年末年始の帰省をより良いものに!「優しい嘘」の活用術
盛岡在住で認知症の母を東京から遠距離で介護している工藤広伸さん。ご自身の経験をブログや書籍などで発信する、家族の視点で”気づいた”、”学んだ”エピソードの数々は、とても役に立つと評判だ。当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、介護中の人へのアドバイスのみならず、介護を始める前の人にも知ってもらいたいことが満載。
今回は、年末年始の帰省などで家族で過ごすことが多くなるこの時期ならではのアドバイス。久しぶりに会った親の変化に気づいたとき、どんな対応したらいいのか…、必見!
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年末年始、故郷へ帰る途中でこのコラムを読んでいる方も多いと思います。久しぶりに会った家族が同じことを何度も言ってみたり、孫の名前を忘れてしまったりしたとき、介護の不安が頭をよぎるかもしれません。
そんなときストレートな物言いが原因で家族とケンカをして、せっかくの年末年始を台無しにしてしまう可能性もあります。家族と穏やかで楽しい休日を過ごすために、「優しい嘘を活用する」という提案をしたいと思います。
年末年始が家族にとって大切なワケ
わたしは「年末年始の帰省で、両親や祖父母の異変に気づいた」という声を、ブログやSNSで頂くことが多いです。
なぜ家族にとって、この年末年始が大切かというと、大晦日やお正月は1年に1回しかない行事なので、今まで出来ていたことが急に出来なくなることを見抜くいい機会だからです。
例えば孫のお年玉を準備していなかったり、来年のカレンダーを用意していなかったり、年越しそばの味付けが変わっていたり、おせち料理の作り方を忘れてしまっていたりすることもあります。
いずれも1年に1回しかやらないことなので、忘れやすいのだと思います。そんなとき、
「お母さん、年越しそばの作り方、思い出せないの?」
「お父さん、孫のお年玉の準備、まだできてないの?」
と、できないことを真正面から指摘してしまうと、
「うるさい!ちょっと忘れてしまっただけだよ!」
と、帰省早々にケンカをしてしまって、気まずい年末年始を過ごしてしまうことになるかもしれません。そうならないよう、ここは介護している人がよく使う「優しい嘘」を活用してみてはいかがでしょうか?
認知症の人の言うことを否定しない
お父さんが孫のお年玉の準備をできていなかったのは、たまたま忘れていただけかもしれません。仮に認知症の疑いがあったとしても、この段階では本人に自覚がないので、ストレートに注意すれば、ケンカになるのは当たり前だと思います。
「お母さん、体調悪そうだから、私が年越しそばの準備をするね」
「お父さん、そういえば銀行お休みだったわね」
たとえ、お母さんの体調が良好でも、お父さんがコンビニのATMでお金が下ろせることが分かっていても、こういった「優しい嘘」で対応することで、本人のプライドは傷つきませんし、ケンカにもなりません。
この「優しい嘘」は、認知症介護をしている人はよく使うテクニックです。
「認知症の人の言うことを否定しないために、嘘をつく」ことで、認知症の人が穏やかになることもあります。
介護が始まるかもしれない人、あるいは介護を始めたばかりの人の多くは、家族が認知症の疑いがあることを認めたくないものです。だから物言いがストレートになってしまうし、「優しい嘘」をつくことが難しいのだと思います。
しかし、この年末年始という短い時間を楽しく穏やかに過ごすためにも、「優しい嘘」を利用してみてもいいかと思います。
「嘘」が助けてくれること
どんなに優しい嘘であったとしても、「嘘をつく」という行為自体に罪悪感を持ち、自分を責めてしまう人がいます。「嘘をつくことは悪いこと」だと、小さい頃から親にしつけられた人もいるでしょう。学校の先生に「正直に生きなさい」と言われ、それを信じて生きてきた人もいるでしょう。
しかし、介護が必要になると、この「嘘」がとても大切になります。認知症の母とわたしは、この「嘘」をうまく利用しながら生活しているので、とても穏やかな日々を送ることができています。
わたしは40歳の時に介護離職をして、認知症の母を在宅で遠距離介護しています。東京に2週間、岩手に1週間という滞在ペースを守って6年目になりますが、この生活を可能にしているのが、フリーランスという働き方です。
母をものわすれ外来へ連れて行ったり、歯医者へ連れて行ったりできるのは、自分で仕事と介護のスケジュールを自由に決めることができるからです。
しかし、母にとってフリーランスは、未知の働き方です。母は「自分の介護のために、息子が会社を辞めてしまった」と強く責任を感じてしまうと思いました。
何かいい方法はないかと考えたとき、わたしは全国に支店がある大企業に勤めていて、岩手にもその仕事のために頻繁に帰省しているという「嘘」の設定を思いついたのです。
「今週は大事な会議が岩手であるから、帰るわ。空いている時間で、ものわすれ外来にも行くから」
この設定を6年も続けていると、嘘を嘘と感じることがなくなりました。むしろ母子の円滑なコミュニケーションツールとして、すごく便利でありがたいものだと感じるようにまでなりました。
介護している人は、嘘を上手に活用することができます。久しぶりに会う家族の異変に気づいたとしても、優しい嘘で対応してみてください。
あわせて、家族ができなくなったことは何か、どんな異変に気づいたのかをメモに残しておくと、病院に連れて行った際に役立つことがあります。
皆さま、よいお年をお迎えください!
今日もしれっと、しれっと。
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「『認知症介護は過酷なもの』と思っている方は多いと思います。しかし『認知症って、そんなに悪くないよね』と思える瞬間もあります。わたしの介護体験を通じて、今介護している皆さまの気持ちを少しだけ軽くできたら…そんな思いで書いた作品です」(工藤さん)。当サイトでも人気の工藤さんの”しれっと介護”の極意がつまった、介護がラクになるヒント満載、エピソードの数々に心が温かくなる一冊です。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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