「12万円の年金で暮らす両親は生活が苦しいが、私も援助する余裕がない」娘の悩みにマムシさんは世を憂う
映画『老後の資金がありません!』でも描かれたように、高齢者にとってお金の問題は大きくて厄介である。ほかの事情ともからみ合って、深刻な状況に追い込まれることも少なくない。認知症の母の介護をしながら、生活のために清掃の仕事を続けている父。何もできないと嘆く51歳の娘の相談に、マムシさんがズバリとく答える。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「お金に困っている両親に何もできない」
おかげさまで、俺も出演している映画『老後の資金がありません!』は、たくさんの人が観に来てくれている。草笛光子さんが演じている主人公のお姑さんの姿は、高齢者が楽しく生きるためのヒントがいっぱいだ。
俺は主人公の友達の父親で、正義感が強い頑固ジジイの役なんだけど、あの大女優の草笛さんに向かって「ババア」と言っちゃってる。いやあ、気持ちよかったな。ハハハ。でも、ちゃんと必然性のある「ババア」だから、全国の草笛さんファンも怒らないでくれ。
今回は、両親の困った状況を心配している51歳の女性の相談。これは、なかなかたいへんだ。同じような状況にある人も多いかもしれないな。
「ふたり暮らしの両親がいます。76歳の母親が認知症で、75歳の父親がおもに介護をしています。貯蓄がまったくなく、年金もふたり合わせて12万程度で、父は清掃の仕事を続けていかないと生活できない状態です。
私も自分の生活で精一杯で、金銭的な援助はすることができません。食事の援助と仕事が終わってから自宅に顔を出す、土曜日は母親を買い物に連れ出し、お風呂に入れるくらいしかできていないのが現状です。弟がいますが、まったく協力していません。
父も高齢なため、自分から何かをしようという気持ちがなく、私をアテにしているところがすごく感じられて、私もどうしていいのかわからなくなっています。本当は逃げたい気持ちもありますが、そんなことはできないため、本当に困っています」
回答:あなたはよくやっているよ。だからがんばりすぎないでほしい
あなたは、ご両親を十分にお世話している。たいしたもんだよ。まずは「お疲れさま。がんばってるね」というねぎらいの言葉を贈りたい。
そんなあなただからこそ、あえて言いたいのが「がんばりすぎるのはよくないよ」ってことだな。全部受け止めて、全部ひとりで抱えていたら、あなたも潰れて共倒れになる。そうならないことがいちばん大事なんだけど、このままだとかなり危なそうだ。
まずは「ひとりで抱え込む」ことをやめよう。この状況は、あなたがどんなにがんばっても解決はしないよ。役所の窓口に相談に行ったほうがいい。近所の民生委員も紹介してもらえるはずだ。生活保護を受けるなり必要な福祉サービスを見つけるなりして、袋小路から抜け出すことを考えよう。お父さんだってかなり無理して働いているんだろうし、何よりあなた自身を早く救ってあげないと手遅れになる。
50代ぐらいだと、親の面倒は子どもが見ないといけないとか、役所の世話になるのは恥ずかしいとか、そんなふうに思っている人がいるのかもしれない。自分を苦しめるだけの考え方は、さっさと捨てようじゃないか。まずは自分が健康で幸せに暮らしていくことを考えないと、親にだってやさしくできない。毎日が辛くて苦しくて、親を憎んだり恨んだりしてしまうケースもあるけど、そんな悲しいことはないよ。
「世間にどう見られるか」なんてことを気にしている場合もある。世間がどう思ったっていいじゃないか。世間なんて、あなたやあなたの親の人生に何の責任も持ってくれないし、助けてもくれないんだから。そもそも、こっちが思うほどこっちのことを気にしちゃいない。世間は無視して、あなたと両親にとっていちばんいい方法を考えよう。
弟が協力してくれないことを嘆いているけど、責めるのはちょっと違うと俺は思うな。弟は自分の生活を大事にしてるわけだ。しっかりしているからこそ距離を置いているのかもしれない。もうちょっといっしょに考えてくれてもいいかもしれないけどね。
昔の人は「人生の前半は親によって、後半は子によって台無しにされる」と言った。若いときは親に、歳を重ねてからは子どもに振り回されるってことだ。それが今は、みんなが長生きになって「前半は親に、中盤は子に、後半はまた親に台無しにされる」という時代になってしまった。親だって、子どもの人生を台無しになんてしたくないはずだけどね。
精一杯がんばることは大事だけど、がんばらなくてもいい方法をがんばって考えることも大事だ。勇気を出して「助けてほしい」っていう声をあげよう。それはけっして逃げじゃない。その声に十分に応えられるように、政治家にもがんばってもらわないとね。あなたやご両親のような人が穏やかに生きていけない世の中は、間違ってるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
●映画『老後の資金がありません!』に出演の毒蝮三太夫「老後ど真ん中の高齢者にこそ観てほしい」