暮らし

シニア期の住まいの不安を解消する住宅 「コーポラティブハウス」4つのメリット

 住宅ジャーナリストの中島早苗さんと一緒に本当に快適な終の棲家とは何かを考えるシリーズ。「シニア期に快適な住まいで暮らすには、“プレシニア期”である65歳までに準備した方がいい」と語る中島さんが、今回紹介するのは「コーポラティブハウス」だ。初めて聞くという人も多いかもしれないこの住宅スタイルについて教えてもらった。

分譲マンションではない集合住宅

 コーポラティブハウスという言葉を、聞いたことがありますか?

 一言で説明すると、入居希望者が集まり(実際には事業企画・運営会社の募集によって集められ)、組合を結成して事業主となり、土地の購入、設計、工事契約等全てを直接行う集合住宅を指します。

 カテゴリーは同じ集合住宅でも、間取りやデザイン、価格があらかじめ決められている中から住戸を選んで「買う」分譲マンションとは、仕組みや取得の仕方が大きく異なります。

 コーポラティブハウスは、個々の住戸の間取り、デザイン、仕様は住み手が設計士と相談しながらある程度自由に決められるため、内部を暮らし方と好みに合わせて造れるのが最大の魅力と言えます。

 元々の歴史は古く、ドイツや北欧、北米で広がり、あのジョン・レノンが生前住んでいたニューヨークの「ダコタ・ハウス」もコーポラティブハウスの一種だったそうです。

 日本では1975年に大阪で始めた「都住創」が、コーポラティブハウスの事業企画兼設計の草分け的存在です。私も80年~90年代に都住創の建物を幾つか取材しましたが、マンションのようでありながら、それぞれの内部が全く違う個性的な住戸の集まりが、当時は大変新鮮に感じました。

 現在、日本でコーポラティブハウスの事業企画を手掛ける会社は複数ありますが、実績と年間の建築棟数が多い主なものに、コプラス、アーキネット、UDS(前都市デザインシステム)といった会社があります。それぞれ特色があり、事業企画だけを専業にする会社や、設計や運営も兼務する会社など、担う業務にも違いがあります。

 今回と次回は、この主な3社の関係者にヒアリングをし、コーポラティブハウスのメリットやデメリット、参加する場合の注意点などを考えてみたいと思います。

 まずコプラス(東京都渋谷区)のコーポラティブ事業部、大見卓央さんにメリットから聞いてみました。

コーポラティブハウス、4つのメリット

「主なメリットは以下の4つです。

 1つ目は、ライフスタイルや好みに応じた『自由設計』です。予算や優先順位に合わせて、水回りの位置や窓の位置・形状も含めた間取り、デザインにできます。キッチン、お風呂の仕様や大きさ、収納の造り込み、電気設備まで、設計者とマンツーマンで打ち合わせをしながら造ることができます。

 2つ目は、合理的な『取得価格』です。分譲会社が造ったものを『買う』のではなく、自分達で造っていく家なので、価格の内訳、明細が明らかで、分譲会社の利益も乗りません。自由設計の過程でも自分の優先順位にあわせてコスト配分できるので、合理的な価格での家造りができると思います。

 3つ目は、住まい造りの『プロセス』に関われる点です。『買う』家の場合は、出来上がった家が引き渡されるまで待つだけですが、コーポラティブハウスの場合は、出来上がるまでのプロセスも価値を持ちます。設計中は、家族で話し合いながらお互いを改めて理解する機会になり、工事中は、分譲マンションでは見られない、造っている途中の状態も見られます。このプロセスがあるからこそ、家への愛着や安心感が育まれると思います。

 4つ目は、繋がる『コミュニティ』です。入居する方々自身で組合を結成して家造りのプロセスに関わっていく段階で、皆さんで集まる機会が何度かあるため、建物が出来上がって入居する頃には、住民同士がお互い顔見知りになります。昔で言う『向こう三軒両隣』、お互いの顔が見える関係性が出来上がり、都会で暮らす中の安心感に繋がります」。


 ここで、UDSのコーポラティブハウスに住んで17年のKさん(東京都世田谷区在住・60代)に、実際の住み心地などの感想も聞いてみました。

 Kさんはこのコーポラティブハウスに参加、入居した時はご夫婦2人暮らしでしたが、その後夫が亡くなり、今は1人暮らし。夫が居た時からの住民同士の繋がりが、今ではとてもありがたいと言います。

