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車いすヒッチハイクの裏話「美容室のおっちゃんに2秒で救われた」寺田ユースケさん

 YouTubeチャンネル『寺田家TVサイボーグパパ』を運営する人気YouTuberの寺田ユースケさん。これまで車いすを相棒に新たな挑戦を続けてきた中で、人生の転機となったのが車いすヒッチハイクの旅だ。日本中を旅したときの旅のエピソードを、妻の真弓さんと共にお話いただいた。

【1】ヒッチハイクの旅で出会った「美容室のおっちゃん」

「車いすでヒッチハイクなんて! 僕は怖かったんですよ。日が暮れると思った」

 こう笑顔で語るのは、寺田ユースケさん。

「生まれつきの脳性麻痺で20才のときから車いすを利用している」というユースケさんの20代の締めくくりとなったのが車いすヒッチハイクの旅だ。

 旅をスタートしたのは2017年4月。『車いす押してくれませんか?』と、旅先で出会った人々に声をかけながら全国を旅した。

「誰もが気軽に『助けて』と言えて、誰もが後押しをできるような世の中になったらいいなという思いで、車いすの旅に出ようと決めました。

 歌舞伎町でホストの仕事を卒業した直後で、体調が悪くなってきている実感があって、悪くなる前にいろんなところに行きたいという思いもありました」

→前回の記事:寺田ユースケさんが歩んだ10年「僕にとって車いすはシンデレラのカボチャの馬車」

 HELP(助けて)とPUSH(後押し)をくっつけて、『HELPUSH(ヘルプッシュ)プロジェクト』と名付けた旅の相棒は、NISSINの車いす『AS-3 Shock absorber』。衝撃を吸収する設計で、「乗っていて腰への負担が少ない」という車いすだ。

「地方では整備されていない道も多くて、車いすの移動は大変なときも多くありましたが、出会った人たちはめちゃくちゃ優しくて。困ったことがあっても誰かが必ず助けてくれて、辛いと思ったことは一度もありませんでした。

 ただ、昼間にたくさんの人に会いまくるので、夜になると宿でひとりきりになると寂しくなるんです(笑い)」

 16の都道府県を巡り、車いすを押してくれた人は総勢300名を超えた。テレビ番組などの多くのメディアでも取り上げられ、話題を集めた。

「車いすヒッチハイクと言ってはいますが、旅を始めた当初は、車に乗るつもりはなかったんです。

 新潟・佐渡島に行ったとき、ABEMATVの取材が入っていて、『車をヒッチハイクしませんか』と、ディレクターさんに言われたんです。

 本当は、僕は嫌だったんです。猿岩石がヒッチハイクするテレビ番組を思い出して、あんなに過酷なことは絶対にできないと思っていました。だって、怖いじゃないですか。『やってもいいですけど、日が暮れますよ』と宣言していました」

 佐渡島に到着したときには大雨が降っていて、近くには人がまったく歩いていなかった。車をヒッチハイクするしか選択肢がなかった。「止まってくれるわけないだろ」と思いながら、しぶしぶ『佐渡金山へ』と書いたスケッチブックを掲げると――。

「たった2秒で成功しちゃったんです。スケッチブックを上げた瞬間に、向かいの美容室からおっちゃんが出てきて、『乗せていくよ!』と。美容室にいたお客さんも『大丈夫、大丈夫!』って(笑い)。

 車の中で、『車いすを乗せるのは面倒だとは思いませんでしたか』って聞いたら、『車のトランクめっちゃ広いし、面白そうだから乗せたよ』って笑っていました。

 そのあと車で朱鷺も見に連れて行ってくれた。またいつか会いに行って、あのときのお礼を言いたいですね」

【2】旅の途中でプロポーズ!? 妻の想い

 車いすヒッチハイクの旅には、もうひとつ印象的なエピソードがある。妻の真弓さんが当時を振り返る。

「ユースケと出会ったのは、小橋賢児監督が車いすの男性を撮った映画『ドントストップ』のイベントの手伝いをしているときでした。

 ユースケがちょうど車いすヒッチハイクの企画をしている時期で、その日は名刺をもらったんですが、後日、旅を手伝ってほしいとメッセージをくれたんです」(真弓さん)

 旅の様子を動画で撮影しながら、ユースケさんをサポートしていた真弓さんは、

「“何かを成し遂げたい”という勢いがすごい。チャレンジャー」だと感じたという。

「ユースケの地元でもある名古屋に旅したとき、付き合ってほしいと言われたのですが、この人と一緒にいたら、これから先も楽しいんじゃないかなって思ったんです」

 プロポーズは「ずっと僕の車いすを押してください」という言葉だった。

「嘘だと思われるかもしれませんが、結婚を考えたとき、彼の障がいや車いすを利用していることとか、そういうことは全然意識してなくて。海外にもひとりで行っているし、私が手伝うことは何もない。

 結婚して彼を支えるという考えはなくて、一緒に楽しいことをしたいという気持ちでした」(真弓さん)

 3年に渡って続けてきた車いすヒッチハイクの旅で、人生のパートナーも得たユースケさん。現在、真弓さんとの間には1才になる息子さんがいる。

「旅が縁だったので、深旅(みたび)と名付けました」と、夫婦で笑い合う。

 そんなユースケさんがチャレンジを続ける原動力となっていることがある。

「『障がいは個性ではない』と、僕の母がはっきりと言うんです。障がいと共に試行錯誤しながら生きているユースケの人生に唯一無二の個性を感じると、いつも言ってくれていたんです。

 今僕がYouTubeで発信しているのは、同じ障がいを持つ子供たちに、こんな先輩がいるんだということを知ってほしいという気持ちはあります。人はいつでも立ち上がれるって言いたいんです。

 それから、障がいのある人だけじゃなくて、健常者の人にも、僕の姿を見て『明日頑張ってみようかな』って思ってもらえるような人間になれたら、僕自身の人生も豊かになるんじゃないかなって思っています」

(次回は、長野に移住した寺田家の車生活に関するお話をお届けする予定)

お話を聞いた人

寺田ユースケさん

 愛知県生まれの31才。長野県に暮らす一児のパパ。生まれつきの脳性麻痺で足が不自由ながらも20才で出会った車いすで人生が一変。「車いす芸人」「車いすホスト」「車いすヒッチハイカー」など、異色の経歴を持つ。チャンネル登録者数10万人を超える『寺田家TV – サイボーグパパ』で情報を発信するほか、クラウドファンディングを展開する企業『CAMPFIRE』にも勤務。著書『車イスホスト』(双葉社)。

取材・文/氏家裕子

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