一時払い終身保険に加入して介護費用が年間50万円以上安くなった相談実例【FP解説】
介護のお金の相談や手続きを専門とするファイナンシャルプランナーの河村修一さんが、実体験や相談事例をもとに役立つ制度を解説する【介護のお金相談】。実際に河村さんが相談を受けた「一時払い終身保険」を活用した介護費用の節約の実例を紹介する。「介護保険負担限度額認定」の申請をすることで、施設の居住費や食費を最大で7万5000円も軽減できるという。どんな制度なのか、対象者や手続きについて教えてもらった。
終身保険は相続対策のほか介護費用の節約にも
老後に「生命保険」に加入する目的は、節税を目的とした相続対策を真っ先に思い浮かべる人も多いでしょう。しかし実は、相続対策として「生命保険」に入ることで、介護費用の軽減にも役立ちます。
例えば、一時払い終身保険への加入後に、突然、介護状態になり特別養護老人ホームに入所した場合、生命保険に加入してなかった場合と比べて介護費用(居住費・食費)が毎月約4万6000円~7万5000も自己負担が少なくなるケースがあります。
まずは、特別養護老人ホームに入所した場合にかかる費用と対象となる条件を確認していきましょう。
特別養護老人ホームでかかるお金
特別養護老人ホームに入所したときの自己負担額の費用体系は次のようになります。
・月額利用料(介護保険サービス1割~3割)+食費・居住費・日常生活費(介護保険外)
基準費用額を見てみると、「食費」は、1日あたり1445円、「居住費」は1日あたり855円(多床室)~2006円(ユニット型個室)になります。
厚生労働省のホームページ※によると、特別養護老人ホームの1か月の自己負担の目安をみると要介護5の人がユニット型個室を利用した場合、介護保険サービス費用1割負担で約2万7900円、食費は約4万3350円、居住費6万180円、日常生活費約1万円で月の合計約14万1030円必要になります(実際には、施設と利用者の契約により決められます)。
※参考/厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
これららの利用料金は、所得や資産額によっては、市区町村に申請をして「介護保険負担限度額認定」を受けることにより、自己負担が軽減できます。これを補足給付といいます。
「介護保険負担限度額認定」の対象者は?
「介護保険負担限度額認定」の対象者は、住民税非課税世帯の人(別世帯の配偶者が課税されている場合は対象外)、かつ、預貯金等が一定額以下の人です。AさんとBさんの例を挙げて解説していきましょう。
80才のひとり人暮らしのお母様Aさん(収入:国民年金収入のみで60万円、普通預金:2000万円、配偶者なし)が特別養護老人ホーム(ユニット型個室)に入所した場合、食費・居住費の自己負担はどうなるでしょうか。
お母様は、住民税非課税世帯ですが、普通預金を2000万円持っていますので、自己負担の軽減はありません。
一方、同年代のひとり暮らしのBさん(収入:国民年金収入のみで60万円、普通預金:500万円、配偶者なし)の場合は、非課税世帯、かつ、預金が一定額以下(650万円)ですので、自己負担の軽減対象となります。
自己負担額の軽減は預金額により4段階となる
対象者は資産要件によって4段階にわかれます。
なお、預貯金等に含まれないものには、生命保険、自動車、腕時計、宝石などの時価評価額の把握が難しい貴金属、絵画、骨董品、家財などがあります。
【介護保険負担限度額認定の対象者】
段階|所得要件|資産要件
第1段階|生活保護受給の方または、本人が老齢福祉年金受給の方|預貯金等が単身で1000万円以下の方(夫婦で2000万円以下の方)
第2段階|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が80万円以下の方|預貯金等が単身で650万円以下の方
(夫婦で1650万円以下の方)
第3段階(1)|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が80万円超120万円以下の方|預貯金等が単身で550万円以下の方|(夫婦で1550万円以下の方)
第3段階(2)|本人の合計所得金額と課税年金収入額と非課税年金額の合計が120万円超の方|預貯金等が単身で500万円以下の方
(夫婦で1500万円以下の方)
段階が上がるほど負担限度額が高くなる
段階ごとに負担限度額が変わります。資産が少なく段階が上がるほど負担限度額は高くなり、負担が軽減される仕組みです。
【負担限度額(1日あたり)】
居住費の負担限度額 食費の限度額
限度額|ユニット型個室|ユニット型個室|従来型個室的多床室 |多床室|施設サービス|短期入所サービス
第1段階|820円|490円|490円(320円)|0円|300円|300円
第2段階|820円|490円|490円(420円)|370円|390円|600円
第3段階(1)|1310円|1310円|1310円(820円)|370円|650円|1000円
第3段階(2)|1310円|1310円|1310円(820円)|370円|1360円| 1300円
【基準費用額】
2006円 1668円 1668(1171円) (855円) 1445円 1445円
※( )内の金額は、介護老人福祉施設と短期入所生活介護を利用した場合
※参考/立川市「介護保険施設における食費・居住費等の軽減」
https://www.city.tachikawa.lg.jp/kaigohoken/hiyou/hutangendo.html
※参考/厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」
https://www.mhlw.go.jp/content/000334525.pdf
生命保険を活用して介護費用の自己負担が軽減した実例
70才代後半のひとり暮らしのお母様は、配偶者はすでに他界され、収入は国民年金のみで約50万円、資産は自宅のほかに普通預金が1500万円ありました。相続人である2人の娘さんと相談し、そろそろ相続対策として保険に加入することにしました。
選んだのは、1000万円の一時払いの終身保険。ご自身が契約者(保険料負担者)かつ被保険者、死亡保険金受取人は、
なお、終身保険は、被相続人が契約者(保険料負担者)かつ被保険者であった死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がありますので、お母様が万が一死亡されたときには、保険金は
しばらくして、お母様がくも膜下出血で倒れられました。自宅での生活が難しく、特別養護老人ホームへの入所(多床室)を選びました。1000万円の一時払い終身保険に加入していたので、普通預金の残高は1500万円から500万円に減っていたため、「介護保険負担限度額認定」の2段階の対象となり、補足給付が受けられることになりました。
最後に実際にどれくらい介護費用の低減効果があったのか、換算してみましょう。
・居住費…855円→370円へ 485円軽減!
・食費…1445円→390円へ 1055円軽減!
1か月で4万7740円の節約につながりました。年間にすると57万2880円も安くなったという訳です。
【まとめ】一時払い終身保険で相続対策と介護費用の低減
今回紹介した一時払い終身保険は、相続対策として活用できるほか、公的介護保険施設に入所する際、預貯金等の対象外となり、補足給付を受けることで介護費用を安く抑えらえるケースがあります。
ただし、一時払い終身保険に加入できる年齢など要件がありますので、事前に保険会社にしっかり確認することが必要です。また、生前贈与等によって預貯金額を減らすという方法もあります。相続対策は、将来の介護費用も含めた総合的な対策をとりましょう。
介護は突然、始まります。親がなるべく元気なうちに、介護保険制度や軽減制度の情報収集や相続対策を話し合っておくことをおすすめします。
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
執筆
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/