母の「障害福祉サービス」区分変更調査に立ち会った元ヤングケアラーが戸惑いと罪悪感を感じた理由
高次脳機能障害の母を幼い頃からケアしてきた元ヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん。母のケアに活用している「障害福祉サービス」の支援区分が3年ぶりの更新となり、主治医の意見書が必要に。ヤングケアラーが親の認定調査に関わるときの課題や問題点を考察する。
障害福祉サービスの認定調査とは?
障害福祉サービスを利用する際には、1~6段階の「障害支援区分」の認定を受ける必要がある。介護福祉サービスで言うところの「要介護度区分」のようなものだ。一度認定を受けると、3年ごとに更新のための調査がある。
母も今年の4月で前回の調査から3年が経ったので、再度認定調査を受けることに。
これまでの母の障害支援区分は2だった。障害者総合支援法では区分によって使えるサービスが決まっている。
以前、行動援護サービスを利用しようとして市に問い合わせた際、区分3からでないと利用できないと言われ、結局、本人のための外出は家族が付き添っている。利用したいときに利用したいサービスが使えないことは不便だと思った。
また、区分認定が降りたときには深く考えなかったが、後になって、こんなに母の介護は大変なのに支援区分が6段階中の2段階というのは納得できないと感じた。
そこで市に再認定を要求すると、「すぐに使いたいサービスがあって、そのためには区分が足りないというわけではないのならば、次の更新を待ってもよいのではないか」と言われた。その時点ではデイサービス以外のサービスを利用するイメージがすぐに思い浮かばず、結局、次の更新時期である今年4月を待つことになった。
→ヤングケアラーの実体験 障害のある母と歩むたろべえさんが公的サービスに辿り着くまで
主治医の意見書の聞き取り調査
今年3月、母が血圧の薬を処方してもらっている病院から「市から認定調査のための主治医の意見書を提出するように連絡があったので、診察を受けに来て欲しい」と電話があった。
市からではなく病院から先に連絡があると思っていなかったので少々驚いたが、主治医の意見書に関しては病院と市が直接やりとりをするとのことだった。
病院に行くと、まず看護師さんからの聞き取り調査があった。
「認定調査あるある」だと思うが、母は自分では何でもできるつもりでいるので、「立つのはできますか?」「お風呂には入れますか?」などと質問されたことに、調子よく「できます!」「できます!」と答えていく。
看護師さんは「私にはよいけれど、市の人にはあんまりできるできるって言っちゃダメよ。いざ助けて欲しいときに助けてもらえなくなっちゃうから」とやんわりと受け止めつつ、母本人だけではなく私の言い分も聞いてくれた。
区分を上げるために嘘をつく?
立ち座りなど身体の動きについての質問は比較的答えやすかったが、その他の質問項目はどう答えたらいいのかわからないものも多かった。
例えば、生活リズムについての質問では、生活リズムが崩れて昼夜逆転してしまうことがないか聞かれるが、母は基本的に生活リズムが崩れることはない。逆に自分の決まったルーチンがあり、その通りに生活できなくなることを嫌う。
周りが母のペースを尊重して動いて日々の生活が成り立っていることを考えると、支援が必要だということになるが、この質問項目では支援は必要ないことになってしまう。
一応、口頭で看護師さんには伝えたが、聞かれた質問に対する回答ではないのでどこまで区分認定に反映されるかわからない。
また、決して十分とは言えないが、本人なりにはやっていることを「できない」と言ってしまうのはいけないのではないか? と戸惑う質問も多かった。区分を上げて欲しいがために嘘をついて「できない母」を作り上げているような罪悪感があったのだ。
できること、できないことの答え方
後から調べると、厚生労働省では障害者総合支援法のポイントとして、「障害の程度と支援の程度はイコールではないこと」を挙げていて、例えば「障害が重度で、入浴できず清拭のみ行っている場合」と「障害が軽度で、自分で入浴できるが、行為が不十分なため、全面的に支援者等がやり直している場合」の支援度はどちらも「全面的な支援が必要」と判断するとのことだった。
しかし、我が家の場合は、本人の行為が不十分でもあえて支援はしていない場面も多い。そんなときはどうするのか調べてみると、『「実際に行われている支援」ではなく、「本来行うべき支援」に基づく判断でよい』とのことだった。
また、「できるとき」と「できないとき」がある場合は「できないとき」に合わせて判断してよいとのことで、「完全にできていないわけじゃないのにできないと言っていいのだろうか…」と悩む必要はなかったことがわかった。
ヤングケアラーには説明する人の存在が必要
「今回こそ、正当な評価をしてもらって区分認定を受けるぞ!」と思っていたにも関わらず、事前に資料を調べて対策していかなかったのは甘かったが、日頃ケアをしている人は忙しいので、個人の努力に任せずに質問紙に注意事項として書いておいたり、事前に説明してもらう時間があったりしてもよかったのでは?とも思った。
特に知識の不十分なヤングケアラーに対しては丁寧に説明してくれる人の存在が必要だと痛感した。
看護師さんによる聞き取りの次は医師による診断だったが、脳のCTをこれまでに全く撮っていなかったとのことで撮影した。
後日、市ともやりとりをしたが、3年前の主治医と今回の主治医が違っていたり(だからCTを撮ったことがなかったのだ・・・)、認定調査員が来る日程の連絡が区分認定の有効期限間近になっても来なかったりなど、なかなかスムーズには進まなかった。
自治体にもよるのかもしれないが、市に頼らず自分で調べなくてはならないことが多く、骨が折れる。ケアが大変だというと「サービスを使えばいいじゃん!」と言われることが多いが、サービスを利用するまでもなかなか大変なのだ。
次回は実際にケアマネの立ち会いのもと認定調査を行った話をしたいと思う。
参考/厚生労働省「障害支援区分に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/10.pdf
厚生労働省「障害者総合支援法における障害支援区分 医師意見書記載の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000736750.pdf
厚生労働省「障害支援区分に係る研修資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000481907.pdf
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
・ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
・ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
・相談窓口
・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」
児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
文/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名でブログやSNSで情報を発信中。本名は、高橋唯。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。第57回「NHK障害福祉賞」でヤングケアラーについて綴った作文が優秀賞を受賞。
https://twitter.com/withkouzimam https://ameblo.jp/tarobee1515/
●「障がい者立位テニス」を知っていますか?元ヤングケアラーとその父が注目する支援のあり方