半年で7kg減量に成功した腸の専門医が実践した方法「しっかり食べてどっさり排出」
「やせたいなら、まずは食事制限でしょ」と思っている人は大間違い。しっかり食べるほど、実はやせるんです。そのカギとなるのは「排泄」。「しっかり食べて半年間で約7kgも減量できました」と語る腸の専門医をはじめ、正しい食事や排泄について医師に話を聞いた。
「今年の夏までにやせようと心に決めて、4月から食事制限を始めました。最初はみるみる体重が落ちてうれしかったけど、最近は体重の減少がストップしました。それどころか、便秘がひどくなって体調がすぐれません。精神的にも沈みがちで、何をやろうとしても気分が落ち込むばかりです」
そう、うつむきがちに語るのは都内在住の平木恵子さん(42才・仮名)だ。
記録的な暑さが予想される夏本番を前に、「いまからでも遅くない!」とダイエットを目指す人も多いはず。
だが平木さんのケースが示すように、やせるための食事制限には、「便秘からの体調悪化」という落とし穴がある。
辨野(べんの)腸内フローラ研究所理事長の辨野義己さんが語る。
「ダイエットと食生活の乱れ、運動不足とストレスが便秘の“4大原因”です。ダイエットのために食事制限すると排泄量が少なくなり、便秘になりやすくなります。便秘はさまざまな健康リスクのもととなるので、便秘になりやすい女性は特に注意が必要です」
体重を減らすために食べるものを減らすという食事制限は、よく知られたダイエット法の1つだ。
なかでもご飯やパンなどの炭水化物を控える「糖質制限ダイエット」は、テレビや雑誌などでよく報じられる。だが、辨野さんはそのダイエット法に否定的だ。
「食事制限は腸内環境を悪化させ、体への負担が大きくなりがちです。しかも、極端な食事制限は長続きしません。それよりも“しっかり食べて、たくさん出す”方が、効果的なダイエットを期待できます」(辨野さん・以下同)
食べずにやせるのではなく、食べてやせるというダイエットの効果を実証するのは、ほかならぬ辨野さんだ。
辨野さんはコロナ禍での外出自粛やアルコール摂取の影響で、今年1月に体重が過去最高の86.5㎏に到達した。
「74年間の人生で最も体重が重くなったので、1日2食の食事をバランスよく、よく噛んで食べるようにしました。きちんと食べているので栄養を摂取しながらも排便のかさが増え、余計なものをすっきり出せるようになった。おかげで、半年間で約7kgも減量できました」
しっかり食べたのに、なぜやせたのか──その謎を解くカギが「食物繊維」だ。
たんぱく質や脂質、炭水化物などの栄養素は体内で消化酵素によって分解されて、小腸から体に吸収される。一方で食物繊維は消化酵素で消化されず、小腸を通って大腸まで到達する。
大腸に達した食物繊維は、「便秘を防いで便通を整える」ことに威力を発揮する。
「食物繊維には、水に溶ける『水溶性食物繊維』と、水に溶けない『不溶性食物繊維』の2種類があります。前者が大便を滑らかに排出するのに対し、後者は大便のかさを増すという働きがある。2つをバランスよく摂取することで相互作用が生まれ、大便がすっきり排泄されます」
そもそも大便の成分は8割が水で、2割が固形物。
「その固形物の3分の1が食べかすで、残り3分の2が腸内細菌や剝がれた腸の粘膜や粘液です。もともと固形物の割合が低いので、消化されず大腸に達する食物繊維の摂取量をちょっと増やすだけで、大便のかさが増えて排泄がよくなります。逆に言えば、食物繊維の量が減れば減るほど、便秘が悪化するのです。いまの私の体重は79.5㎏になり、7kg減量できたのも、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく摂取することで、排泄が改善されたからでしょう」
やせるためには「どれだけ食べないか」より「どれだけ排泄するか」が大事なのだ。しかも、排泄は自身の命を守る可能性すらある──。
3日以上便通がなければ医学的に病気
そもそも便秘は女性の大敵である。厚労省の調べでは、便秘を訴える人の数は1000人あたりで男性が24.5人に対し、女性は45.7人と2倍近くになる。
なぜ、女性に便秘が多いのか。福島県相馬中央病院消化器内科医の齋藤宏章さんが説明する。
「女性は腹筋や骨盤底筋などの筋肉量が少なく、大便を押し出す力が足りなくて便秘になりやすい。女性ホルモンの関係で便秘が多くなるとの指摘もあります」
