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やってはいけない【睡眠】最新データ!1日8時間以上眠ると死亡率が上昇

 世界的に見て、日本人の睡眠時間は非常に短い。経済協力開発機構(OECD)が発表した先進国の平均睡眠時間データ(2014年)によれば、最長の南アフリカが9時間13分だったのに対し、日本はわずか7時間22分だった。

睡眠不足が命にかかわることも

 実は、日本人の睡眠時間は年々ゆるやかなカーブで減り続けている。NHKの国民生活時間調査(2015年)によると、この50年で1時間ほど減ったことになっている。

 さらにショッキングなことに、日本人は男性よりも女性の方が睡眠時間が短いという結果が出ている。つまり、日本人女性は世界有数の“ショートスリーパー”というわけだ。もちろん、男女ともに必要な睡眠時間は同じだと考えられている。

 睡眠不足はもとより、その質の悪さが健康に悪影響を与えると指摘するのは、東京医科大学精神医学分野の志村哲祥先生だ。

「よい睡眠を充分とれていないことは、肥満を招いたり、高血圧や糖尿病の原因になる。そればかりか、うつ病やがん、認知症の原因にもなることが最近の研究でわかってきています」

 志村先生によると、睡眠障害による病名は、なんと70以上に分類できるほど多岐にわたるという。“寝不足くらい大丈夫だろう”と軽視していると、命にかかわることにもなりかねないのだ。

危険な睡眠 Q&A

 では、具体的に「危険な睡眠」とはどういったものか。Q&Aで見ていこう。

Q.睡眠時間が6時間以下です
A.乳がん、糖尿病、肥満、うつ病のリスクが増大します

 睡眠といえば、まずは「何時間眠ればいいのか」という素朴な疑問が浮かぶ。睡眠障害に詳しい雨晴クリニック副院長の坪田聡先生が解説する。

「日本人の男女10万人を10年間追跡調査した研究データでは、睡眠時間が6時間半~7時間半の人が最も死亡率が低いという結果が出ています。これより短くても長くても、死亡率は増加する。ただし、必要な睡眠時間には個人差があるほか、年代によっても変化します」

 病気を招く睡眠時間の境界は「6時間」といわれる。1994年、宮城県で40~79才の女性、約2万8000人を対象に行われた調査では、睡眠時間を「6時間以下」、「7時間」、「8時間」、「8時間以上」に分けて7年間追跡調査。すると、「6時間以下」のグループの乳がん発生率が有意に高かったというのだ。

 

 また、米シカゴ大学の研究チームが健康な若者の睡眠時間を4時間に制限したところ、わずか1週間で体内が高血糖状態になったという。これは睡眠不足により、血糖の量をコントロールする「インスリン」の働きが弱まっているからだとみられる。さらに、同大学は別の研究で、睡眠不足により高血圧のリスクが増すことも突き止めている。前出の志村先生が解説する。

「米ペンシルベニア州立大学医学部の研究では、中年のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群、以下メタボ)患者で、かつ6時間以下しか睡眠をとっていない人を追跡調査すると、20年後に40%が死亡していたとの結果が出ています。メタボではなく6時間以上眠っている人は85%が生存しているので、肥満と睡眠不足が重なると“死のリスクが高い”ことがわかりました」

 メンタルの病気であるうつ病もまたしかり。厚生労働省がまとめる「自殺対策白書」では日本の15~34才の若者の死因第1位が自殺となっている。
「充分な睡眠がとれていない若者は、うつ病の発病リスクが高まります。睡眠が8時間未満の若者は、8時間以上眠っている人の2.9倍も自殺が増えるという論文もあるほどです。若者の自殺率が高いのは、睡眠不足が深刻なわが国の状況が一因ではないかと推測しています」(志村先生)

 日本では「早寝早起き」が推奨されるが、若者はもともと「夜型化」する体内時計を持っていることが最新研究で判明。現に、アメリカやイギリスでは、学校の始業時間を午前10時などに遅らせた結果、成績がアップするケースが続出しているという。

Q.1日8時間以上、眠ってしまいます
A.死亡率が上昇します

 睡眠不足は体はおろか、心まで蝕んでいく。ただ、睡眠時間は長ければ長いほどいい、というわけではない。

睡眠時間が長すぎると死亡率が上昇するというデータがあるなど、“寝すぎ”のデメリットが判明してきています。睡眠に必要な時間には個人差があるものの、特に高齢になれば8時間眠ることは難しくなってくるのが普通ですし、自然なことでもあります」(坪田先生)

 年を取ると長時間眠れなくなってくるが、悲観的になる必要はないようだ。「寝すぎると死亡率が上がる」のはどうしてなのか。

「本来、人間は必要なだけ眠ったら、それ以上は眠れなくなるようにできています。それでも眠れてしまうというのは、体内に何らかの炎症が起きている可能性が高い。炎症は風邪やがんなどさまざまな病気によって起きる、体の防御反応です。何らかの病気を抱えているならば、死亡率が高まるのも当然と言えます。いずれにしても、必要な時間を超えて布団にいること自体が不眠の原因になりますので、布団は睡眠のときだけ使うというのが大事です」(志村先生)

Q.寝る直前までスマホを触っています
A.乳がん、大腸がん、子宮がんのリスクが増大します

「夜間、眠らずに明るい場所にいると、乳がんや大腸がん、子宮がんのリスクが高まります」

 こう指摘するのは、前出の宮崎先生。その原因として、夜暗くなると体内で分泌される物質、「メラトニン」が不足することにあると解説する。

「メラトニンには抗酸化作用という、活性酸素を中和する作用や、抗がん作用があります。本来、朝日を浴びてから14~16時間後に脳内の松果体から分泌が始まります。しかし、夜になっても蛍光灯など強い光を浴び続けるとメラトニンが出なくなり、がんの発生につながると推測されています」

