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在宅介護の費用は「5年で1782万円。介護者の負担も問題」【介護専門FPが解説】

 老後不安が一気に高まるきっかけとなった「老後資金2000万円不足問題」。60才の夫婦ふたり暮らしでは毎月5万4519円の赤字になり、90才までの30年間で、合計2000万円が不足するとの試算だが、実は、この計算は2017年のデータをもとにしたもの。それから現在までの4年間で、不足額は大きく変動している。老人ホームに比べて在宅介護にかかる費用は安くすむのだろうか?専門家の意見を聞いた。

 老後は、生活費に加えて医療費と介護費用が大きくのしかかってくる。医療費は健康保険を適用したとしても夫婦で必要な医療費は約600万円、介護費用は要介護度により異なってはくるが、死ぬまでの間に夫婦で約1000万円を用意しておく必要があるとの試算がある。老人ホームに入居したり、自宅での介護サービスを利用したり、世帯によっては1000万円以上必要になることもあるだろう。

自宅で介護をするといくらかかる?

 では、自宅で家族の手を借りたり、介護サービスを利用するのはどうか。当然ながら、在宅の介護サービスの費用も、要介護度によって異なる。基本的に、介護サービスの利用料は1割負担。要介護3なら月々平均2万7000円なので、介護期間が5年なら、合計約162万円になる。老人ホームと比べると圧倒的にリーズナブルに思えるが、事情はそう単純ではない。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「コロナ前の2019年の家計調査を見ると、高齢夫婦の支出は、生活費だけで月々平均27万円。5年間で必要な介護費用と合わせれば、1782万円になります。老人ホームと比べれば安くすみますが、介護する側の負担や介護保険の支給額などを考えると、単純比較は難しい」

「要介護度別の支給限度額と自己負担限度額」表

介護保険はあるが介護する人の負担も…

 介護保険は要介護度によって月々約5万~約36万円の支給限度額と、月々約5000~約4万円の自己負担限度額が段階的に設けられており、それを超える介護サービスはすべて自己負担となる。

 とすれば、金額では比較し難い「介護する側の負担」が問題になる。介護専門ファイナンシャルプランナーの伊藤雅浩さんが言う。

「要介護5ともなれば、ほぼ寝たきりの状態です。床ずれを防ぐために、30分に1回は寝返りを打たせなければならず、常につきっきり。介護する側はほぼ出掛けられないどころか、自分が食事を摂るひまもないほどです。

 実際に、認知症を発症している要介護3のケースでは、着替えやトイレの介助まで必要です。“週に数回利用しているデイサービスの帰宅時間には必ず家に誰かがいなければいけない”など、時間的な制約も増え、何かと負担が大きい」

 もちろん、食事や排せつ、入浴の介助といった身体介護や、掃除や洗濯、買い物、薬の受け取りなどは、介護保険適用の生活援助サービスを利用すれば、お金をかけずにある程度負担を軽減することはできる。だが、実際に少ない負担でそうしたサービスを受けられるかどうかは、その地域を担当するケアマネジャーの腕次第だという。

「在宅サービスは、ケアマネジャーに『ケアプラン』を作成してもらってようやく、サービスが開始します。ヘルパーなどの訪問介護や訪問看護、訪問リハビリなどがあり、要介護度が上がるにつれて、ケアマネジャーの采配が重要になる。希望通りにならないことも多々あります」(伊藤さん)

地域の社会福祉協議会に相談を

 そもそも、自宅で介護する人がやらなければならない仕事はそれだけではないはずだ。散歩などの外出の介助や本人の金銭の管理、同居する家族のための家事、ペットの世話や庭の管理、家屋や家具の修繕…一緒に暮らしながら介護をするには、想像を絶する労力が必要になる。これらの仕事も介護サービスに依頼することはできるが、介護される本人に直接関係しない仕事には、介護保険が適用されないことが多い。

「介護保険が適用されないサービスが必要になったら、地域の社会福祉協議会に依頼するのも手です。自治体によって異なりますが、家事の援助といった保険適用外のサービスを民間と比べて安く受けることが可能です。例えば、通院介助とは別に、医療機関内での待ち時間中のつき添いは介護保険外のサービスです。ところが、自治体によっては1割負担になることもある。諦めずに問い合わせたり、調べたりしてみてほしい」(三原さん・以下同)

老人ホームを検討する判断基準は?

 金額だけで考えれば、在宅介護に軍配が上がる。だが、老人ホームに入居すれば、介護はプロに任せることができ、万が一のときもすぐに医師の診察を受けることができる。どちらも一長一短だが、何を基準に判断すればいいのだろうか。

「統計的には、要介護2までは在宅サービスを利用する人が多い傾向にあります。要介護3以上になると住宅性能の低い自宅には住み続けるのが難しいこともあり、施設への入所が進むのでしょう」

 伊藤さんは、判断基準の1つに「ひとりでトイレに行けなくなったら老人ホームを検討してもいい」と話す。

「“自宅で最期を迎えさせてあげたい”という気持ちは誰しも抱くもの。ですが、無理をしすぎてストレスを抱えてしまう方が問題です。要介護4以上なら、家族だけで介護するには負担が大きすぎます。ひとりで食事や排せつができなくなったら、施設入居も1つの選択肢だと考えてほしい」(伊藤さん)

教えてくれた人

三原由紀さん/プレ定年専門ファイナンシャルプランナー
伊藤雅浩さん/介護専門ファイナンシャルプランナー

※女性セブン2021年11月25日号
https://josei7.com/

●老後快適に暮らすための5つの注意ポイント|孫への出費、長距離の引っ越しもリスク

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