【連載エッセイ】介護という旅の途中に「第35回 師走のできごと」
年末は施設もコロナ感染者が出たり、多くのご家族が忙しいこともあってなかなかショートステイの日取りも取れない状況になった。
そんな中、サンセットと満月を海の上でシーカヤックで眺める風景を撮影する仕事あったため、ひと晩、母には1人で自宅で過ごしてもらうことになった。
寒いので、リビングのエアコン暖房はつけっぱなしにするため、母が消してしまわぬようにコントローラーは隠した。
寝室のエアコンもタイマーにセットした。コンロでの調理はできないようにテーピングし、バナナやサンドイッチなどそのまま口に入れられるものを用意。お菓子もテーブルに並べた。
母を1人置いての仕事で心配だったものの、海からの夕陽と月の出は、私に異次元の感動をもたらしてくれた。
陸地からでは感じられない地球の丸さや海のうねりをカヤックと一体になって浮遊感の中で感じた。360度の景色がほんの少し、陸地から離れただけでこんなにも違って見えるとは。そんな高揚感を胸に車で夜道帰路に着いた。
家に帰ると母が起きていた。
「帰ってこないかと思って…」
「え?今日は戻ると書いてある紙、ほら、」と見せる。
ようやく安心して眠くなったのか、「眠い~もう寝る」と言って部屋に行く母。
「もう私を施設に入れてちょうだい。その方が楽だわ。だって夜中でも誰かが起きていて見てくれてるしね。安心なの。」
この頃、母はこんなことを時折言うようになってきた。
写真・文/飯田裕子(いいだ・ゆうこ)
写真家・ハーバリスト。1960年東京生まれ、船橋育ち。現在は南房総を拠点に複数の地で暮らす。雑誌の取材などで、全国、世界各地を撮影して巡る。写真展「楽園創生」(京都ロンドクレアント)、「Bula Fiji」(フジフイルムフォトサロン)などを開催。近年は撮影と並行し、ハーバリストとしても活動中。HP:https://yukoiida.com/
Youtube:Yuko Iida 海からの便り
https://youtu.be/U7NkRY5S0yg
写真展 「海からの便りII」はVRバーチャルリアリティーでご覧いただけます。
https://www.nodaemon.site/photo/iida/tour.html