訪問理美容とは|介護保険は使える?対象者や利用料金や賢い利用方法を専門家が解説
外出が難しい高齢者や介護が必要な人にとって、気軽に美容院に行けないことは悩みのひとつではないだろうか。美容院に行きたいとき、家族やヘルパーさんに付き添ってもらえないことも…。そんな時に頼りたいのが「訪問理美容サービス」だ。訪問理美容の専門家に上手な利用法や実際に自宅で準備するものなどを伺った。
訪問理美容とは?
「髪が伸びたから暑くて切りたい」と言う記者の母(90代)だが、最近は外出が億劫になりがちで、近くの美容院に行くのもひと苦労の様子。
そこで、訪問理美容サービスの利用を検討することに――。訪問理美容の専門家に話を聞いた。
「『訪問理美容サービス』とは、主に高齢や疾病などの理由で美容院に行くことが難しいかたのために、理美容師がご自宅や施設まで伺ってヘアカットなどをするサービスです」と、訪問理美容師の赤木勝幸さんは話す。
赤木さんは、全国の「訪問理美容サービス」の質の向上や高齢者や介護が必要な人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることに尽力する協会「ふくりび」の理事長を務めている。
訪問理美容を利用する人は年々増えていて、調査※によると、訪問理美容の利用者数は、2020年では24.9%だったが2022年では27.1%になり、着実に伸びている。
※「ホットペッパービューティーアカデミー」インターネット調査。
→訪問理美容サービスの利用者数が増加 カットやシャンプー後「笑顔になる人」が5割超
「もっと多くのかたに訪問理美容サービスの存在を知っていただき、気軽に利用していただきたいですね」と語る赤木さんに、訪問理美容の利用法などについて詳しく伺った。
訪問理美容は介護保険の対象になる?利用者は?
「訪問理美容を利用できるのは、介護状態にあるかたや骨折などで外出が困難なかたです」(赤木さん、以下同)
訪問理美容は介護保険サービスの対象外だ。そのため、利用者は、要介護認定を受けている必要はないが、以下の2つのケースが理美容法※で定められている。
・要介護状態で外出が難しいケース(骨折、認知症、障がい、寝たきり等の要介護状態にある)。
・介護や育児などで家族の協力や行政等のサービスを利用できず、美容室や理容室に行くことで要介護者や子供の安全性が確保できないケース。
※厚生労働省「理容師法施行令第4条第1号及び美容師法施行令第4条第1号に基づく出張理容・出張美容の対象について」
訪問理美容のサービス内容や利用方法
訪問理美容は、理美容師が自宅に出張して行うほか、病院の入院患者さん向けや、介護施設やデイサービスなどで訪問理美容を実施するケースも。
訪問理美容で提供される主なサービスは、洗髪やヘアカット、ブロー、顔そりなど。希望によってはパーマやカラーにも対応するという。
「ご利用されるときは、事前にケアマネジャーや施設のスタッフに詳細を確認してくださいね。介護が必要なかたやご高齢のかたは、ご家族さまが予約いただくケースが多いです。
弊社の場合、ご自宅への訪問依頼の約9割は、ご家族やケアマネジャーなど福祉関係者のかたからいただいています」
利用料金は?自治体によっては補助券も
訪問理美容サービスの利用料金は、メニューにもよるが出張料・交通費込みで3000~5000円が相場だという。
「わたしたちの場合は、カット4000円(税別)、出張費用1500円(税別)で実施させていただいています。
自治体によっては補助券を使える場合もあるのでぜひ活用いただければと思います」
訪問理美容サービスの補助金制度については、住んでいる地域の保険福祉課窓口などに確認を。申請書を提出して認可されると補助券が発行される。
また、申請書や補助券を郵送してくれる場合もある。
たとえば、東京都世田谷区の場合、65才以上の要介護3~5で理美容院に行くことが困難な在宅要介護者(施設入居者は不可)は申請すると訪問理美容券を受け取ることができ、年間最大6回まで利用者負担が1000円で訪問理美容を利用できる。なお、洗髪は行っていない。
※参考/世田谷区「訪問理美容サービス」
※サービス内容や料金は自治体や訪問理美容サービス提供会社によって異なるのでご確認ください。
自宅で訪問理美容を利用するときに準備するものは?
