小柳ルミ子が警鐘を鳴らす「歯ぐきの痛みは絶対にがまんしてはダメ」
口腔トラブルといえば、虫歯を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、厚生労働省の2016年調べによると、歯周病の有病率は、35~69才の7割にもおよぶ。さらに、55才以降で歯を抜く場合、虫歯よりも歯周病が原因のケースが多かった(※2018年、公益財団法人8020推進財団の調査)。歯のケアはできていても、歯周病のケアはできていない大人が多いということだ。そこで今回は、歯周病をはじめとする口腔トラブルに悩まされ、治療や手術を繰り返してきた歌手・小柳ルミ子のインタビューとともに、正しい歯周病ケアを紹介する。
歯ぐきに膿がたまり歯の骨が溶けた!
「歯周病とは、歯ぐきが歯周病菌に感染して炎症を起こす疾患。進行すると歯ぐきの中の骨が溶け、歯が抜けてしまいます」
とは、歯周病治療に詳しい歯科医師の船越栄次さんだ。
しかも、初期は自覚症状がほとんどないため、発見が遅れやすい。歯みがきのときに出血するといった症状があっても2~3日すれば治まることもあり、放置されがちだ。放置した結果、手術や治療を繰り返すことになった、と後悔するのが、歌手の小柳ルミ子だ。
「歯の治療は若い頃からこまめにしてきたため、私は差し歯やかぶせものが多いんです。ケアはしてきたつもりですが、そうした部分の歯垢が取り切れなかったのでしょう。歯周病には以前からよく悩まされ、そのための治療やケアを繰り返してきました」
と小柳。ところが、2018年に上歯の歯ぐきに親指の爪くらいのできものが2つできていることに気づく。
「舌で触ると水膨れのような感じ。つまようじで刺してつぶそうとしたものの、何も出てこない。そのうち痛みが治まるものだから、つい放っておいたのですが…」
それから1年後、外反母趾の手術で大学病院に入院。そのとき再び、できものが痛み始めたため、医師に訴えたところ、思いがけない言葉が返ってきた。
「“これはすぐに口腔外科手術が必要です。外反母趾の手術どころじゃありませんよ”と言われたんです。水膨れは歯ぐきにできた膿のかたまりだったんです。それが歯の骨まで溶かしていて、レントゲンで見ると溶けた骨の部分に空洞が…」
手術では唇の裏側を切って、鼻の下まで広げたのだという。
「局部麻酔だから、腐っている骨を削る音まで聞こえるの。ガリガリと…。腐った骨や膿を取って消毒し、切った皮膚を縫って、と大手術でした。術後に顔が思いきり腫れたのもつらかったです」
しかし、小柳の苦難はこれだけでは終わらなかった──。
局部麻酔による4時間もの大手術
「まさか、金属製のインプラントが折れるなんて、思いもしませんでした」
小柳は、膿の治療の翌2020年11月にインプラントが折れ、翌年から現在まで、1年半以上にわたり治療を続けているのだ。小柳が歯周病などの治療とは別に、インプラントを入れたのは2003年のこと。
「当時、舞台『アニー』に出演していたのですが、初日に左の肩甲骨を骨折、さらに背筋も3か所肉離れしてしまったんです。それまでの人生でいちばんの激痛でしたが、降板するわけにはいきません。公演が続く4か月間、文字通り歯を食いしばって演じ切りました。そのせいか、公演が終わった頃、奥歯が3本折れてしまったんです」
公演後もほかの仕事が詰まっていた。すぐにインプラント治療を受け、代わりの歯を入れてもらおうと、近くの歯科医院に駆け込んだ。
インプラント治療とは、歯を失った場合に行う治療の1つで、あごの骨にチタンやチタン合金でできた人工歯根を埋め込む手術のことだ。焦っていたため近所の歯科医院で急いで治療してもらったが、これがいけなかった。
「後からわかったことですが、このときのインプラントが理想的な位置に入っていなかったんです。17年間アンバランスな状態のまま使い続けたせいで、折れてしまったというわけです」
七転八倒するほどの痛みを抱え、大学病院で診察してもらうと、インプラントがゆがんでいるため、太い神経を刺激する恐れがあるとわかった。そのため、インプラントを抜いて、入れ歯にすることをすすめられた。
「目の前が真っ暗になりました。入れ歯にすると滑舌が悪くなるし、歌に影響するんです。口の中の空気圧が変わってしまうし、力を込めて歌えなくなる。私にとって、“歌手生活を断念せよ”という宣告でした」
入れ歯はどうしても受け入れがたく、大学病院への足が遠のく。しかし、治療をしていないため、すぐに激痛が襲い掛かる。痛みに耐えかね、当時のマネジャーが探してきてくれた、大学病院とは別の歯科医院に助けを求めた。
「私は、大学病院で入れ歯をすすめられたこと、それがどうしても受け入れられないこと、それ以外の治療ならどんなにつらくても耐えるという覚悟を医師に話したんです。すると、“小柳さんの、歌手でいたいという熱い思いに心が動かされました”と、難しいインプラントの再手術に踏み切ってくださったんです」
そして昨年1月、局部麻酔による4時間におよぶ手術が行われた。周りの神経を傷つけないよう、慎重にインプラントの破片を取り除き、さらに、失ったあごの骨を再生するための素材を入れた。