「難治性てんかんで闘病中の息子に選んだ”格好いい”車いす」理学療法士の挑戦・続編
病を抱える息子さんを育てながら、障がい児のための通所施設を運営する理学療法士、宮田貴史(たかふみ)さん。その熱意溢れる活動を介護ポストセブンで紹介したところ、多くの反響の声が届いた。そこで、続編として、宮田さんが関わってきた子供たちが生活の中でどんな壁にぶつかっているのか――再びその想いを聞いた。
息子のために格好いい車いすが欲しい!
「うちの息子は難治性てんかんという病気があって、長い距離を歩くことが難しいんです。体が小さいころは、バギーを使っていたのですが、小学生になって移動距離も長くなってきたので、先日、車いすを購入したんですよ」
穏やかな口調でこう語るのは、長崎市で活動する理学療法士、宮田貴史さんだ。
息子さんの病に直面し、「障がいを持つ子供たちが親亡き後も自立できるように」という想いから、障がい児のためのデイサービス『こどもトレーニングひろば』を開設し、代表として奔走してきた。
現在、息子さんは小学4年生。治療を続けながら、自宅で妻の麻衣子さんと、弟思いのお姉ちゃん(6年生)と生活しているが、いよいよ車いすが届くと――。
「お姉ちゃんがまっさきに乗りたい!! って喜んでいました。息子のために車いすを買うなら、娘も気に入るような格好いいのがいいなぁと(笑い)」(宮田さん、以下「」同)
宮田さんが姉弟を想って選んだのは、スタイリッシュなデザインに定評がある車いすのブランド『FORCE(フォース)』。
「『SKIP_R(スキップアール)』という車種で、折りたたんだ状態で自立するので使いやすく、何より軽いんです。
一般的な大人用の車いすは13キロから15キロくらいありますが、これは8キロで軽くて持ち運びしやすいんですよ。
いかにも車いすという感じではなく、デザインが格好いい。娘はもちろん、息子本人も乗り心地よさそうにしています。子供の成長に合わせてステップ高などを調整することで長く使えるんです」
価格は20万円ほどだが、障害者自立支援法のひとつ「補装具費支給制度」により、原則1割負担で済むため、実質2万円ほどだったという。
車いすでいざ街へ出ると困ったことも
「息子を車いすの乗せて出かけるときは、不便なこともあります。たとえば、ショッピングモールなど商業施設のエレベーターは、狭くて混んでいるとどうしても遠慮してしまいます。エスカレーターが利用できないので、車いすの人は優先的に乗っていい仕組みがあったらいいと思います」
子供たちの誰もが安心して遊べる場所であるはずの公園には、入ることすらできないことも。
「公園には車いすの子供が遊べる遊具はありませんし、そもそも公園の入り口に柵がついていて車いすのまま入れないこともあります。
理想を言えば、おむつを交換するトイレがあって、障がいを持つ子と、活発に遊び回る子たちが遊ぶスペースの棲み分けがされている公園があったら、安心して息子を遊ばせられるのになぁと思うこともあります」
車いすを利用している人とバスに乗る練習をしたときには、困ったことがあったという。
「バスの運転手さんに、車いすを固定するロックをかけて欲しいと頼んだら、『すぐそこで降りるならいいでしょう?』って言われました。
そのまま発車して、万が一のことがあったらみんなが悲しむことになりますから、なんとか説明して固定してもらったんですが…。車いすでの行動は、まだまだ発信しなければならないことも多いんだなあと感じています」
車いすの人になんて声をかければいいのか?