在宅で訪問理美容サービスを受けるときに準備するものは何だろうか?
「ご自宅や施設で2畳ほどのスペースとイスがあれば大丈夫です。あれば鏡を前に立てかけて、イスに座っていただき、ケープをつけてカットをします。
床に髪が落ちるので最後にお掃除させていただくか、あらかじめシートなどを引いておくこともあります。
また、洗髪をする場合は、移動式のシャンプー台を持ち込んでいます。その際にお風呂場やキッチンでお湯やシャワーなどをお借りすることもあります。
お客様のご自宅の状況や体調を配慮しながら、おひとりおひとり丁寧にサービスをご提供させていただくことを心がけています」
洗髪やカットを嫌がるときの対処法は?
「認知症などで洗髪やヘアカットを嫌がるとご家族が悩まれていた利用者のかたがいらっしゃいました。
最初は怪訝そうでしたが、鏡の前で座って『パーマ屋さんですよ』とか『理美容師ですよ』などと声をかけると、一瞬パッと表情が明るくなって昔のことを思い出されたようで、『じゃあ、いつもみたいにパーマをかけてちょうだい、先生!』とおっしゃって、和やかな雰囲気でカットをさせていただきました。
事前にご家族様とお電話で状況や体調をしっかり確認し、ときにはケアマネさんなど介護スタッフのかたと担当者会議を設ける場合もありますので、安心してご利用いただけると思います。
ご高齢のかたの中には、ポマードやパーマの薬剤の匂いがきっかけで、昔の話を始めることも多いんですよ。昔から使用されていた化粧水や整髪料、たとえば『ブラバス』や『マンダム』、『ダイエースプレー』といった懐かしい香りがする商品をお持ちして、楽しみながらサービスを受けていただけるといいですよね」
髪がさっぱりしてキレイになると、笑顔も増える。実際に訪問理美容の利用者からは、多くの感謝の声が寄せられるという。
訪問理美容の利用者の声
入院で半年ほど美容室に行けなかった女性から、
「家まで来てくれて、本当にありがたい。退院したけどこんな髪では外に出られなくて…。これでやっと外に出かけられるわ」
と、手を合わせて拝まれたことがあるという赤木さん。
「訪問理美容で多くの高齢者のヘアケアを担当してきましたが、若い頃にミニスカートやパンタロンが流行っていた現在のシニア世代には、ファッションやヘアに関して美意識が高いかたが多いと感じますね。
髪を美しく整えることで気持ちが明るく前向きになったというかたも多い。高齢化が進む中、美容の持つ力が改めて見直されていくと感じています」
年齢を重ね、介護が必要になっても「キレイでいたい」という思いを持ち続けて欲しいと赤木さんは語る。
記者も母と相談し、訪問理美容を活用して母の笑顔になる姿を見てみたいと感じた。
取材・文/本上夕貴
教えてくれた人
訪問理美容師・赤木勝幸さん
NPO全国福祉理美容師養成協会「ふくりび」理事長。1968年生まれ。15才から国際NGOでのカットボランティアを開始。1995年に独立開業し、訪問理美容の普及活動を開始。2007年に訪問理美容師の育成や高齢者・障がいのあるかたなど要介護者と、介護者双方のQOL向上に尽力する協会「ふくりび」を設立。「誰もがその人らしく美しく過ごせる社会の実現」を目指している。2022年にがん患者向けのアピアランスサポートセンターや嚥下食カフェなどを併設する福祉複合施設『TOTONOU』(愛知・長久手)を開設。2008年社会貢献支援財団社会貢献賞受賞。著書に、『訪問理美容スタートBOOK(女性モード社)」。「がん闘病中の髪・肌・爪のサポートブック(英治出版)」など。
http://www.fukuribi.jp/
●介護美容研究所 山際聡さんの思い「美容の力で介護を変える」