高反発マットレスはよりよい眠りに好影響!「睡眠負債」提唱らの共同研究結果
暑い日々が続いているが、高齢者にとっていかに夏の夜の睡眠を快適に過ごすかが健康にとっては重要だ。「寝ている時にエアコンを使うのは贅沢だ」などの理由で暑い部屋で寝続け、熱中症で命を落とすこともあるほどの猛暑が続いているだけに、“夏の快眠”について考えていきたい。その際に鍵となるのが、米科学誌「PLOS ONE(プロス・ワン)」に掲載された「よりよい睡眠が得られる寝具」に関する論文だ。
「睡眠負債」提唱者らによる共同研究でわかったこと
これは2017年の流行語大賞トップ10に入った「睡眠負債」の提唱者でもあるスタンフォード大学医学部教授・睡眠生体リズム研究所所長・西野精治氏と慈恵医大准教授・太田睡眠科学センター所長・千葉伸太郎氏、そして寝具メーカー・エアウィーヴによる共同研究。そこで、30万部超のベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者でもある西野氏に快眠について聞いてきた。
論文の主旨は「若年者、高齢者ともに高反発のマットレスパッド(エアウィーヴ)を使用した方が、低反発マットレスを使用した時に比べて、睡眠初期の深部体温がより大きく持続的に低下し、深い睡眠量が増加するということが明らかになった」ことが一つ。
また、同社のマットレスはより小さな筋肉の動きで寝返りがしやすいとのことで、これら2つの要素から深い休息に繋がり、寝具の選択が睡眠の質を向上させるための重要要素であることが明らかになったのだという。学術論文の『PLOS ONE』にも実名で掲載されているが、比較に使われているのが、世界でも最も有名なウレタン製の低反発素材(MEMORY FOAM)のマットレスだという。
「元々『PLOS ONE』は生物医学の分野でインパクトのある雑誌のため、睡眠の研究は掲載されることはありましたが、今回は“寝具”そのものが載りました。生物・医学系の雑誌では見た記憶がないため、そういう研究を掲載してくれるかな、という心配はありました。ただ実際に体温に対する効果が顕著な差が出ているということで、実験した我々も、審査する人からしても、びっくりするようなことでした」(西野氏、以下「」内同)
寝具の研究論文が掲載されたことに西野氏は驚いたが、寝具がそこまで快眠に影響をそこまで与えるとは思っていなかったという。元々は8年前、エアウィーヴの高岡本州会長兼社長と出会い、寝具の質が快眠に影響を与えるかどうかを調べてほしいと言われたことが研究の発端だ。当初西野氏は懐疑的だったため、有意な数字は出ないかもしれないと伝えたが、研究を進めると有意な差は出た。そして、今回の論文の肝は、高反発マットレスでは睡眠初期により大きく、持続的な体温低下がみられ、深い睡眠量が増加した、というものだ。実験は高反発のマットレスと低反発のマットレスに被験者に別々の日に寝てもらい、体温を測るやり方を採った。その結果、高反発のマットレスでは就寝後から速やかに体温が下降して、低反発と比べ、0.3℃~0.4℃の差が出た(以下のグラフ参照)。
「私自身がびっくりしたのは、4cmほどの厚みぐらいでそんなに差が出るということです。寝具が重要なものであることがわかったのです。体温は昼間が高くて、夜が低い、の繰り返しです。なんでそうなるかといえば、生物の生存において、温度の上下が必要だということです。活動期には体温が高くなって活発に動いて食べ物を捕食する。夜になったら休息し、体温は低くなります。体温の調整というのは、パフォーマンスや休息には重要なことです。熱を“作る方”と“逃がす方”の作用で体温は調整される。“作る方”は、筋肉、内臓、脂肪であり、身体を動かしたり基礎代謝によって作られます。“下がる方”は、主に手足からの熱放散です。ラジエーターみたいな感じで、静脈を通して体を循環します。夜は昼間よりも2℃ぐらい低くなります。しかし、寝具が影響するという発想は元々はありませんでした」
部屋の環境づくりと睡眠薬の使用法
体温の変化が生まれることが快眠へのカギだというが、今年の暑い夜はどのように過ごせばいいのか。睡眠時に体温を下げることの重要性を説く西野氏は、部屋の環境も重要だと語る。
「“睡眠にいい室温は?”みたいなことを書いているサイトがありますが、そこでは冬19度、夏26度とかあります。でも、私達が光熱費を考えない時は、そんな設定にはしないでしょう? それこそホテルに泊まった時など、電気代を考えなければ冬は22度や夏は24度とかにするのではないでしょうか。それがその人にとっては快眠の条件なのでしょう。そして、年間通じて一定の温度にして通気性があって、自然な体温の動きを助ける寝具が重要です。そもそも“寝られない”というのは朝から始まっているものです。朝から体を使って太陽の光を浴び、夕方からカームダウンして、オフにする。このメリハリが大事です」
なお、寝られない場合に睡眠薬を頼る人もいるだろうが、西野氏はその飲み方には注意が必要だと語る。
「鎮静作用のある睡眠薬というものは、病気でなくても不眠症でなくても寝てしまうものです。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は入眠はよくなりますが、筋弛緩の作用や、アムネジアといって健忘が出たりします。特に酒を一緒に飲むと増強し合って転倒して骨折したりする危険性があります。そういう薬は第一に使うべきではないですが、けっこう使うお医者さんもいるのも現実です。そこには勉強不足の面もあり、睡眠の専門家が出すのではなく、開業医が簡単に出している現状があります。メラトニン受容体作動薬が効かないという人もいますが、これは安全の証。メラトニンの分泌に問題がないのだから効かないのですよ」
西野精治
医学博士/日本睡眠学会睡眠医療認定医/Journal Sleep編集委員。『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版』著者。一般社団法人 良質睡眠研究機構(iSSS)代表理事。