「再婚することを両親に切り出せない」と悩む中年男性に毒蝮三太夫がズバリ進言|「マムちゃんの毒入り相談室」第31回
「人を思いやる」というのは、とても難しい。高齢の親を思う気持ちは尊いが、その影響で誰かを苦しめることになったり、もしかしたら親自身が望んでいないことをしてしまうかもしれない。再婚したい相手がいるものの、そのことを両親に話せない48歳の男性。「いちばん大事なのは何かってことだな」と毒蝮さんが背中を押す。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「再婚のことを高齢の両親にどう話すか」
映画の「シン・ウルトラマン」は大ヒットしてるらしいな。56年前にアラシ隊員をやった俺としても嬉しいよ。7月の「マムちゃんねる」(編集部註:毒蝮さんの公式YouTubeチャンネル)のゲストは、初代「ウルトラマン」でスーツアクターをやった古谷敏だ。彼は「シン」にも関わったらしい。「シン」も含めて「ウルトラマン」に対する俺たちの思いを語ってるから、よかったら見てちょうだい。
今回の相談は、48歳の男性からだ。自分の再婚のことで悩んでる。
「5年前に前の妻と離婚しました。そのときは両親もかなりショックだったようです。今、職場で知り合った女性とお付き合いしています。相手もバツイチですでに働いている息子がいます。再婚も考えていて、そんな気持ちを伝えたら、彼女も「私でよかったら」と言ってくれました。ただ、高齢の両親(80代)にどう話すかを悩んでいます。いっそのこと両親が他界してからとも思っていますが、そうすると彼女を待たせないために、両親が長生きしないことを願うことになりそうです。どうすればいいでしょうか」
回答:「迷うことはないよ。自分にとって何が大事なのかよく考えて」
これは迷うことはないよ。「じつは結婚したい人がいます」と切り出せばいい。親のことを思いやる気持ちは立派だけど、はたしてそれは本当の思いやりなのかどうか。遠慮なく言わせてもらうと、俺にはちょっと違うように見えるな。
あなたの気持ちの中で、5年前に離婚したことが親に対する大きな負い目になっているのかもしれない。親が心配とか何とかより、単に「言いづらい」から理由を付けてるんじゃないか。そうやってグズグズしてるうちに、再婚してもいいと言ってくれている彼女に逃げられても知らないぞ。だいいち、先が見えないまま待たせるのは彼女に失礼だよ。
もちろん、両親が亡くなったら結婚しようなんてのは論外だ。仮に彼女とそういう約束をしたら、親御さんが病気になったときに「どうか治ってくれるな」って祈ることになってしまう。自分を生んで育ててくれた親に対してそんな気持ちを持って、それでそのあと結婚したとしても幸せになれるわけがない。
5年前に両親がショックを受けたと書いてあるけど、それは世間体もあったんじゃないかな。周囲に「じつは息子が離婚して」と言うのが嫌で落ち込んでたのかもしれない。今の時代は離婚なんてぜんぜん珍しくないし、若い人は「ダメだったら別れればいい」ぐらいの感覚だけど、両親にとって息子の離婚は「まさか」の出来事だったかもしれないな。
でも両親も、5年も経てばショックも癒えてるよ。自分の息子の幸せを願わない親はいないから、せがれが「結婚したい人がいる」と言えば、きっと喜んでくれると思う。両親にしてみたら、一度結婚に失敗した息子が、そのままひとりで人生を送っている様子を見続けるほうが心配だよ。今の彼女のことを隠し続けるほうが、よっぽど親不孝だ。
彼女のことを大事に思うなら、そして親も大事に思うなら、一日も早く両親に紹介したほうがいい。こうやって悩み続けていたら、親を心配させて、彼女も不安にさせて、自分も気が重いままで、全部がマイナスになっていくばかりだ。自分と彼女が幸せになれば、親だって幸せになる。今なら、息子が幸せに暮らしている様子を見てもらえるわけだしな。
とはいえ、世の中にはいろんな親がいるから、「いかにも頭ごなしに反対しそうなタイプ」なのかもしれない。5年前の離婚は、じつは親とお嫁さんとの関係がギクシャクしたことが原因だった可能性もある。だとしても、彼女を待たせる理由にはならない。親とどうしてもわかり合えそうにないなら、距離を置けばいい。離れていたって親孝行はできるけど、自分と結婚してくれた相手を守れるのは自分だけなんだ。
俺も昔、そういうことがあったよ。カミさんがウチの親といろいろあって、家を飛び出しちゃった。今思うと、俺がカミさんにも親にも甘えてたんだな。最初のうちは「迎えになんか行くもんか」って意地を張ってたけど、談志たちに「だからお前はバカだってんだ」と諭された。もうちょっとで、いちばん大事なものを手ばなしちまうところだったよ。
彼女とも、お互いの素直な気持ちを出し合ってみたらどうだ。自分はどういうつもりなのか、なぜ親に切り出しづらいのか。彼女はどうしたいのか、こっちの考えを知ってどう感じたのか。そのあたりは聞いてみないとわからない。親や彼女の気持ちを想像して独り相撲を取っていても、自分を追い詰めるばかりだ。
考えれば考えるほどこんがらがってくるかもしれないけど、つまりは自分にとっていちばん大事なのは何か、いちばんの親孝行は何かってことだ。それはきっと、彼女と結婚して幸せをつかむことなんじゃないか。相談の文面から、あなたがやさしい人だってことは伝わってくる。そんなあなたの両親なんだから、あたたかく祝福してくれるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月からポッドキャストでスタートした大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。