実際に、車いすを利用する人に出会ったとき、どのように声をかけるべきなのだろうか。
「段差が上れないとか、階段しかない場所などで、明らかに困っているなら『なにかお手伝いできることはありませんか?』と聞いてみるのがスマートだと思いますが、とくに困っていないなら声をかける必要はない。なぜなら、望まれていないのに手を貸すのは、その方の”自立”を妨げることになるかもしれません。
私自身は、大前提として『車いすに乗っている人が誰しも手を貸すべき弱い存在』という認識は変えるべきだと考えています」と、宮田さんはきっぱりと語る。
「私が大切にしているのが、『自立とは、危険を冒す権利と決定したことに責任を負える人生の主体者であることを周りの人間が認めること』※という言葉。
この言葉が示すように、1人で車いすに乗って街に出かける人は、自己決定をして、自分はできるという思いを持って行動しています。
親や周囲の人間が認めることが自立の第一歩。たとえば、『この子は知的障がいがあるから、洋服は私が選んであげないと』と考えるお母さんもいますが、その子は別の服が着たいかもしれない。私が接している親御さんには、『本人の失敗する権利を奪わないように』とお伝えしています。失敗して責任を負うことが自立につながるかもしれないからです」
※CIL(自立生活センター・Center for Independent Living)が掲げる「自立」の理念。CLIは、1970年代初頭に米国カリフォルニアバークレーに自立生活運動の拠点として発足した障がい者当事者による機関。
車を選ぶときに求めることと問題点
「我が家もそうですが、車いすを必要とするお子さんがいるご家族は、車での移動がメインになります。
車いすをたたんで乗せるのも大変ですし、車いすからお子さんを下ろして、シートに抱き抱えて乗せるのに苦労しているという声もよく聞きます」
「子供が大きくなってきたら車いすのまま乗り込める福祉車両も検討する時期が来るかもしれませんね。
病気や障がいによっては、車には、車いすだけでなく、人工呼吸器やおむつ、着替えなどたくさんの荷物を積むこともありますから、施設に通うお子さんのご家庭では、車内が広いミニバンやワンボックスタイプに乗っている人が多いですよ。
たとえば、『セレナ』(NISSAN)は後席のシートが窓側に跳ね上がるから、荷室のスペースが広く、車いすもそのまま乗せられます。
『シエンタ』(TOYOTA)は、2列目のシートをたたんで、3列目のシートを倒すと2列目のシートにもぐり込むような設計で、荷室がフラットになるから、介助が必要なお子さんがいて荷物が多いご家族には便利ですよね」
後席のシートはセパレートタイプが使いやすい
現在、宮田家で主に息子さんの送迎に使っているのは、ワゴンタイプの軽自動車『デイズ』(NISSAN)。シートアレンジができて、重宝しているという。
「『デイズ』は、後部座席のシートを片方ずつ倒すことができます。片側を倒して車いすを収納して、もう片方のシートに座ることができるので使いやすいんですよ」
職場では『N-BOX』(HONDA) も活用していて、同じようにシートがセパレートで片側を倒せるようになっている。後部座席のシートが一体型だと、荷室は広く使えるが、運転席と助手席にしか人が座れないという問題もあるという。
シートアレンジや荷室の広さのほかに、車に乗っていて困ることがあるという。
「後部座席に座っているお子さんの表情や顔色が、運転席からは見えにくくて心配になることもあります。お子さんの顔を見るためのミラーをもうひとつ付けているというお母さんがいらっしゃいました。大きな車だと運転席と後席は案外距離があるんですよね」
車いすでの行動や車での移動について理解を深めるために、宮田さんは、車いすについて研究や調査を行う『長崎シーティング研究会』の活動にも参加している。
「車いすや車に求めることは色々あるのですが、今のところ、うちの息子は、ジグソーパズルが大好きで(笑い)、風船を追いかけたり、家の中でほのぼのと遊んでいます」
目尻を下げて優しいパパの顔を見せる宮田さんだが、現在の目標は、医療ケアが必要な子供たちが宿泊できる施設をオープンすること。令和5年の開設に向け、熱血・理学療法士は全速力で走り続けている。
取材・文/氏家裕子
教えてくれた人
宮田貴史さん
理学療法士。ユースリー代表取締役。2人の子供を持つ父親。「障害児を持つ親が安心して死んでいける地域を作る」を目標に、日々奔走中。リフレッシュタイムには、自身のYouTubeチャンネル『パスタ天国』を更新。