 トイレに起きるときや不慮の事態に備え、寝室を少し明るくして寝ている人もいるはずだが、それもよくない。志村先生が言う。

「睡眠中の薄明かりの睡眠への悪影響が複数報告されています。特に奈良県での大規模な調査では、寝室に豆電球の明かりがついているだけで、代謝に悪影響が出て太りやすいと報告されています。蛍光灯が数百ルクスなのに比べ、豆電球は3ルクス程度ですが、それでも軽視してはいけないという結果です」

 もちろんよくいわれているように、寝る前にスマホやパソコンなどの画面を見るのはもっとよくない。モニターからはブルーライトという人間が昼夜を判別する成分の光が出ているため、脳や体を覚醒させてしまうのだ。

Q.昼寝を1時間以上してしまいます
A.認知症のリスクが2倍になります

 一般に、昼寝は脳を休息させ、午後の活力にもなることから推奨されているが、実はその時間によっては、認知症のリスクを高めるという。宮崎先生が話す。

「高齢者337人のアルツハイマー型認知症患者とその配偶者260人を対象に行った調査では、昼寝を1時間以上する人は、しない人に比べて認知症のリスクが2倍になることがわかりました。

 また昼寝が30分以内の人は、昼寝をしない人に比べ、認知症が約6分の1に減りました。その原因は、夜の睡眠への影響です。つまり、1時間以上の長い昼寝は夜の睡眠に差しさわりがあり、30分なら睡眠の質をよくする、というわけです」

 適正な昼寝時間は、小中学生なら10分以内、55才未満なら10~15分程度だとされている。

Q.いびきを家族から指摘されます
A.脳血管疾患のリスクが3.1倍、糖尿病が2.3倍、高血圧が2.1倍、認知症が2倍になります

 冬になり、湿度が低下すると知らず知らずのうちに鼻が詰まり、無意識に口呼吸になりがちだ。それによって、冬はいびきをかく人が男女ともに増える季節だ。

 そのタイプのいびきは「単純性いびき症」と呼ばれるもので、特に心配は要らない。とはいえ、睡眠中1時間あたり5回以上の無呼吸や低呼吸が生じると「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」に分類され、こちらは注意が必要だ。

「若いうちは男性に多いSASですが、年を経るにつれ女性にも増加、高齢者では、ほぼ男女比が同じくらいになります」(坪田先生)

 SASになると、脳が低酸素状態にさらされることで、多くの病気を引き起こす。

「脳の神経細胞が壊れて神経が変性を起こすことで、認知症のリスクが2倍になります。同様に、脳梗塞や脳溢血などの脳血管疾患が3.1倍、心疾患が3.2倍、糖尿病が2.3倍、高血圧が2.1倍と、各段に病気になりやすくなる」(宮崎先生)

 なんとも恐ろしい話だが、前出の志村先生もSASのリスクについてこう話す。

重症のSASを放置したままにすると、8年のうちに4割の人が死亡するという研究報告があります。重度のかたは決して多くはありませんが、治療しないでいると症状が進行してしまう可能性があります。命を奪う病気であることを認識し、積極的に治療を受けていただきたい」

 いびきの治療は、下あごを少し前に出すようなマウスピースの装着や、口呼吸を防ぐため医療用テープで口を閉じて眠るなどが一般的だ。

「通常、睡眠中には『抗利尿ホルモン』という、尿があまり作られないようにする物質が出るのですが、アルコールを飲むと、それが効かなくなる。脳を興奮させ、睡眠の質を下げることもわかっているので、特に寝る前のお酒は控えましょう」(坪田先生)

 また、トイレに立つ際も注意が必要だ。布団と部屋との温度差で命にかかわる事態になることもあるからだ。

「布団の中は33℃程度になりますが、そこから急に寒い室内に出ると血圧が上がり、心筋梗塞や脳梗塞になることも。睡眠中もエアコンを使い、快適な室温といわれる15~16℃くらいを保っておけば、そういったリスクを減らせます」(坪田先生)

Q.子供を早起きさせています
A.認知機能の低下を引き起こす可能性があります

 前述のとおり、睡眠をとるのにベストな時間帯は年齢ごとに変化する。

「一般に、小学生は夜10時半くらいから10時間の睡眠をとるのが標準的ですが、思春期に入るとどんどん夜型化します。20才くらいで夜型化はピークを迎え、深夜1時頃に寝て、朝9~10時頃に起きるのが平均的なリズムになっていく。逆にそれ以降は朝型化していき、中年からシニアにかけては午前0時に寝て朝6時に起きるような形に落ち着きます。若者が生理的に夜型化する原因はわかっていませんが、中高生や大学生は一般的には朝遅い時間に目覚めるのが普通という体内時計を持っていることが判明しています」(志村先生)

 中高生が朝練などで早朝に起きる生活を続けると、本来寝ている時間に起こされ、睡眠時間が不足する上、認知機能にも悪影響を及ぼすという。

「いわゆる不登校の子は、単に早すぎる時間に起こされていることが原因だというケースも少なくない。海外ではそれを改めようという動きもあります」(志村先生)

 よく「人生の3分の1は睡眠」といわれる。日本人は世界でも睡眠に無頓着な国民だが、充実した生活を送るためには満たされた睡眠が必須なのだ。

※女性セブン2018年11月1日号

●理想の睡眠時間は?日本人は寝不足、肥満や生活習慣病のリスクも

●高反発マットレスはよりよい眠りに好影響!「睡眠負債」提唱らの共同研究結果

●黒柳徹子実践の睡眠法「二度寝」 高齢者には理に適っている

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