暮らし

シニア期の住まいを考える|お隣と繋がれる「コーポラティブハウス」って?経験者が明かす向く人、向かない人

 人生100年時代に突入し、ますます高齢化が進む日本。シニア期を快適に過ごすためにはどうしたらいいのか…住まいの観点で住宅ジャーナリストの中島早苗さんと一緒に考えるシリーズ。中島さんが取材した実例を紹介してくれました。

 * * *

 プレシニア期のうちに備える住まい方の一つとしてコーポラティブハウスについて紹介します。

 コーポラティブハウスとは、事前に住民同士で組合を結成し、土地の取得から設計、工事までの全ての契約を住民が直接行う集合住宅です。

 11月17日の記事に続き今回は、コーポラティブハウスに向く人、向かない人のタイプや、設計者、住み手として感じるメリット、デメリットなどについて、当事者の方々に聞いてみました。

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自由設計の「コーポラティブハウス」が戸建てと違う点

 まず、参加して住むのに向く人、向かない人のタイプについて。事業企画を手掛ける会社の一つ、コプラス(東京都渋谷区)のコーポラティブ事業部、大見卓央さんは端的に表現します。

「向いているのは、モノづくりが好きな人、こだわりが強い人、人付き合いが好きな人。反対に向いていないのは、コミュケーションが苦手な人だと思います」

 また、別の事業企画会社、アーキネット(東京都渋谷区)の幾つかのコーポラティブハウスで設計を担当した、建築家の山嵜雅雄さん(一級建築士事務所 山嵜雅雄建築設計)は、自身が設計したアーキネットのコーポラティブハウスに住んで16年になります。設計担当者として、また住み手として感じることやアドバイスを話してくれました。

「事業企画会社や、各コーポラティブハウスによって違いはありますが、住民同士で組合を結成して集まって住むので、各住人の距離が近いです。企画の段階からその輪の中に入っていけないタイプの人は、住み続けるのが難しいと思います。私が知っている物件でも、皆さんとうまく付き合えず、出来上がってから結局売却して引っ越してしまった人がいました。自由設計とはいえ、戸建て住宅ではなく距離感が近い集合住宅なので、それをわかって参加しないと、失敗に繋がりかねません」


居住歴17年の人が語る体験談

 別の企画会社UDS(東京都渋谷区)のコーポラティブハウスに住んで17年のKさん(60代前半)の意見、体験談も、紹介します。

「最大のメリットと感じるのは、14世帯の家族が一つの共同体、気心が知れた仲間となれることです。参加した段階から何度もミーティングをしたり、宴会をしたりしたので、入居前からコミュニケーションが始まり、それが今も持続していることがこんなにも心強いのかと思います。

 以前、購入した500世帯のマンションで隣がどんな人かわからないまま住んでいた時とは大違い。自分達の財産をいかにいい形で健全に長持ちさせるのかを議論できているのも良い点だと思います。

 反面、ある程度同じような価値観を持つ人達が集まらないと、不協和音が生まれ、住み始めるとやりにくくなるのではないでしょうか。それには、信頼できる経験豊かな事業企画会社が、集まる家族をうまくマッチングすることが必要だと思います」

 ちなみに、管理や修繕積立金については、山嵜さんが設計し住んでいるコーポラティブハウスでも、住人である組合の構成員で話し合って決める自主管理を基本とし、清掃など必要な業務だけを管理会社に委託しているそうです。

特性を理解すれば満足度の高い住まいを実現できる

 当事者の皆さんの意見、実体験からわかるのは、住み手が自主的、直接的に参加、運営していくコーポラティブハウスの特性をよく理解して住む人は満足感が高く、そのコミュニティはシニア期の見守り合い、繋がりとしても心強いものだということ。逆に、向かないタイプの人が選んでしまうとリスクが大きいということでしょう。

 また、自由設計については、山嵜さんはこう話します。

「自由設計は、住み手にとっては自分のためだけの空間が造れるので、満足感は高いと思いますし、自分も快適に暮らしています。

 しかし、設計者の立場としては、全戸に対してフェアに対応しますし、毎週のように各住み手と打ち合わせを繰り返すので、戸建ての注文住宅を戸数分同時に設計、監理するような労力になります。設計事務所には大きな負担になる点が、設計側から感じるデメリットかもしれません。

 また、コーポラティブハウスの特性として、大型マンションのような広大な土地は取得しにくく、限定された中小規模の土地に建てることになります。土地が狭いと地階も利用するため、どうしてもメゾネットの住戸が多くなり、部屋の重なり方によっては、上下で隣接する住戸の生活音が気になる人もいると思います。設計段階で住み手の方々には、生活音が抜ける、気配がする可能性を説明しますが、Aさんの水回りをBさんの寝室の上に載せない、などと配慮しながらクレームの出ないパズルを造るように全戸のレイアウトを考えていく点も、設計の苦労と言えます」

デメリットよりメリットのほうが圧倒的に多い

 住み手のKさんにも、自由設計の感想を聞いてみました。

「与えられた占有面積を最大限生かせるような知恵をたくさん、設計者がくれるのがありがたかったです。事前に、他のコーポラティブハウスの建物を見学できたことも良かった。設計の最初に、どのスペースにいる時間が長いか、どこに重きをおきたいか、24時間を細かく分析しました。そこで、自分達は寝るだけのベッドルームより、リビングルームやお風呂を充実させたいことが見えてきて、そう実現しました。

 典型的なマンションのように長い廊下を造る必要もなく、南にバルコニーがなくてはいけないという既成概念もないので、北側バルコニーでも光を十分に取りこめれば、また風通しが良ければ快適に過ごせることを教わりました。窓をどう使うかの自由度が素晴らしかったです。

 でも不満というか、後悔もあります。14世帯のうち、3−4世帯ずつ担当者が異なるのですが、入居直前に全世帯の見学会をした時に、様々なポイントで、あ、ウチもこうすれば良かった!と思うところがありました。いいアイデアをなぜシェアしてくれなかったのかな、という不満が少々ありました。

 デメリットももちろんありますが、私を含めて住んでいる人は、メリットのほうが圧倒的に多いと感じているのではないでしょうか」

「家は暮らしで使う道具の一つ、人生その時々で変えていく」

 建築家の山嵜さんは60代前半ですが、今後本格的な高齢期を迎えた時にも今のコーポラティブハウスに住み続けるのか、聞いてみました。

「僕がこの住まいを設計、入居した時は子ども達がまだ中学生と小学生の子育て期でした。子ども達は独立したし、らせん階段があるので、このらせん階段の上り下りが辛くなったら引っ越し時なのかなと考えています。

 家は暮らしで使う道具の一つですから、人生のその時々で変えていけるようにしておくのがいい。僕は、今はこのコーポラティブハウスを気に入って暮らしていますが、本来賃貸派で、ここを設計する前は賃貸住宅に住んでいました。その意味では1回の家造りに全財産をかけるのでなく、シニア期に体や家族構成が変化した時に、リフォームしたり住み替えたり老人ホームに移ったりできる余力を残しておくことがリスクヘッジになると思います」

 体力がある65歳ぐらいまでに、もっと高齢になった時にどう住むかを考え、準備しておく。2回にわたって紹介したコーポラティブハウスは、見守り合いやコミュニティが充実している点がシニア期にも魅力ですが、人生が長くなったので、その先のことも考えておいたほうが良さそうですね。

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文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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