「うちの匂いがするね」と念願の自宅療養再開した父がとってもうれしそう!【実家は 老々介護中 Vol.27】
80才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護をしています。美容ライターの私は、たまに実家を手伝っています。肺炎で入院していた父の体調が戻り、また家で過ごせることになりました。母が倒れてしまわないよう、ヘルパーさんに頼るスケジュールに切り替え、私も週に2回は実家に泊まります。でも、もうきれいごとでは済まされない毎日になると思うと、心はざわつきます…。
寝ているだけだとしても、やっぱり家がいい
「ああ、うちの匂いがするね!」
退院して自分の寝室に戻ってきた父は、安堵した表情ですごくうれしそうでした。
「良かったよねえ。本当、うちが一番だよねえ」
父の入院中にコロナに罹り関節痛がつらかった母も、溌剌としてマニキュアまで塗っていました。母に体力も気力もあって良かった。最期までの短い時間を、暗く過ごすよりは明るく過ごしたい。
今、父はがんの痛みが薬でコントロールできているけど、この先はわからないし。
朝から退院の手続きをして、階段しかない実家へもう歩けない父を介護タクシーさんと上階まで担架でどうにか上げ、母、私、父も、家に着いてホッとしました。
実家では父の寝室の壁にスケジュールが貼ってあります。ヘルパーさんは朝昼夕、日曜以外は毎日。朝はオムツ替え・着替え・朝食介助などで60分。昼はオムツ替えや食事介助で30分。夕方にはオムツ替え・夕食介助・寝る準備などで60分。
ほかにも、訪問看護が週3回に増え、これまでどおり訪問診療が週1回、訪問入浴が週1回。
末期がんの場合、医療面は医療保険が優先される特例があります。医療で介護保険の単位を使わずに済み、今、要介護5ですが介護保険の1か月の限度額36万2170円をめいっぱい介護サービスに使えるのが幸いしました。
「介護保険がきくサービスって、父に関することしか頼めないじゃないですか。普通の家事も少し頼みたいんですけど、高いんですかねー。できれば夜中のヘルパーさんも頼みたいです」
父の入院中に、母・私・ケアマネさんの3人で会議をして、私は自費のヘルパーさんを頼みたい旨伝えました。母がコロナ罹患後のステイホーム期間だったので電話会議です。
末期がんの父が家にいられる期間はもう長くないと思います。最期を家でと思ってはいるけれど正直わからないし。私もできるだけ手伝いますが、父のお世話がもっと増えるとなると、もう手が回らない。
「いくら払えるか決めてもらえたら、その金額でプランを組みますよ。でも正直、自費のサービスは少しお値段張りますよ」とケアマネさんは言い、私たちが保険外サービスのために捻出した予算は、母のへそくりで月数万円のみだったので、夜中のヘルパーさんは予算と噛み合わず、即効で断念しました。
結局、今頼んでいるヘルパーさんのひとり、月、水、金の朝に来てくれている方と調整がつき、1回30分だけ家事代行も頼めることに。自費のサービスも頼める事業所なのだそうで、介護保険内のサービスをしたあと、続けて保険外の家事をしてくれることになりました。
私もヘルパーさんと交流しようと思い、父の退院後、実家に数日泊まったのですが、ヘルパーさんは父の介護をこなした後、プラス30分で母のために洗濯機を回して干すところまでやってくれました。
「ショートコースで洗えば、時間内でやれますよ!」と、洗濯機を回す間、トイレとキッチンの掃除まで猛スピードでこなしてくれて、30分で2000円弱とお安くはないけど、すごく助かりました!
それにしても、ヘルパーさんの来る時間以外も、家族がやることはいっぱいあります。オムツ替え、褥瘡防止のために体の向きを変えることのほか、オムツがずれてシーツやパジャマを汚してしまったら、父を移動させて着替えさせ、シーツも替えるのが重労働。
気分が悪い様子だったら主治医に報告して見守り、急に機嫌が悪くなって、いろいろ言い出すのを、腹を立てずに聞くよう努力したり。日本には、老々介護をしている人が大勢いて、この生活で倒れないのか心配です。
「お母さん、マニキュアしてるの久しぶりだね」
母をねぎらいたいと思って聞いてみました。
「これね、お兄ちゃんが持ってきたの。野菜と果物でできている、食べられるマニキュアなんだって」
えー、手伝いに来ないくせに、こういうのズルい。指がお父さんの口に入っても大丈夫なマニキュアを見つけた努力は買うし、お母さんが喜んでるからいいけど、そもそもお兄ちゃん自身が来ないのはどうなんだろう? 私だって暇じゃないんですけど。
さあ、新しい介護態勢になったし、私も実家に頻繁に来るようにするけど、兄をどう巻き込むか? 作戦を立てなくてはと思います。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