歯周病、大丈夫ですか?正しいケア法を医師が解説「健康寿命を伸ばすためには歯ぐきを大切に」
口腔トラブルというと、虫歯を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、厚労省の調査によると、55才以降で歯を抜いたケースは虫歯よりも歯周病が原因のケースが多かった。歯のケアには意識がいっても、歯周病のケアは不十分だったということだ。
歯周病を放置しておくと、重大なトラブルへと発展しかねない。歌手の小柳ルミ子(70才)も、歯周病をはじめとする口腔トラブルに悩まされ、治療や手術を繰り返してきた。歯ぐきにできた膿が歯の骨まで溶かし手術。翌年にはインプラントが折れ、局部麻酔による4時間もの大手術も経験している。
→小柳ルミ子が警鐘を鳴らす「歯ぐきの痛みは絶対にがまんしてはダメ」
さらに歯周病菌が心臓や脳にまで行くと、重大疾患を起こすこともあるので日々のケアを怠らないようにしたい。
健康寿命は歯ぐきが要。正しい歯周病ケア方法と治療法を知識として身に着けておこう。
★あなたのその症状、歯周病かも…「歯周病 チェックリスト」
□ 人から口臭を指摘された、または自分で気になる
□ 朝起きたら口の中がネバネバする
□ 歯みがき後に、歯ブラシの毛先に血がついたり、ゆすいだ水に血が混じることがある
□ 歯ぐきが赤く腫れてきた
□ 歯ぐきが下がり、歯が長くなった気がする
□ 歯ぐきを押すと、血や膿が出る
□ 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい
□ 歯が浮いたような気がする
□ 歯がグラグラと揺れている気がする
《診断》
【1~3個当てはまったら…】
歯周病初期の可能性あり。早めに歯科医院で診てもらおう。
【4個以上当てはまったら…】
中等度以上の歯周病の可能性あり。すぐに歯科医院へ!
【該当項目なし】
無症状でも歯周病が進行することがある。最低でも年1回は歯科医院で検診を受けよう。
歯周病菌→歯垢→歯肉炎→歯周ポケット→歯周炎
「歯は、歯槽骨(しそうこつ)という土台の中に根っこが埋め込まれたような状態で支えられていて、歯槽骨の表面を歯ぐき(歯肉)が覆っています(下図参照)。歯周病菌によって、この歯ぐきが炎症を起こす。それが、歯周病です」
とは、歯周病治療に詳しい歯科医師の船越栄次さんだ(「」内、以下同)。
歯周病菌は歯についたたんぱく質やアミノ酸などをエサにして増殖し、「歯垢(プラーク)」へと姿を変える。
「歯垢を落とさないと歯石になります。この歯石(歯周病菌のかたまり)が毒素を出し、歯ぐきに炎症を起こします。これが歯周病の初期症状 “歯肉炎”です」
歯肉炎になると、歯ぐきが腫れて出血する。この段階でのケアが、歯周病の進行を止めることにつながる。小柳は幸いにもこの段階で抑えられている。
「歯ブラシで正しくブラッシングすれば、歯垢や歯石は除去できます。ただし、歯と歯ぐきの間の溝に歯周病菌が入り込み、歯周ポケットができた場合は、歯科医院で歯ぐきを切り開いて除去することになります」
歯周ポケットが深くなり、歯槽骨が溶ける「歯周炎」へと進行すると、大変なことになる。
「歯周炎になると、口の中がネバつき、口臭が気になり始めます。歯と歯のすき間が目立ち、歯が細長く見えたり、歯ぐきから血や膿が出る、歯がグラつく、歯が移動して歯並びが悪くなるなどの症状が出てきます」
ここまでくると、入れ歯にしたり、インプラント治療を考えるのが一般的だ。最近では、自分の歯を残すために、溶けた骨を作り直す「エムドゲインRゲル」と呼ばれる再生療法も登場している。小柳もこういった再生治療に救われた。ただし、施術できる歯科医院は少なく、自由診療のため費用は10万~25万円かかる。
歯周病菌が全身に巡り脳や心臓の疾患にも
歯周病の怖さは、これだけにとどまらない。
「炎症を起こした歯ぐきから歯周病菌が血管に入り込むと、別の重篤な病を引き起こす要因となります」
その1つが、糖尿病だ。歯周病菌が出す毒素は、血糖値を下げるインスリンの働きを低下させて糖尿病を悪化させる一因になると指摘されている。歯周病菌が心臓や脳にたどり着くと、狭心症などの心疾患や脳卒中などの脳血管疾患をも引き起こす可能性がある。歯周病の人は、そうでない人に比べて2.8倍、脳梗塞になりやすいとされている。
「歯ぐきが健康だと食べ物をしっかりかめます。かむという行為は、脳を刺激するため、認知症予防につながることが医学的にも明らかになっています。介護施設で行われた調査によると、入れ歯が合わずよくかめない人や、入れ歯を外している人は認知症になるケースが多いという報告もあります」
歯ぐきは歯を支える土台。この土台がしっかりしているかどうかで、健康寿命の長さが変わってくるのだ。
★健康な歯ぐきと歯周病になった歯ぐきの比較
溝にたまった歯垢をかき出すことが肝要
歯周病ケアをする上で見直したいのが、歯みがきの仕方だ。
「まず、歯ブラシの毛先を、歯と歯ぐきの境目のあたりに45度の角度で当て、歯ブラシを横に動かします。歯周病を引き起こす歯垢や歯石は、歯と歯ぐきの間の溝にたまるため、歯の表面をみがいただけでは落とせません。溝にたまった歯垢をかき出すことが肝要です」(船越さん・以下同)
★正しい歯のみがき方
【1】歯ブラシを歯と歯ぐきの境目に向かって斜め45度の角度で当てる。毛先は立てておく。
【2】歯ブラシを約2mmずつ小刻みに動かし、1本ずつ丁寧にみがく。
できれば毎食後に行うのが望ましいが、しっかりみがければ1日1回でもOK。
「私は夜テレビを見ながら、歯みがき剤をつけずに10~15分程度みがいています。右上の歯の外側からスタートして、上下左右の外側と内側をグルッと一周させます」
加えて、デンタルフロスや歯間ブラシも併用すると、歯垢が取れやすい。さらに、歯ブラシも厳選したい。
「毛質が柔らかく、細く長い方が、歯と歯ぐきの間に入りやすく、細かい部分のケアがしやすい。細菌が付着しづらく耐久性が高いポリエステル素材がおすすめです」
歯みがき剤はフッ素の濃度で選ぼう。
「フッ素には、口の中の細菌を弱らせて増殖を抑える働きと、歯を強くする作用があります。日本で市販されている歯みがき剤で最も濃度が高いのは1450ppm。この数値に近いものを選ぶとよいでしょう」
フッ素入り歯みがき剤でみがいた後は、軽くゆすぎ、フッ素を口内に残すことも大切だ。