死ぬまで自宅で暮らすための準備 相続とお金にまつわる3つの対策を専門家が指南
家族に見守られながら自宅で最期を迎えたい。その夢を叶えたくても、金銭や相続のトラブルで泣く泣く自宅を手放す羽目になっては元も子もない。家を守るために今すぐしておくべき対策を専門家に聞いた。ポイントは、「財産の把握」「退職金の使い方」「お金の申請」の3つだ。
対策1:夫が元気になうちに財産の把握を
女性の平均寿命の方が長い日本では妻が夫に先立たれるケースが多いが、自宅が夫名義の場合は注意が必要だ。自宅を含む財産を相続するのは妻と法定相続人であり、子供がいなければ、夫の両親、次いできょうだいにも相続権が発生する。
自宅などの不動産、金融資産などすべての財産が遺産分割の対象となるため、財産が少ないのに相続人が多いと、自宅を売却して遺産分割せざるを得ないケースが出てくる。
相続実務士の曽根惠子さんが語る。
「まずは夫が元気なうちに全財産を把握して、財産総額と相続人を確認しておくこと。不動産をはじめ、銀行預金や株式などの金融商品、生命保険や負債まで、すべての財産をリストアップしましょう。できれば相続人全員で財産内容を共有しておくことができればトラブルになりません」
相続の仕方もカギを握る。妻が自宅を相続する場合、従来の「所有権」取得のほかに、自宅に住み続けられる権利であり、より少なく相続税が見積もられる「配偶者居住権」を選ぶことができるようになった。
将来的にマンションへの住み替えや老人ホームへの入居を考えているなら、自宅の所有権を得て、売却代金を使える方がいい。
しかし、そうではない場合、「所有権」を得て自宅を相続すると不動産評価額が高額なため、預貯金の相続が減り、生活費が不足する。そして最終的に自宅を手放す事態に陥ることも少なくない。
「配偶者居住権は、遺産分割のために妻が自宅を手放さなくて済むように2020年4月に新設された権利です。所有権は子供など妻以外に渡りますが、預貯金などの金融資産を多めに相続できるので、住み慣れた家でずっと暮らしたいという人には適しています」(曽根さん)
また法的関係のない事実婚の場合、夫の遺言書がなければ家を相続できず、住み続けられない可能性がある。入籍して法的な配偶者になれば相続できるが、できない場合は夫の生前に遺言書を作成してもらう必要がある。
対策2:退職金は一括投資に使わないこと
死ぬまで自宅で暮らすには、まとまった「お金」がなくてはならない。老後生活の貴重な原資となるのが、定年退職時に受け取る退職金だ。
定年後の生活設計を専門とするファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが、その使い道について警鐘を鳴らす。
「退職金が入ると、金融機関が投資信託などの金融商品の購入をすすめてきますが、一括投資で使うことは絶対に避けるべきです。銀行の営業マンから『インフレでお金の価値が下がっているから、預貯金で寝かせず運用すべきです』としつこく言われても従ってはいけません。特に『毎月分配型』の投資信託は、毎月配当金が受け取れるのでお得に感じるけれど、運用益が出ていないと元本を切り崩して分配金に充てる恐れがあります。
投資の知識がない人は、普通に貯金をしておく方が無難。仮に運用する場合も、『つみたてNISA』など国の制度を活用して長期運用すべき。60才の平均余命は20年以上もありますから、10年以上は運用したい」(三原さん・以下同)
定年後もまだまだ続く老後には、甘言を聞き流し、堅実な道を選ぶ冷静さが必要だ。
対策3:「申請すればもらえるお金」を知っておく
現役時代より収入が減る老後において、頼りになるのが公的補助だ。さまざまな制度が充実している一方、「受け取ることに気が引ける」と申請を遠慮したり、制度について調べない人もいる。
税金を納めてきたのだから、いざというときは活用しなくては損だ。老後を自宅で暮らす際にかかるお金も「もらえる」ケースがある。
「自宅をリフォームしたり建て替えたりする場合、『バリアフリー改修促進税制』や『省エネ改修促進税制』といった減税制度がある。自治体が行うリフォームの支援制度では、省エネ、バリアフリー、耐震など、住んでいる自治体によって費用の補助を受けられます」
地方自治体が実施しているリフォームの助成制度などは住宅リフォーム推進協議会の支援制度検索サイトで調べることができる。
さらに、夫が先に亡くなった場合に受けられる「未支給年金」や、年齢や所得に応じて医療費の自己負担を軽減できる「高額療養費制度」、確定申告の際の「医療費控除」など、申請しなければもらえないお金は多い。しっかり情報収集をしておこう。
老後の助けになる! 申請すればもらえるお金6選
※もらえるお金/申請する場所/内容
■未支給年金
年金事務所、街角の年金相談センター
公的年金は2か月分をまとめて次の月に支払われるため、受給中に亡くなると必ず発生する。配偶者、子供、父母など、「亡くなった人と最も近しい3親等内の親族」なら請求できる。ただし、年金支払い日の翌月初日から5年経つと請求できなくなる。
■寡婦年金または死亡一時金
年金事務所、街角の年金相談センター
国民年金加入者の妻は、60~65才までは夫が受給するはずだった基礎年金の4分の3を「寡婦年金」として、最長5年間受け取ることができる。または、12万~32万円までの「死亡一時金」を受け取れる。
■高額療養費制度
勤務先や市区町村の健康保険の窓口
健康保険に加入している人が高額な医療費を支払った場合に、年齢や収入に応じた支払い上限を超えると、一部が戻ってくる。事前申請(限度額適用認定証を利用)で窓口の支払いが自己負担限度額までで済む。
■医療費控除
税務署での確定申告
1年間に支払った医療費が、一定額を超えると減税になる。
■福祉タクシー利用券
都道府県や市区町村の福祉保健局など
下肢、体幹、視覚、内部障害のいずれかを含む1・2級の身体障害者手帳を持つ人に、1枚500円のタクシー券を年間84枚(4万2000円分)交付するなど。
■雑損控除
税務署での確定申告
災害、火災、盗難などの被害を受けた際、所得から控除して減税になる場合がある。
教えてくれた人
曽根惠子さん/相続実務士、三原由紀さん/ファイナンシャルプランナー
※女性セブン2022年5月12・19日号
https://josei7.com/
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