「今でも何かある度に、UDSのご担当者や、施工した建設会社の方が相談に乗ってくれるのでとても助かっています。現代の長屋のように、仲の良い住み手の方達と繋がっているこの住まいは、特に独り身の私にとって心強いです」(Kさん)

 私もこれまでコーポラティブハウスは何十軒と取材させてもらいましたが、住み手の方からは、メリットの数々を聞くことの方が多かったです。

 ただ、個性的なコーポラティブハウスに参加して住むというのは、誰にでも向く一般的な方法ではないとも思います。住み手の方からメリット、肯定的な話が多く聞けたのは、そもそも住んでいる方は、コーポラティブハウスという住まいが好きで納得して参加しているので、時には苦労とも言える大変なプロセスも乗り越えられ、結果、肯定的な話が多くなるのかもしれません。

 コプラス大見さんに、デメリットについても聞いています。

コーポラティブハウスのデメリット

「デメリットの1つ目は、時間がかかるという点です。設計の段階からそれぞれの家造りが始まりますので、プロジェクトの規模や敷地条件にもよりますが、入居までに1年半から2年くらいかかります。

 2つ目は、自己資金が多めに必要な点。先に土地を買って、設計や工務店に直接発注するので、自己資金が1割以上は必要です。

 3つ目は、不確定要素がある点です。これから『造る』家なので、どのプランで幾ら、とあらかじめ明確に決まっている分譲マンションとは違います。また、工事期間が外的要因で伸びて、入居予定時期が延びる可能性もゼロではありません」

 確かに、入居できるまで長い期間がかかること、不確定要素があることなどは、これまでの取材でも何度も聞いたことがあります。

 Kさんも次のような感想を話してくれました。

「コーポラティブハウスに取り組むのは覚悟が要ります。1年半位はかかり、毎週末、建築担当者とのミーティングを繰り返します。途中で面倒くさくなり、『トイレのペーパーホルダーはどれにしますか?』と聞かれて、もうどれでもいいという気持ちで適当に選んだものを、翌週改めて見て慌てて変更する、ということが何度かありました。

 また、うちのコーポラティブハウスは14世帯しかないので、理事長、副理事長、書記という4人の役員がすぐ回ってきて、それも負担と言えば負担です」

 コーポラティブハウスのほとんどは、世帯数がそれほど多くないので、1戸当たりの管理費や修繕積立金の負担が大きくなると聞いたこともあります。

 それを理解、納得したうえでなら、コーポラティブハウスは、集合住宅と一戸建ての注文住宅、両方の良さを兼ね備えた住まいのかたちと言えます。

シニア期では、住民同士の繋がりが安心感に

 Kさんの感想にもある通り、シニア期に1人暮らしになったとしても、建てる前から知り合いになっている住民同士の繋がりが心強いでしょう。昨今は独居のシニアの増加に伴い、孤独死件数も増えていますので、お隣さんとのお付き合いがあるコーポラティブハウスは、シニア期の見守り合いもしやすいと思います。

 そして、高齢になればなるほど面倒になる一戸建ての維持、管理の手間を自らかけることなく、注文住宅に近い自由度のある間取りに住める点も、いろいろな住まいを経験してきたシニアにとっては、高い満足感に繋がるのではないでしょうか。

 そうした、鉄筋コンクリートの集合住宅のメリットも享受できるコーポラティブハウスですが、デメリットや自分が向いているかどうか、参加に当たっての注意点等をよく吟味して検討する必要がありそうです。

 次回、設計を担当する建築家の話もまじえながら、コーポラティブハウスのことを、更に深堀りしたいと思います。

文/中島早苗(なかじま・さなえ)

住宅ジャーナリスト・編集者・ライター。1963年東京生まれ。日本大学文理学部国文学科卒。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に約15年在籍し、住宅雑誌『モダンリビング』ほか、『メンズクラブ』『ヴァンサンカン』副編集長を経て、2002年独立。2016~2020年東京新聞シニア向け月刊情報紙『暮らすめいと』編集長。著書に『建築家と家をつくる!』『北欧流 愉しい倹約生活』(以上PHP研究所)、『建築家と造る「家族がもっと元気になれる家」』(講談社+α文庫)他。300軒以上の国内外の住宅取材実績がある。

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