住み慣れた自宅で「最期を迎える」5つのポイント|本人の意思は書面で、かかりつけ医を見つけておく等
亡くなる場所の選択肢が増えているにもかかわらず、圧倒的に自宅以外の場所で最期を迎える人が多い。それが「当たり前」だと思っていないだろうか。事前の準備さえできていれば、家族に見守られながら自宅で最期を迎えることも夢ではない。
事前準備といってもいろいろな事があるが、どんな人も避けられないのが医療への備えだ。病院や施設で死にたくない場合、「本人の意思」を明確にしておく必要がある。その他にもいくつかポイントがあるので、見てみよう。
【1】最期の迎え方の意思表示は「書面」で用意する
介護評論家の佐藤恒伯(ひさみち)さんは、東京都医師会のホームページにある「心づもりシート」の利用をすすめる。
「終末期医療に入って本人が意思表示できなくなった場合、医師は家族にどうするかを確認します。日常会話で家族に在宅死の希望を伝えていたとしても、いざその場面に直面すると家族も動揺するため、自宅での療養をあきらめて病院で最期を迎えることを選択してしまうケースが多い。自分の意思を遂行してもらうためには、『自分がどういう最期を迎えたいか』の強い意思表示が必要です。そのためには、書面で用意しておくことが肝要です」(佐藤さん・以下同)
心づもりシートは、「自分で意思表示ができないときに望む治療」「最期まで暮らしていたい場所」など7つの項目を記入する方式で、何度でも書き換えられる。
「必要な要素が端的にまとめられていて、公的な書類としても利用できます」
【2】介護する側を解放するための施設選びをする
自宅で最期まで暮らすなら介護施設とは無縁と考えるかもしれないが、施設を賢く利用した方が在宅介護もうまくいきやすい。
「介護する側へのケアという意味で、『レスパイトケア』という言葉がある。介護は、される側もする側も弱っていくことが多い。両方がストレスをため込まない環境を維持するには、デイサービスなどの介護保険サービスを利用し、介護者を解放する時間をつくることが重要です」
その際の施設選びで大切なのは、デイサービスだけでなく、ショートステイを併設する施設を選ぶことだ。
「施設によっては、ショートステイを利用する際は、別施設にいきなり送られることもある。知らない場所で知らないスタッフに囲まれることは、利用者にとって精神的に大きな負担となります。認知症を患っている場合は、症状が悪化する恐れもある。理想は、デイサービスの延長上でショートステイを利用でき、担当者が同じ施設内にいることです」
【3】あらかじめかかりつけ医を見つけておく
在宅死の実現には、訪問診療を行う“かかりつけ医”の存在が必要不可欠。
「50年前は訪問医が当たり前でした。近年は減少傾向でしたが、在宅死を望む声の増加とともに最近は訪問診療を行う医師が増えてきた。家まで薬を持ってきてくれる薬局や、訪問の歯科医もいる。いざ必要になる前に探しておくことが大事です」
人生の最期を任せる相手を、どのように選べばいいだろうか。
「決め手は、『患者に寄り添ってくれるかどうか』に尽きます。さらに、不安と緊張を抱える家族への配慮ができるかもポイント。いざ医師に会うと焦ってしまい、即決したがる人も多いのですが、合わないと思えば断って構わない。『ダメなら次でいいや』という気持ちの余裕を持ちましょう」(正看護師・大軒愛美さん)
在宅医療を受けるまでには複数のステップがある。ゆとりを持って医師探しをするためにも、早めに動き出した方がいい。
→一生頼れる「かかりつけ医」と出会うための3つのチェックポイント【医師監修】
■在宅医療を受けるまでの主な流れ
末期がんで入院している患者が退院し、在宅医療を受けるまでの流れをチェック!
(大軒さんの著書『自宅で最期を迎える準備のすべて』を参考に作成)
入院中
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病院のソーシャルワーカーに相談
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介護申請
地域包括支援センターや市区町村、居宅介護支援事業者で申請。家族がいない場合はソーシャルワーカーが代行して申請を行う。
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ケアマネジャー決定
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介護申請の審査
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要介護状態等区分決定
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医療ソーシャルワーカーと相談
車いすや歩行補助の杖、自宅に取りつける手すりなど、福祉用具の利用についても検討する。必要があれば自宅のリフォームを行う。
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訪問診療先の選択
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在宅クリニックの決定
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退院前カンファレンス(会議)
本人や家族のほか、主治医、看護師、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー、管理栄養士、言語聴覚士など参加できる全員で行う。
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介護保険・医療保険サービス内容決定
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書類作成
ケアマネジャーが介護保険サービスに関する内容を、主治医たちが医療保険サービスに関する内容の書類を作成する。
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退院して自宅へ
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在宅医療と介護サービス開始
退院し、自宅に帰ったその日からサービスの利用が可能。医師やスタッフが訪問する初回利用時には必要書類の準備を忘れずに。
【4】「介護保険“外”サービス」を賢く活用
在宅介護をする際は、介護保険で受けられるサービスをフル活用することが必須。その上で、介護保険を使わず自費でサービスを受ける「介護保険“外”サービス」を上手に組み合わせたい。
「たとえば生活補助を謳う介護保険外サービスなら、介護保険では受けられないマッサージや庭の掃除、ほかの家族の分の食事の準備や買い物の代行もOKです。車いすやストレッチャーを使って移動できる人なら、病院の介添えはもちろん、冠婚葬祭や墓参り、人によっては海外旅行のつき添いをお願いすることもできます」(正看護師 大軒愛美さん・以下同)
介護保険外サービスの費用の目安は、東京、大阪など大都市は1時間5000~6000円、地方は1時間2200~4500円程度が目安となる。
「一般的な家事代行サービスと違うのは、スタッフが介護の知識をしっかり身につけていること。しかも、保険外サービスのスタッフはベテランが多く、サービスの質が安定している。保険内サービスと家事代行の“いいとこ取り”をしたのが、保険外サービスと言えるでしょう」
お金はかかるものの、こうしたサービスがあることを知っておくだけで、いざというときには大きな支えとなる。
【5】「介護休業」制度で介護離職を防ぐ
高齢者の増加とともに、家族が介護のために仕事を辞める「介護離職」の問題は深刻さを増してきた。だが、コロナ禍によって、思いがけず解決の糸口も見えた。
「コロナ禍は、“リモートワーク”を一般的にしました。介護は手が離せないといっても、24時間つねにつきっきりというわけではありませんから、介護を集中的に行う2~3年はリモート可能な部署に配置してもらうといった働き方の提案も場合によってできるのではないでしょうか」(佐藤さん)
休業する際は、雇用保険から支給される給付金を忘れてはならない。介護ジャーナリストの末並俊司さんが指摘する。
「休業する人が会社員で、雇用保険の一般的な被保険者ならば『介護休業給付金』を受け取ることができます。対象となる家族1人につき、延べ3回、通算93日までの介護休業に対して収入の7割弱が支給される制度です」
本人だけでなく、支えてくれる家族の環境も整えることが、在宅死を成功に導く。
教えてくれた人
佐藤恒伯さん/介護評論家、末並俊司さん/介護ジャーナリスト、大軒愛美さん/正看護師
※女性セブン2022年5月12・19日号
https://josei7.com/