連載

認知症の母のいる実家に「年末年始帰省しない」3つの理由

 介護作家の工藤広伸さんは、岩手に住む認知症の母の介護を東京から遠距離で続けている。祖母や父の介護経験もあり、その中で学んだこと、実践したことなどをブログや書籍で広く発信中だ。

 月に2回盛岡に通う日々を送る工藤さんだが、年末年始にはあえて帰省をしない。これには、遠距離で介護をする家族ならではの理由があるからだという。

 ”しれっと”介護をモットーとする工藤さんが語る介護術は、常識や既成概念にはとらわれずに、介護が必要な人も介護をする人もより、快適に暮らす知恵に溢れている。少し視点を変えて介護してみませんか?

→認知症の母のラーメン調理に立ち会ってわかった衝撃の作り方【認知症介護の日常】

 * * *

 年末年始にふるさとへ帰り、家族と一緒にゆっくり過ごすという予定の方も多いと思います。わたしも、盛岡にいる母と一緒に年末年始を過ごすと思われることが多いのですが、帰省する予定はありません。

 年末年始に帰省をしない理由は、3つあります。

お正月に営業しているデイサービスもある

 1つ目は、母が通うデイサービスが365日営業で、自宅にいるよりもデイサービスに行ったほうが、お正月の雰囲気を味わうことができるからです。

母のデイサービスの利用は週2回で、火曜日と金曜日です。2019年の元旦はちょうど火曜日なので、母はデイサービスを利用できます。

 ケアマネジャーでも、元旦はデイサービスが休みだと思うようで、サービス利用票(介護保険サービスの利用時間、サービスを提供する事業所、利用する日付などが記載されている票)の元旦の欄を「休み」にしたことが、過去に2度ありました。

 デイサービスの職員は、この票を見ながら、母の送迎を決めています。そのため、母の迎えに来なかったことがありました。一方の母は、わたしがカレンダーに書いたスケジュール通りに動くので、デイサービスの送迎をずっと待っていました。

 岩手にいる妹が、たまたま実家に行ったおかげで異変に気づき、わたしが東京からデイサービスへ電話をして、母を迎えに行ってもらって、30分遅れでデイサービスに行ったことがありました。

 お正月に食べる、おせち料理やお雑煮。料理が得意だった母は、以前は自分で作ることができたのですが、認知症の進行によって、それも難しくなってしまいました。デイサービスに行けば、豪勢なおせち料理は提供されなくとも、正月らしい食事は提供されます。

 また、わが家では市販の鏡もちを飾るくらいの演出しかできませんが、デイサービスでは、部屋の飾り付けもしてあるので、自宅以上に正月の雰囲気を感じることができます。

 そのため、わたしは帰省せず、母には正月でもいつもと変わらずデイサービスを利用してもらっています。

年末年始は病院や銀行が休み

 2つ目に、年末年始に母の病院の付き添いができないからです。母をもの忘れ外来や眼科、歯科など、ほぼ毎月連れて行くのですが、この時期に病院は営業していません。

 また、役所などの事務手続きもできませんし、銀行もお休みです。介護する側にとって、年末年始はできないことが増える時期でもあります。

 年末年始に帰省をし、正月明けにまた帰省をして、病院へ連れて行ったり、銀行に行ったりするのは効率が悪いので、年末年始はあえて帰省をしません。

年末年始は交通費が高く、人混みで疲れる

 3つ目は、交通費の問題です。

 わが家で1か月にかかる遠距離介護の交通費は、約4万円です。交通費をどうやって節約しているかというと、JR東日本系列の会社が運営しているサイト「えきねっと」で、新幹線を予約することで、通常運賃の30%から35%OFFの価格で、チケットを購入できます。

 年末年始は、この割引チケットの枠が少なくなるため、入手が困難になります。そのため、通常運賃に近い価格のチケットを購入することになります。

 東京・盛岡間を年間約20往復しているわたしにとって、交通費の節約は必須です。高い運賃を払ってまで、年末年始に帰省する必要はないと考えています。

 また、年末年始の帰省ラッシュ時は、新幹線の車内、駅のホームに人があふれています。人混みの中の移動は疲れるという理由からも、わたしは年末年始には帰省をしません。

年末年始でもいつもと変わらぬスケジュールで動く

 わたしの年末年始は、都内で家族と過ごす時間にあてています。妻と初詣でに行ったり、百貨店の初売りに行ったり、家でゆっくり過ごすこともあります。

 通常、盛岡1週間、東京2週間というスケジュールで遠距離介護生活をしていますが、年末年始も、いつもと変わらないスケジュールで動いています。

 ただし、母が年末年始を快適に過ごせるように、わたしはクリスマス前までに、いろいろな準備を終わらせておきます。例えば、年賀状を出す、灯油の在庫があるかを確認する、ヘルパーさんに、いつも以上に多く食材を買ってもらうように手配するなどの準備です。

 デイサービスはお正月も営業していますが、訪問リハビリはお休みですし、ヘルパーさんも3が日に来て頂くこともできるのですが、この時期は利用していません。代わりに、妹が母の様子を見にいっています。

 

 年末年始しかお休みが取れないという方も多いと思いますが、1月の祝日である成人の日前後で有給や代休を使って、連休にするなどして、帰省を少しずらしてみるという方法もあるかと思います。

 わたしも会社勤めをしていた頃は、この方法で帰省時期をずらして、交通費の節約をしたり、役所や銀行などの事務手続きをしたりしていました。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

 

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●認知症の母が切り抜いた新聞記事が切なすぎた話

●年末年始の帰省をより良いものに!「優しい嘘」の活用術

●帰省して発覚!認知症かも…と思ったときの4つの対処法

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この記事へのみんなのコメント

  • 春子

    岩手に妹さんが居らっしゃる。 この事実が、カメラ監視介護を可能にしている。 この方の恵まれた特殊な事例ですね。 参考になるのは、ごく少数派では?

  • 丼子

    妹さんのお気持ちも知りたいです。

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