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「障がい者立位テニス」を知っていますか?元ヤングケアラーとその父が注目する支援のあり方

 パラスポーツの中でもテニスといえば、国民栄誉賞を受賞された国枝慎吾さんの活躍もあり、車いすテニスは知られているが、「障がい者立位テニス」を知っているだろうか?幼い頃から高次脳機能障害をもつ母のケアをしながらヤングケアラーについての情報を発信するたろべえさんこと、高橋唯さんが父と共に注目してきた、障がい者立位テニスについて教えてくれた。

障がい者立位テニスとは?

 令和5年3月17日、車いすテニス選手として多くの功績を収めてきた国枝慎吾さんが国民栄誉賞を授与された。私はこのニュースをテレビで父と一緒に見ていて、「すごいね」「さすがだね」と2人で大いに喜んだ。

 事故で左腕を失った父も、障がい者テニスをしている。

「障がい者テニスと言えば、車いすテニスじゃないの?」「脚は障がいがなくて歩けるのにどうして?」「片腕しかないのなら、ラケットを持ってしまったら車いすの操作ができないのでは?」そんな疑問が浮かぶ人も多いだろう。

 父はテニスをするために車いすに乗る必要はない。というか、車いすに乗るとテニスができなくなってしまう。立ってプレイする場合、片腕だけでテニスができるが、車いすテニスでは、ラケットを持つ手と車いすをこぐ手、つまり両手が使える必要があるため、父には車いすテニスは難しい。

 父のように腕がない人だけではなく、麻痺のある人も同様だ。車いすを操作しながらの姿勢の維持が難しい人や、義足を使用していて普段は車いすを使っていない人もいる。

 車いすに座らなくても、立ってテニスがしたい。

 そんな思いから生まれた競技が「障がい者立位テニス」だ。

障がい者立位テニスに出会ったきっかけ

 私と父が障がい者立位テニスに初めて出会ったきっかけは、2016年にアメリカで行われた障がい者立位テニスの国際大会に参加したことだった。

 父は事故に遭う前からテニスが好きで、片腕を失ってからも地元で健常者に混ざってテニスをしていた。7年前、父は関東の障がい者テニスの団体で一緒に活動していた柴谷健さん、妻の玲子さんに誘われて、アメリカで行われた障がい者立位テニスの国際大会『TAP USA OPEN2016』に出場した。

 当時大学生だった私も、海外旅行に行ってみたいな~くらいの軽い気持ちで、ちゃっかり父についていった。

 国際大会では、父と同じく腕がない選手、義足の選手、杖や装具を使っている選手、片麻痺の選手、背が低い選手、なんと両腕と片脚がない選手まで、健常者と同じように立ってテニスをしている様子を目の当たりにして、私も父も大いに刺激を受けた。初めは海外旅行気分だった私も、結局滞在中ずっと試合を観戦していた。

 その後、柴谷さん夫妻を中心に、2017年に日本障がい者立位テニス協会(通称JASTA)の活動がスタートしてからも、私は父にくっついて練習会に参加していた。

母のケアと父の存在について

 当時大学生だった私が、父の行く先々について回っている様子を見て、「仲が良いんですね」と言う人も多かった。年頃の娘と父親がいつも一緒にいるのは、微笑ましいことではあるが、ちょっと変わっているとも思われていたのではないかと思う。

 しかし、自分では特別に父と仲が良いと思っている訳ではなかった。子どもの頃の私にとって、父は厳格で怖い存在だった。私も母もよく怒られていた。特に母はよく怒られていた。

 父は元々器用な上に努力家であり、左腕を失っても人の手を借りることはほとんどなかった。そんな父の目には、母の様子は障害を言い訳にして努力をしていないように映っていたようだ。

 母が父に迷惑をかけている分、私は足手まといにならないようにしなければと必死だった。父は絶対的な存在だった。そんな私も大学生くらいになると昔よりは父のことを怖いと思わなくなり、一緒に障がい者立位テニスを楽しめるまでに成長した。

 最近は私も父も環境が変わり、あまり練習会に参加できていないが、今でも共通の関心事であることには変わりない。

 国枝さんのニュースを見ながら、「障がい者立位テニスも負けていられないね」「パラリンピック正式競技になって、“レジェンド”が生まれるといいね」と話した。

 こんな風に普通に話ができる父のことを大切に思っているし、できるだけ苦労せずに長生きして欲しいと願っている。

ヤングケアラーの支援のあり方

 私はよく、「あなたがお母さんのケアをしなくても、お父さんがもっとお母さんの面倒を見れば良いのでは?」と指摘されることがある。確かに自分でもそう思うし、「もう!なんで私ばっかり大変なの!」と思うこともある。

 しかし、母のケアを父がすべてやってくれたからと言って、必ずしも私は幸せになれないとも思う。子どもの頃の私は父を煩わせないことに一生懸命だったし、大人になって「父と仲良し」と言われるようになった今でも、なるべく父に大変な思いをして欲しくないと思っている。

 ヤングケアラーがケアを担わなかったとしても、家族の誰かが代わりにケアを担わなくてはならない。ヘルパーさんがケアを代わってくれるとしても、そのための手続きや支払いは結局、家族の誰かがやることになる。ヤングケアラーからケアの役割を取り除いたとしても万事解決というわけではないのだ。

 障がい者立位テニスの選手たちの腕や脚は、健常な選手と同じにはならない。だけど、様々な工夫をして障害に“adaptive(適応)”してコートに立ち、ボールを追いかけている。

 ヤングケアラーたちが置かれている状況も、一朝一夕には変わらない。なかにはコートに立つことさえ諦めてしまう子どももいると思う。そんな子どもたちがどうすればサーブを打てるのか。ボールを追いかけられるのか。その工夫を考えて、一緒にプレーを楽しんでいくこと。それがヤングケアラー支援に繋がるのではないか。

障がい者立位テニスについて

 国内では、一般社団法人日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/が中心となり、普及に務めている。

 同協会が中心となり、国内大会を年に2〜3大会開催。2025年に成田市で国際大会を計画中。今年の大会で日程が決まっているものは以下の通り。

・第3回障がい者立位テニス東日本大会:5月21日(予備日28日)/千葉県成田市・重兵衛スポーツフィールド中台

・第3回全日本障がい者立位テニス選手権大会:10月15日(雨天中止)/千葉県千葉市フクダ電子ヒルスコート

 観戦や応援もできるので、ぜひ足を運んでみて欲しい。

→たろべえさんの他の記事を読む

文/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名でブログやSNSで情報を発信中。本名は、高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。第57回「NHK障害福祉賞」でヤングケアラーについて綴った作文が優秀賞を受賞。
https://twitter.com/withkouzimam  https://ameblo.jp/tarobee1515/

●国枝慎吾さん祝・国民栄誉賞決定!車いすテニス界のレジェンドが明かす「俺は最強だ」誕生秘話と勝負飯

●「自分はヤングケアラーと気づいていない人は多い」当事者同士、交流できる場の必要性

●要介護1の父に約10万円が還付された!障害者手帳がなくても申請できる「障害者控除」の実例【介護のお金FP解説】

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