認知症が進行する母の夏の暑さ対策|エアコンの遠隔操作と熱中症警戒アラートのLINE通知
岩手にひとり暮らしをする認知症の母を東京から通いで介護を続けている作家でブロガーの工藤広伸さん。毎年夏になると困るのが、部屋の温度対策だ。認知症が進行し、エアコンの誤操作を繰り返す母に、工藤さんが行っている対策とは。エアコンの活用法や熱中症警戒アラートをLINEで受け取るなど、夏場の遠距離介護のお役立ち情報を教えてもらった。
毎年夏になると熱中症になった高齢者が救急搬送されるニュースが報じられます。
この原稿は実家のある岩手県で書いていますが、まだ梅雨で涼しく熱中症の心配もありません。しかし、梅雨明け後には猛烈な暑さがやってきます。認知症が原因で季節感がなく、温度感覚も鈍っている母を熱中症からどうやって守っているかについてのお話です。
全く季節感のない母との会話
わたしの半袖・短パン姿を見ると必ず、母は反射的にこう言います。
母:「あんた、そんな恰好して寒くないの?」
わたし:「カレンダー見て、今は7月でしょ。夏だからこういう恰好してるの」
母は瞬間的に夏を理解しますが、しばらくするとまた同じ質問を繰り返します。冷房の効いた部屋の涼しさだけで、秋か冬と判断するようです。さらにこんなことまで言います。
母:「今年は、雪が少なかったわね」
わたし:「え? 今、夏だけど?」
1年中、雪の話ばかりする母。目の前にカレンダーがあっても、季節感はないようです。また居間には温湿度計が設置してありますが、室温28℃や湿度80%の意味を理解していないので、自分の温度感覚だけで会話をします。
しかしその温度感覚はよく誤作動を起こし、室温が30℃を超えているのにちょうどいいと言ってみたり、真冬の寒い日に家中の窓を開けたりします。そんな温度感覚のままエアコンのリモコンを触るので、こちらが驚く操作をします。
エアコンの誤操作を繰り返す母
母は直前に居た部屋の温度の影響を受けるようで、例えば台所で火を使ったあとは自分が暑くなるので、冬でも居間のエアコンで冷房をつけます。
またエアコンの温度設定も極端で、すぐに冷やしたいからと真冬に冷房18℃に設定したり、部屋が冷えると今度はすぐに暖めたいからと、暖房25℃に設定したりします。
これはエアコン操作を理解できている日の話ですが、全くリモコンの使い方が分からなくなる日もあります。
例えばテレビのリモコンをエアコンに向けて、ピッピッと何度も押します。またエアコンのリモコンをテレビに向けてチャンネルを替えようして、誤ってエアコンを動かします。
こんな状態なのでエアコンを設置していても熱中症の心配はありますし、操作を間違えば危険な状態にもなります。なので、次のような対策を行っています。
環境省の熱中症警戒アラートをLINEで通知
わたしは2020年にスタートした環境省の熱中症警戒アラートを、LINEに通知するようにしています。
使い方は、まず環境省のLINE公式アカウントを検索して、「友だち」に追加します。その後配信設定で、自分の知りたい場所と通知する暑さ指数のレベルを選びます。
わたしの場合は実家のある岩手の状況を知りたいので岩手県で登録し、暑さ指数は、熱中症警戒アラート(暑さ指数33以上)・危険(31以上)・厳重警戒(28以上)・警戒(25以上)・注意(21以上)の5つから選択でき、厳重警戒以上で通知が来る設定にしています。
朝と夕方の1日2回配信されるので、通知が来た日はスマートリモコン(エアコンやテレビなどの赤外線リモコンを、専用アプリを使って遠隔操作できるツール。温度・湿度の把握もできる)を使って、実家の室温や湿度をいつも以上に細かくチェックしています。
スマートリモコンでエアコンを遠隔操作
岩手の実家の居間と寝室にはスマートリモコンが設置してあるので、離れた場所から遠隔でエアコンの操作が可能になっています。
リアルタイムでエアコンを操作するわけではなく、例えば母が寝る1時間前まで部屋を冷やしておいて、寝るときには冷房を切る予約設定にしていますし、デイサービスから帰ってくる直前まで部屋を冷やし、到着時にはエアコンが切れている設定にしています。
母がエアコンの風を嫌がることもあるので、できるだけ本人がいない時間を狙った予約設定にしています。
こうした細かい予約をスマートリモコンで設定しておけば、母が熱中症になることはありません。ただ普通のリモコンは居間に置いてあって、それを操作してしまう可能性もあるので、LINEの通知が来た日だけは1日に何度か実家の室温をチェックしています。
エアコンには「自動運転」の貼り紙を
ちなみに寝室のエアコンは、リモコン自体を隠していて母が操作できないようになっていて、すべてスマートリモコンのみの操作です。リモコンの誤操作による熱中症から母を守るために、あえてリモコンを置いていません。
今のところ寝る直前まで部屋を冷やしておけば、朝までエアコンをつけなくても大丈夫ですが、寝苦しい熱帯夜になった場合は、寝冷えしない室温に設定して一晩中つけておくと思います。
スマートリモコンがなかったら、おそらく遠距離介護は続けられなかったと思います。それほどわが家では重要なツールです。熱中症になって認知症が一気に進行してしまう人もいるので、これからも気をつけて実家の室温の見守りも行っていきます。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。