「今日は何日?何曜日なの」と何度も聞いてくる認知症の母に息子が用意した道具と使い方
離れて暮らす認知症の母親を介護している“遠距離介護”のエキスパート、作家でブロガーの工藤広伸さんが、新たな著書『親の見守り・介護をラクにする 道具・アイデア・考えること』(翔泳社)を上梓し、話題になっている。著書では、10年を超える遠距離介護の経験から、本当に頼れる“道具”とその使い方を紹介している。執筆の背景や思いを聞いた。
我が家の認知症介護は道具が5割
「我が家の認知症介護は“道具が5割”。介護保険サービスが2割、家族による見守りが3割ほど。それだけ母の介護では、道具が頼りになっているんです」
こう語るのは、岩手・盛岡で暮らす認知症で要介護3の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さんだ。
「母の場合、ヘルパーさんや訪問看護、デイサービスなど介護保険を利用して人の手を借りて介護をしている時間は、1週間168時間のうち25時間でした。約15%しかカバーできないんです。残りの85%はどうするのかといえば、道具を使っているわけです。
便利な道具を使うことで、親にいつまでも元気で暮らしてほしいし、自分の介護もラクにできたらいいと思うんです」
新著『親の見守り・介護をラクにする 道具・アイデア・考えること』(翔泳社)には、介護ベッドや手すりなど介護保険サービスが使える福祉用具のほか、介護保険には対応していないが介護に使える道具もたくさん紹介されている。
見守りカメラやスマートスピーカーといった最新機器から、洗濯機やテレビといった身近な家電まで、「道具は選び方や使い方次第で介護がラクになる」と工藤さんは力説する。
著書の最終章で「介護で本当に役に立った道具のランキング」を公開している。その一部を紹介していこう。
認知症介護に役立つ「デジタル電波時計」
「認知症の母は、『今日は何日なの?』『今日は何曜日なの?』と何度も何度も聞いてくることがあります。母はカレンダーを見ても今日が何日なのか認識できなくなってきているんです。
そこで、カレンダーの下に“デジタル電波時計”を設置してみると、今日の日付や曜日がはっきり明示されるので、それを見て今日が何日で何曜日が理解して、カレンダーに書いてある予定を把握できるようになりました」
工藤さんのブログの読者からも、デジタル電波時計を設置したら、認知症の親が『何日なの?何曜日なの?』と聞かれることがなくなったという声がよく届くそうだ。
「我が家で使っているアデッソの電波時計は、曜日の表示がすごく大きくて見やすいんです。介護は、月曜日はヘルパーさん、火曜日はデイサービスと、曜日でケアプランを組んでいることが多いので、曜日の認識がとても大事。お薬カレンダーの横にもデジタル電波時計を設置していて、薬に明記した日付と時計の日付を照らし合わせて飲んでもらうようにしています。
デジタル電波時計は認知症介護に役立つ。そういうニーズがあることをメーカーの方たちも商品開発にもいかしていると思います」
→認知症の母が曜日を間違えなくなった…地味にスゴイ便利グッズとは?
スマートリモコンで家電を遠隔操作
「認知症が進行する母は、家電の誤操作も多いですし、使い方自体がわからなくなってきています。
先日は、母が照明の消し方がわからなくなってなかなか寝てくれなくなったことがあったのですが、家電のリモコンを遠隔的に操作できる“スマートリモコン”を使って照明を消す時間をセットするようにしました。
母が眠ったあとには自動で常夜灯にする設定したら、夜中に目覚めたときにポータブルトイレを認識しやすくなり、失禁の問題も解決しました」
→認知症の母の「失禁問題」が99%解決した!息子がポータブルトイレに施した工夫
工藤さんは、母のために以下のように家電をスマートリモコンで操作しているが、著書では、それぞれ具体的な活用例を、図版を用いてわかりやすく解説している。
・照明のオンオフ、夜間に豆電球に切り替える
・エアコンのオンオフ、温度管理
・テレビのオンオフ、番組の切り替え、音量の調整 など
「スマートリモコンがあれば、遠隔操作で冷暖房をつけることもできますので、熱中症や寒さ対策もできます。
また、NHKの調査によると、70才以上の平日のテレビ視聴時間は1日5時間以上ということでした。テレビの前にずっと座っている高齢者も多いと思いますが、認知症の親が『テレビの音量が大き過ぎる』と悩んでいる方は結構いるんですよ。そういう場合にも道具を使うことで解決できることがあります。
我が家の場合は、スマートリモコンで、テレビの音量を下げたり、番組を切り替えたり、電源のオンオフもしています。最近は手元に置くスピーカーや首から下げるタイプのスピーカーも人気ですね。こういった認知症介護のちょっとした困り事は、介護保険でカバーされていない部分なんです」
便利な道具やアイデアで介護生活をラクに
工藤さんは、便利な道具がなかったら、介護生活はガラリと変わっていたと語る。
「見守りカメラやスマートリモコンといった道具がなかったら、とっくに母を介護施設に預けていたかもしれません。
認知症の母に同じことを何度も聞かれたり、同じ失敗を繰り返したり、そうするとわたしもイライラして怒って、後悔するわけです。後悔したくないから、なにか便利なものはないかと、家電量販店にいったりネットで探したりして、介護に使える道具を探し続けてきました。
親のためになんでもやってあげるのが介護じゃないと思うんです。親だって自分でできることはやりたいはずですから。道具を賢く使って、認知症になってもなるべく自立した生活をして欲しい。そういう想いをこの本に詰め込みました」
【データ】
書名:親の見守り・介護をラクにする 道具・アイデア・考えること
販売:翔泳社
著者:工藤広伸
価格:1600円+税
構成/介護ポストセブン編集部