東京・大塚の老舗おにぎり店「ぼんご」2代目女将が明かす1日1000個売れる味の秘密
57種の具材のうち、人気トップ3は「さけ、すじこ、卵黄」だ。
また、1種だけでなく、2種の具材を組み合わせる「トッピング」という頼み方もあり、その組み合わせは1000通りをゆうに超える。
「最初は20種類くらいでした。当時は常連さんばかりで、1週間続けて来るかたも多かったので、そのためにも“具材は増やさなきゃ”と常に思っていました。寿司店のようにカウンターでお客さま一人ひとりと向き合いながら、『ちょっとマヨネーズ入れてくれない?』『塩を強めに』など、それぞれの好みに応じて握っていました。『へえ~、こんな食べ方もあるのか』とお客さまから教えていただくうちに、具材の種類も増えていきました」
卵黄は一度冷凍してしょうゆに漬ける
中でも「卵黄」は、どう見ても生なのに流れ出ないのが不思議だ。
「これは、ずっと思っていた『卵かけご飯をおにぎりでやりたい』というアイディアが実現したものです。普通はありえない生卵をどうしたら入れられるのか、みそ漬けも試みましたが、手間がかかりすぎて断念。
そして7~8年前、あるテレビ番組で、『卵の生臭みを消すには冷凍がいい』と聞いてさっそく試したら、まん丸のかわいい黄身ができたんです。これを解凍してしょうゆに漬けると、一度水分が抜けた黄身は、崩れることなくほどよいやわらかさを保って大成功。いまでは毎日400個を作るほどの名物です」
客の声やスタッフと作り上げたぼんごの味
それぞれの具材にも物語がある。
「いまはマヨネーズものが人気ですが、その中でも注文の多い『鳥唐揚マヨネーズ』は、発売当初は唐揚げだけを入れたものでしたが、なかなか売れ行きがよくならなかった。そのとき、居候の大学生が、『唐揚げにはマヨネーズだよ』と。私にはそんな発想はまったくなかったのですが、マヨネーズで和え、しょうゆで味付けをしたら、たちまち人気に。
『さけマヨネーズ』も、当初は生臭さが際立ってしまいおいしくなかったんです。それで悩んでいたら、そのとき“おにぎり修業”に来ていた子が大分のお母さんに相談して、『ゆずこしょうを入れてみたら?』と教えてくれて、一発解決しました。ぼんごの味は、お客さまやスタッフと作り上げてきたものです。私ひとりではできなかったでしょうね」
かつて、ぼんごの名でのれん分けをしたこともあったが、「味が違う」と苦情が来てしまった。
「ぼんごは、大塚という街の、都電の走る風景の中でお客さまに育んでいただいた店ですから、場所が変われば同じ味は出せないんですね。弟子たちには、自分の名前のおにぎり屋を、その土地のお客さまと一緒に作っていってほしいです」
おにぎりは、子供の頃に親が握ってくれた思い出の味という人も多いだろう。ぼんごでも「子供の運動会に」という注文も多いそうだ。その注文は衛生面のルール(3時間以内に食べきる)で受けられないが、右近さんは、「大切な日のおにぎりは、何よりも親御さんが握ってあげてください」と声をかけている。
おにぎりは、人と人を結びつける食べ物
右近さんは、前店舗での引退を考えていたという。
「嫁に来て46年、ずっと働きづめで、70才まで頑張ったからもういいかなと。本当に、私が従業員と一緒に給料をいただけるようになったのは、ここ数年なんですから(笑い)。でも、店のある豊島区が、今夏『SDGs未来都市』『自治体SDGsモデル事業』に選ばれ、“大塚のよさを残しつつ、新しく変わっていこう”という活動モデルの1つに、ぼんごがノミネートされたんです」
店も軌道に乗り、ようやく外の世界を見て歩く時間ができるようになったことで、おにぎりが役に立つ場面がたくさんあることもわかった。
「それで、“まだ頑張ろう”という気になったんです。まずは、食育や弟子の育成に力を入れたいですね。おにぎりを“おむすび”とも言いますが、これからも人と人を結びつける食べ物であってほしいです」
比較的列が落ち着くのは平日の午後3~4時頃。来年にはチケット制などの行列対策を考えているという。今後、期間限定商品も登場するかもしれない。進化する「ぼんご」の列は、まだ延びそうだ。
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