兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第129回 兄の年金申請に行ってきました】
若年性認知症を患う兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさんが、日々のあれこれを綴る連載エッセイ。マナミコさんは、兄の生活全般にわたってサポートをする生活を送っています。病院の付き添い、デイケアの送りお迎え、日々の食事や身の回りのお世話、お金の管理…。そして、予期せぬトラブルに翻弄されることも日常茶飯事で。
そんなツガエマナミコさんが、「明るく、時にシュールに」、認知症を考えます。
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「てえへんだな」
先日、駅のホームでぼんやり電車待ちをしていると、ジャージ姿の青年がわたくしの目の前でお財布を落とし、それに気づかずスタスタとホームの先に歩いて行ってしまいました。「あんなに重たそうなお財布を落としてなんで気づかないの?」と思いながら反射的に拾ったわたくしは、小走りで青年を追いかけて「すいません、これ落としましたよ」と声をかけました。でも青年はイヤホンをしており、振り向いてもくれません。わたくしはさらに小走りのスピードを上げ、腕の当たりを叩いてやっとお財布を渡しました。青年は不意を突かれて驚きながら、お財布を見て、すっとイヤホンを外して無言で会釈をしてくれました。
マンガやドラマならそこから恋が芽生えそうな展開ですけれども、ここでは残念ながらそういうことはなく、ただのオバサンの小エピソードでございます。
「ひとつ徳を積んだわ」と思いながら、そのときわたくしの脳