【連載エッセイ】介護という旅の途中に「第35回 師走のできごと」
写真家でハーバリストとしても活躍する飯田裕子さんによるフォトエッセイ。父亡き後に認知症を発症した92才の母と千葉・勝浦で暮らす飯田さんが、日々の様子を美しい写真とともに綴ります。
12月に入り何かと慌ただしい時期、飯田さん母娘の生活にもいろいろと変化がありました。
要介護認定の見直し
「そろそろ飯田さん要介護認定の見直しが必要かもしれませんね」
月に1回のケアマネジャーの自宅訪問でそんな話が出た。
確かに物忘れの頻度、速度ともにかなり加速している。施設の内部のケアマネさんということもあり、自宅ではなく施設での母の言動や行動を介護従事者のかたからあった報告で把握してくださっているのだ。色々な事例を見てきたケアマネさんはそんなことはお見通しのようだった。
母は、今現在のこの場の話題には、時折、的確に鋭い見解をズバッとさえ言うときがある。それは年の功だろう。
母の要介護度は1なのだが、早速、要介護度の見直し、区分変更を申請した。
主治医の診察を受け、ショートステイ先で市役所のかたとの面接受け、結局母は要介護2と認定された。
「要介護度が上がると、施設利用費は少し上がりしますが使える日数は増えます」とケアマネさんからの話。
今年も母と柚子畑に
以前暮らしていた岩井(千葉県)の知人から嬉しいメールが入った。「今年も柚子畑にいらっしゃいませんか?」
昨年は母も一緒に行って沢山の柚子を採らせてもらった。地元のかたで先代が植えた柚子の木が山の斜面に100本あり、セミリタイアされたご夫妻で週に数日畑の手入れをしている。
今年も、冬至も近い天候の良い日曜に母を車に乗せて柚子畑のある山へ向かった。
「ここは前にも来たことあるね、覚えてるわ」と母。
「今年も沢山もらって帰ろうね」と私。
「わ~、すごいね。こんなに実がなって、やっぱり南房総は豊かなところだねえ」と盛んに感激する母。
道すがらの藪にはカラスウリのれんが色の実がたわわにぶら下がっている。父と暮らした家にいたときも、よく秋の山でカラスウリを採ってきて飾っていた。
「水仙ももう咲いてる」とかがむ母。畑の主のかたが、はさみで切って手土産に渡してくださった。勝浦はやや北になるので、我が家の水仙はまだ蕾もついていない。同じ千葉県、房総であってもやはり気候が違うのだ。
柚子の香りが車一杯に満ちて、温かな気持ちで帰路に着いた。
翌日には柚子を絞ってポン酢を作った。母が半分に切った柚子を私が絞る流れ作業。夜にはたっぷりのお湯をお風呂に張って柚子湯にした。
「温まるねえ~」と上気した母の顔が幼子のように見えた。
そして、その翌日には柚子ジャム作りをして、柚子にまみれた数日となった。