高齢者住宅に住み替えるタイミングはいつ?種類や暮らし方、予算に合う選び方を専門家が解説
“終の棲家”に高齢者住宅や施設を選んだ人の体験談を紹介する。
【1】母の施設探しの最中に理想の住まいに出会う【サ高住】
3年前に「サ高住」に入居した恭子さん(仮名・67才)は、要介護の実母が入る施設を探していたところ、ここを知った。
「自立型なので母向きではなかったのですが、“よりよい『サ高住』にしていくために2か月に1度、入居者が意見や思いを語り合う機会が設けられている”と聞き、自分はここにしようと決めていました」
恭子さんは独身で、マンション(持ち家)にひとりで住んでいたが、仕事が忙しく近隣住民との交流はなかった。母親の介護経験から、助けを求められない環境で老後を迎えるのは厳しいと考え、ここに空室待ちを申し出たという。
「ここは住人同士、いま何に困っていて、何が好きかを日々会話から察しています。たとえばお隣さんの足腰が弱ってきたら、ゴミ出しの日は自分のゴミと一緒に出しに行くなど、自然と声をかけあえる関係が築けています。だから、自分も何かあったときに助けを求めやすい。それが大きな安心感になっています」
恭子さんは、できるだけここで暮らし、認知症など重い要介護状態になったら、事前に見学してある「特養」に住み替えを手配するよう、弟に依頼済みだという。
【2】気に入って入居したが思わぬ問題も…【介護付有老】
香川県にある「介護付有老」に入居する知加子さん(仮名・88才)は3年前に自宅で転倒し、太ももを骨折。歩行器がないと歩けなくなり、トイレや入浴にも介助が必要になって、要介護3の認定を受ける。このとき、3人の子供たちと話し合い、住み替えを決めた。
「私が70才のとき夫(78才)は他界しましたが、思い出の品はすべてとってありました。だから、この自宅で死ぬまで生活したかったのですが、リフォームの見積もりを取ったところ600万円以上かかることがわかりました。仮にバリアフリーにしたところで、ひとりで生活をするのは大変。起き上がるのすらひと苦労なのに、トイレ、入浴、食事の用意、洗濯、掃除、ゴミ捨て、公共料金の振り込み、宅配の受け取り、郵便物の開封など…日常生活にはすべきことが無数にある。体が不自由になって初めて、当たり前の日常すら自分には負担が大きいことがわかりました」
最初は月10万円程度で入居できる「特養」に入ろうと思ったが50人以上空室待ちしていると言われた。そこで、「介護付有老」に決めた。
「私が住むのだから子供たちに任せず、自分で5か所の『介護付有老』を見学して、いまのところに決めました。地元で有名な病院が運営母体なので医療面で信頼できると思いました。また、ここは清潔で、旅行や外泊も希望をすればできるなど自由度が高い。食器がプラスチック製ではないことも決め手でしたね」
しかし費用は月約25万円。入居一時金がない分、月額料金は割高なのだという。年金と貯金を取り崩して捻出することにしたという。
「それでも都市部よりは安く、東京の相場の3分の2程度だと聞きました」
スタッフも明るく、毎日が楽しいが、困ったことも…。
「入居者による窃盗があるんです。といっても、お金ではなく、差し入れのおせんべいやアクセサリーなど。私のお気に入りの刺繍のハンカチを、ほかの80代の入居者が自分のもののように使っていたことはショックでした」
部屋には鍵がついているが、もしものときのために原則として施錠はしない。通帳や証書などの貴重品は施錠ができるキャビネットに入れているが、菓子や置物、日用品をいちいち施錠して収納はしない。
「孫からもらったお人形も盗まれましたが、それには名前を書いていたので、職員さんに取り戻してもらいました。それ以来、何にでも名前を書いていますね(笑い)」
何度見学を繰り返しても入居してみないことにはわからないこともあるようだ。
【3】「特養」探しはエリアを拡大して!【特養】
79才のときに脳溢血(いっけつ)で半身不随になった花枝さん(仮名・83才)は、80才で「特養」に入所した。共に鮮魚店を営んでいた夫とは70才のときに死別しており、それからはひとり暮らし。半身不随になってからは、入浴や排泄がひとりでできなくなり、昼は介護保険サービスの範囲内で訪問介護をお願いし、夜は近所に住む50代の娘2人と20代の孫4人が交代で介護をしてくれていた。
「あのときは、娘にも孫にも大きな負担を強いてしまって…。私自身、迷惑をかけるのが何よりも嫌だったので、申し訳なさに、自分を責めてばかりいました。早く『特養』に入りたくて仕方がありませんでした」
もともと弱視が進行していたため、76才の頃から「特養」を探していたが、自宅がある神奈川県や隣接する静岡県、東京都には空きがないと言われた。
「そこで娘が私の実家がある群馬県に目をつけたんです。甥が管理する実家に住民票を移して、甥と長女が手分けして、入居できる『特養』を見つけてくれました」
「特養」は人気が高く、なかなか空きがない。しかし、エリアを拡大すれば見つけやすいようだ。
「費用は月額9万円程度。私の年金は、国民年金の約6万円なので、これに娘たちが1万5000円ずつ出して補充してくれています。自宅を売却して作った貯金も娘に預けていますので、そこから取り崩しているようです」
「特養」に入っていちばんよかったのは薬の管理だという。1日3回、10種類の薬をのんでいたが、時間になるとスタッフが必要な分だけ持ってきてくれるので楽だという。
「生活の負担や申し訳ないという気持ちがなくなり、心身ともに楽になりました」
ただし、面会に制限があるのが不満だと漏らす。もともと月2回のみだったが、コロナ禍により、全面禁止に。
「目が悪くて、手紙も読めないしスマホもできないから、面会だけが楽しみだったのですが、娘たちにまったく会えなくなって、本当にさみしい…」
今年に入り、やっと面会ができるようになったが、コロナ対策のために、アクリル板で仕切った部屋で行われる。人数も2名までで時間は15分だという。
「手を握ったりしたいのに…。人生の最後で、囚人のように扱われることが残念です。仕方のないことではありますが」
コロナ禍で常識が変わったいま、家族との交流頻度も、住まい選びの基準にしたい。
教えてくれた人
畠中雅子さん/ファイナンシャルプランナー
取材・文/桜田容子、前川亜紀
※女性セブン2022年10月27日号
https://josei7.com/
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