「特養」不足解消は絶望的!? なぜ施設に入れないのか
実は多くの方達が入所を希望するのは「特別養護老人ホーム」、いわゆる「特養」なのです。「介護施設が足りない」と騒がれているのは、「特養」の空きがないことを指しているのです。
「特養」には入所金はありませんし、月にかかる費用も数万円から多くて十数万円。賃貸住宅に居住する程度でおさまるのです。しかも、重度の要介護者や認知症の方も受け入れてくれますし、寝たきりの方にとっては終の棲家となっているのが現状と言ってよいでしょう、。
「特養」に限ってみれば、空きを待つ「待機高齢者」は50万人を超えたとも言われ、2010年の厚生労働省の調査によると、全国の「特養」の定員に対する入所申込者数の割合は3.4倍の狭き門だと報告されています(平成22年度 老人保健健康増進等事業「特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業」より)。
「特養」が足りない背景には、国の基本姿勢が「在宅介護」にあるという点が大きく影響しています。厚生労働省は「自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用したいと回答した者の割合を合わせると、60% 以上の国民が『自宅で療養したい』と回答した」と明言しています(高齢者の健康に関する意識調査’平成19年度内閣府調査)。その上で、「在宅医療・介護の推進プロジェクトチーム」を設置し、「在宅医療について達成すべき目標、医療連携体制」を2013年度から始まった5か年計画に加えました。
高齢者の介護サービスに対して、施設に支払われる介護報酬は3年ごとに見直しがされるのですが、在宅医療と介護を推進すべく、2015年4月にスタートした報酬改正では看過できない動きがありました。
「特養」への報酬配分を減らし、全体としては、2.27%の減。対して訪問介護への報酬は引き上げる形をとったのです。例えば、認知症等を患う要介護度の高い人へのデイケアサービスでの加算は行いましたが、介護施設が認知症の人を受け入れても加算されることはありません。つまり、国としては介護施設を増設するのではなく、地域で包括的な医療と介護を提供し、高齢者が在宅のまま最期の時まで過ごせることを最終目標として動き出しているのです。
「特養」で生活する場合と、在宅で訪問介護サービスを受けるのでは、単純計算で3倍近く財源に差が生まれます。介護サービスの費用は、原則として要介護認定を受けた65歳以上の人であれば、費用の1割を自己負担(限度額などは介護認定区分で違う)すれば良いわけですが、残りの9割は、税金と40歳以上の人が払う介護保険料が財源となっているのです。今後、超高齢化がすすめば、この財源確保が厳しくなることは目に見えており、国としては何としても在宅医療・在宅介護を徹底したい考えなのです。各自治体は国からの強い要望を受け、地域の医療機関や訪問介護サービス事業者と、徹底した連携をとれるようサービスや財源の構築をスタートさせています。
こうした国の在宅介護推進によって「特養」が劇的に増えることは恐らくないでしょう。しかし国がどんなに在宅介護を推し進めたとしても、重い認知症や身体障害をもっている高齢者の場合、24時間見守る人がいなければ命の危険が伴うこともあります。「特養」に入所できず在宅介護を強要された場合は、身内が同居して介護をするしかなくなってしまうのです。
こうした現状を踏まえると、一般的な収入の高齢者において「終の棲家」となる施設を確保することはますます厳しくなっていくはずです。「終末期ケアを自宅で」という国のスタンスを受け入れるためには、各地域包括センターの早急な手立てが重要になるとともに、高齢者を抱える家族の覚悟も必要になってきます。現時点では「特養」に関しては、なるべく早く入所の希望を出しておくこと。立地や設備によっては、待機者の少ない施設もあります。複数の「特養」を見学し、入所できる可能性の高い施設に申し込みをしておくこともポイントになるでしょう。さらに、もし自宅介護以外に方法がなくなった時、誰が介護を担うのかは喫緊の問題として家族会議を開いておくべきなのかもしれません。
鹿住真弓(かずみまゆみ)
福祉ジャーナリスト。介護、障害者福祉、医療、動物医療を中心に執筆。中高年期のヘルスケアと発達障害がライフワーク。プライベートでは大学生と高校生男子の母。実父の介護経験あり。
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