専門家が行う認知症ケアで症状改善も 入居者の気持ちに寄り添う介護付有料老人ホーム<後編>
常磐線「南柏」駅から徒歩13分のところにある「マザアス南柏」。前編では副支配人を務めている認知症看護認定看護師の溝井由子さんに24時間介護・看護スタッフが常駐し、看取り介護まで行っている手厚さの内容を聞いた。後編では溝井さんを先頭に取り組んでいる「元気くらぶ」を中心に紹介していきたい。
高齢化社会が進み認知症への関心は高まっているが、初めての介護経験が、認知症を発症した家族のケアだと、対処の仕方が分からず、戸惑い悩んでしまう人も多いだろう。溝井さんによると、認知症には様々な症状や段階があり、専門的な知識を持った人が正しい対応をすることによって症状が緩和することも多いという。
「マザアス南柏」では、認知機能が低下し、不安や混乱が生じたり、徘徊や大声・興奮のある方の苦しみを理解しようと心を通わせ、寄り添い、原因を探りながら対応を工夫している。常に職員間で情報を共有しながら、統一したケアの方向性で対応し、居心地の良い環境を整えることによってほとんどの人が落ち着いてくるという。
オリジナルの「元気くらぶ」で認知症ケア
全国にまだ1000人ほどしかいない認知症看護認定看護師の資格を持つ溝井さん。認知症看護の専門家である溝井さんが3年前からスタッフと始めたのが「元気くらぶ」だ。
その目的を「居室に籠りがちなご入居者が、周囲と良い関係を保ちながら意欲的に参加することで、認知機能や身体機能の維持向上を図る。楽しみながら脳と身体を鍛えることで、情緒が安定し、笑顔が増え、生活能力の向上に繋がり、自分らしく活き活きと生活することができる」と掲げている。(全国有料老人ホーム協会主催・第16回「東日本事例発表研修会」での溝井さん発表資料より)
高齢者向けの施設で、特に男性に多くみられる傾向として、周りとあまりコミュニケーションを取らずに部屋にこもってしまうことがある。誰とも話さずにいることで、認知機能の低下を招き、認知症を発症する可能性が高くなったり、体が弱ってきてしまったりすることがあるという。また、その不安を抱えながら暮らしている人も少なくない。
「元気くらぶ」を作ったきっかけの1つには、そういった人のための認知症予防・改善がある。
「元気くらぶ」への参加は、本人・家族の希望者や職員の意見を取り入れて対象者を決めていて、今では32名が入っているそうだ。1グループは8名で、4グループに分かれて実施している。
「『挨拶をするようになった』『他の人と会話ができるようになった』『動作が機敏になってきた』『うとうとと眠そうに過ごしていた人が活き活きとしてきた』『イライラしていた人が落ち着いてきた』といった項目を半年に1回程度『東大式観察評価スケール』というものを使って点数で評価します」(溝井さん 以下「」は同)
「東大式評価スケール」は、「言語的コミュニケーション」「日常的コミュニケーション」「注意・関心」「感情」という4つの分類それぞれに5つの評価項目があり、5段階で数値化し効果を測っている。例えば言語コミュニケーションでは、「挨拶をする」「他の参加者に自ら話しかける」「話題や活動に即した発語がみられる」「同じことを繰り返し話さない」「話が内容的にまとまっている」といった観点を見ていく。溝井さんが医師会で発表した「脳活性化リハビリテーションの効果」では、11名を対象とした調査で、参加した全員に効果がみられたという結果が出ている。
認知症対応に強い施設として目指していくこと
溝井さんは認知症の人から入居の申込みがあった場合、できるだけ相談員や介護主任と一緒に入居希望者の自宅を訪問して、暮らしぶりを確認している。それは今までの暮らしをできるだけ継続し、スムーズに施設での暮らしに慣れてもらうためだという。
「お部屋には机やソファーなど長年お使いになっている家具や仏壇等を置いたりして、ご自宅のように思い思いに過ごして頂いています。私物が多い方、少ない方、ご自分の書道の作品を飾られる方などお一人おひとりにご自分にあったお部屋作りをして頂いています。慣れ親しんだ家具に囲まれ、これまでの暮らしの継続ができ、安心できる居場所があることで、落ち着いて過ごせるようになります」
「マザアス南柏」は25年の運営で培ってきた知見と最新の理論の両方を認知症ケアに活かしている。入居者の中には車椅子の状態で入居し、半年ほどで歩けるようになった人もいる。
「一人ひとりに細やかに対応し、生活のリズムを整え、昼間は服を着替えて、起きて過ごしていただいています。普通の生活、日常の暮らしに戻して、お食事もできるだけご自分で食べられるようにするなど工夫をしています。できることは自分でするという自立支援の働きかけをしていると少しずつ変わってきます。そうすると、ご本人も自信を取り戻しますね」
すでに地域で頼られる存在になっている「マザアス南柏」。認知症ケアの拠点として今後も進化していきそうだと実感した。
撮影/津野貴生
【データ】
施設名:マザアス南柏
公式WEBサイト:http://www.motherth.com/m-minamikashiwa/
所在地:千葉県流山市向小金3-147-2
最寄駅:JR常磐線「南柏」駅 徒歩13分
類型:介護付有料老人ホーム
運営主体:株式会社マザアス
敷地面積:4,230.7平方メートル
延床面積:6,722.7平方メートル
室数:105室
入居要件:入居時要支援・要介護
構造:鉄筋コンクリート造5階建
開設年月日: 1993年6月1日
料金:単身プランでA室(20.48平方メートル)の場合
【1】 一時金方式
入居一時金1000万円(90歳以上)~2240万円(65歳以上74歳以下)+月額利用料25万5000円(内訳:施設維持費6万2000円、食費6万3000円、水道光熱費3万円、上乗せ介護費10万円)
【2】 一時金・管理費低額方式
入居一時金1320万円(90歳以上)~2960万円(65歳以上74歳以下)+月額利用料19万3000円(内訳:施設維持費0円、食費6万3000円、水道光熱費3万円、上乗せ介護費10万円)
【3】 月払い方式
月額家賃17万円+月額利用料25万5000円
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
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