった。死者・行方不明者は10万5000人だったらしい。災害で犠牲になった人だけじゃなくて、人間の弱さがむごたらしい事件をたくさん引き起こした。
今年は新聞報道やテレビの関連番組で、そういうことに触れているのが多かった印象がある。いつ来るかわからない災害に備えるのはもちろんだけど、過去に学んで、同じことを繰り返さないことも大事だ。人間は“間違える生き物”だってことを忘れちゃいけない。
今回の相談は、70歳のおとっつぁんからだ。なるほど、光景が目に浮かぶようだな。
「家内とのコミュニケーションがうまくいかず困っています。会話が長続きしないのです。子どもと一緒に暮らしていたころは、子どものことが話題の中心でした。子どもが独立した今、何を話せばいいかわからないのです。
家内は、近所付き合いもよく、いつも楽しそうです。でも私と話すときは、必要な用事だけ。これまで妻に話しかけられても、私が愛想よく返事してこなかったからなのかもと思います。そんな調子で、夫婦の会話がありません。もっといろいろと話をしたいのですが、しらじらしいかなとか、あれこれ考えると結局何も言えなくなってしまいます。
マムシさんのように面白い話ができたらなといつもうらやましく思っています。今さら話し上手にはなれないとわかっていますが、気の利いたことを言うコツなどあったら教えてください」
回答:「まず、共通の話題を作ることだな。寄席に行くとか、一緒に笑う時間を持ったら福がやってくるよ」
おとっつぁんはエライよ。夫婦のコミュニケーションがうまく取れないのは、自分が至らないからだと自覚していて、変わりたいと思ってこうして相談を送ってくれた。それはひとえに、奥さんのことを大事に思っているからだ。つまりは、愛してるってことだな。
面白い話をしたり気が利いたことを言ったりするのは、そう簡単にできるようにはならない。訓練っていうか、経験や生まれつきの向き不向きがあるからね。いきなり高いハードルを越えようとするんじゃなくて、できそうなことから始めよう。
やっぱり共通の話題を見つけて、接点を増やすことが大事だ。奥さんは何に興味があるのか、どんなテレビ番組が好きなのか、趣味はあるのか、そこを聞いてみよう。そしたら、一緒にやってみよう、一緒に見ようと言ってみる。「つまんねえな」と思ったとしても、否定しちゃいけない。目的は、奥さんとの共通の話題を作ることなんだから。
年配の男性の中には、威張ることがクセになっていて、奥さんが「この番組が面白いのよ」なんて言っても、「お前はこんなくだらないものを喜んでるのか」なんて言っちゃう人がいる。こうやって相談してくれているおとっつぁんは大丈夫だと思うけど、そんな調子じゃあコミュニケーションなんて取れない。これまでの罪滅ぼしだと思って奥さんに付き合おう。
今思ったんだけど、カメラを趣味にしてみるといいんじゃないか。撮るときは「こっち向いて」とか「はい、笑って」なんて声を書けるから、会話のきっかけになる。「せっかくだから景色がいいところで撮ろう」って言って、広い公園に連れ出してもいいし、山や海が見える温泉に旅行に行くのも楽しそうだ。撮れた写真を二人で見て「まだまだイケてるよ」なんて言えば、奥さんだって悪い気はしない。
俺は何十年も前から、月に何回かウチのヤツにハガキを出している。「暑い日が続くけど、お互いに身体に気を付けよう」とか「いつもありがとう。今月もよろしく」とか書いて、ちゃんとポストに投函してね。いきなり同じことをしろと言ってもテレ臭くて難しいだろうけど、要は相手のことを日頃からよく見て、積極的に声をかけるのが大事ってことだ。そういうことの手助けになるって意味でも、カメラを趣味にするのはいいと思うな。
お金がかからないコミュニケーションもある。たとえばジャンケン。たまに俺もカミさんとするんだよ。勝った負けたでトイレ掃除をするとか、お茶を入れるとか。しりとりなんかも、お互いに頭の体操にもなるよな。そうそう、それぞれに自分のルーツを思い出して語り合うのもおすすめだ。認知症予防に効果があると言われている「エピソード記憶」を引き出すことにもなるしね。
あとはね、会話を円滑にして人と人との関係をよくするのは、やっぱり笑いだよ。笑いはコミュニケーションの接着剤だ。自分で面白い話をするのは、普通はなかなかできない。どっかに写真を撮りに行ったりしたあとに、寄席に行くといいんじゃないか。まわりを気にせず大笑いできるし、帰り道には今日の誰それは面白かったねなんて話しもできる。
わざわざ寄席に行かなくても、テレビのお笑い番組でもいいし、近ごろはYouTubeでいろんな芸人の漫才を見ることもできる。ひとりで見て笑ってるより、夫婦で一緒に笑ったら何倍も楽しいし、笑いという接着剤で結びつきも深まっていくはずだ。笑う門には福来ると言うけど、どんどん笑って、愛する妻との夫婦円満という最大の福を呼び寄せてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。