辨野さんは、便秘に対する女性の「あきらめ」も関連していると指摘する。
「日本では、“1週間に1回出れば最高”と思っている女性がとても多い。彼女たちは小さい頃から便秘に悩んでいて、“どうせこれ以上は改善できない”とあきらめています。そうしたことが結果として、さらに便秘を進行させる要因になっています」
何より大切なのは、「便秘は病気」という意識を持つことだと辨野さんが続ける。
「多くの女性は“便秘は病気ではない”と思っていますが、3日以上便通がなければ、医学的には『便秘症』という病気です。まずは、便秘は病気という意識を持ってほしい」
危機意識が求められるのは、便秘が多種多様なリスクを招くからだ。便秘になってトイレでいきむと血圧が急上昇して心臓や血管に大きな負担がかかり、狭心症や脳梗塞などで突然死する危険性がある。いまも高齢者がトイレで死亡する事故は後を絶たない。
便秘は直接的な死だけでなく、さまざまな病も招く。痔や脱腸はよく知られる症状だ。だがそれだけではない。
「近年の研究で、大腸が全身の重大な病気の発生源となることが注目されています」(辨野さん)
便秘は免疫機能を低下させる
日本人の平均的な大腸の長さは約1.5m、小腸の長さは6~7mある。これらの腸の内壁をすべて広げると、その表面積はテニスコート2.5面分(約300㎡)に達する。腸内には約1000種類、約600兆個もの腸内細菌が生息し、おびただしい数の腸内細菌が集まって「腸内フローラ(花畑)」という生態系を形成し、腸のなかを整えている。
だが便秘になると、腸内で健康を司る「細菌のフローラ」のバランスが崩れてしまう。
「便秘になると、腸内で悪さをする悪玉菌が増加します。悪玉菌が産生した有害は腸から吸収され、全身に大きな影響を与えると考えられます。有害物質がたまって全身に広がるため、肥満や糖尿病などが起こりやすくなる。有害物質が脳に達すれば、認知症など脳の機能障害を引き起こす恐れがあります」(辨野さん)
松生クリニック院長の松生恒夫さんは「便秘による免疫機能の低下」を危惧する。
「腸は人体最大の免疫器官で、さまざまな病原体を退治する抗体の6割は小腸でつくられます。便秘によって腸の働きが弱まると体内の免疫機能が低下して、風邪やインフルエンザ、腸炎などの感染症のリスクが高くなる恐れがあるのです」
第7波の足音が聞こえる新型コロナにもかかりやすくなるとしたら由々しき問題だ。命にかかわる大腸がんと便秘の関連を指摘する声もある。
「便秘との直接的な因果関係を証明するのは難しいですが、腸内細菌のバランスが悪化して免疫機能が落ち、がん細胞が活性化して大腸がんを引き起こす可能性があります。大腸がんは女性のがん死亡数1位の怖いがんだけに、免疫機能を低下させる便秘を軽くみてはいけません」(辨野さん)
松生さんが続ける。
「早期の大腸がんは肛門に近い直腸と、S状結腸という便が貯留しやすい部分に6~7割近くが存在します。なぜそうなるかは不明ですが、便秘で外に出せない老廃物のなかに発がん性物質が存在する可能性があります。そうしたリスクを考えると、なるべく老廃物を腸内にためておかないことが望ましい」
2012年にアメリカ・メイヨー医科大学の研究者が発表した論文では、ミネソタ州の住民約4000人を15年間追跡調査した。すると、慢性的な便秘がない人の方が明らかに生存率が高く、便秘などで腸の働きが悪い人は寿命が短い傾向があった。同様の研究結果は他国でも複数みられる。
まさに便秘は「死を招く病」なのかもしれない。便秘の影響は脳や臓器だけでなくメンタルにも及ぶ。
「慢性便秘症になると精神活動に不調が及び、心療内科で抗うつ薬を処方されるケースがあります。また下剤を乱用するタイプの便秘症では過食症や拒食症の症状、摂食障害の傾向が認められやすい」(松生さん)
腸の不調により、ストレスなどの精神的苦痛が増えて症状が悪化するケースもあるという。心当たりがある人は多いのではないか。
教えてくれた人
辨野義己さん/辨野腸内フローラ研究所理事長、齋藤宏章さん/福島県相馬中央病院消化器内科医、松生恒夫さん/松生クリニック院長
※女性セブン2022年7月21日号
https://josei7.com/
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