やせてきた86才の親の体重が増えた!栄養補助食品の必要性、正しい選び方、摂り方
記者の父親は86才のときに食が細ってやせてきたが、栄養補助食品を日々の食事にプラスしたら体重が増えて元気になった経験がある。そこで、改めて“栄養補助食品”に注目。選び方や今注目のおすすめ商品について、専門家に話を聞いた。
65才以上の女性5人に1人が低栄養傾向
加齢とともに噛んだり飲み込んだりする機能が低下し、食が細くなりがち。つい簡単な食事で済ませがちだが、栄養不足が心配…。
厚生労働省の令和元年「国民健康・栄養調査」によると、65才以上の高齢者で低栄養傾向の人の割合は、男性12.4%、女性20.7%。低栄養傾向は、BMI(体重と身長から算出する肥満・低体重[やせ]の指数)が20以下の痩せ型の人を指す。女性に限ると、65才以上の約5人に1人が低栄養傾向にあたる。
「高齢者の方が栄養不足になると、体力が低下し抵抗力が弱くなり感染症にもかかりやすくなります。筋力が落ちて骨折の原因にもなりかねません。早い段階から低栄養の予防をしてほしいですね」
こう話すのは、高齢者食専門サイト『スマイリーフード』を運営する管理栄養士の徳(正式なお名前は旧字表記)田泰子さんだ。
徳田さんは、高齢者施設で食事改善や栄養指導、安全な食事提供のためのサポートなども行っている。高齢者の栄養事情について詳しく教えてもらった。
高齢者の低栄養の原因
徳田さんによると、高齢者の低栄養の原因には、以下のようなものが考えられるという。
・活動量が低下し、食欲が落ちている
・摂食嚥下(せっしょくえんげ、食べ物を口に入れて噛んだり飲み込んだりする一連の動作)機能の低下
・消化・吸収機能の低下により十分な栄養を摂り入れることが難しくなった
「高齢になり活動が減ってくると、食欲も低下しがち。さらに、噛む力や飲み込む力も弱くなり、むせやすくなって誤嚥性肺炎を引き起こしたり、十分な栄養が摂れないと免疫力も下がったり、病気のリスクも高まります。
加齢による病気の予防や健康の維持のためにも、食事からの栄養摂取が大切です」(徳田さん、以下同)
食が細くなってたくさん食べられない、普段の食事だけでは栄養が摂れないという高齢者におすすめなのが、栄養補助食品だ。
そこで栄養補助食品の選び方や摂り方を教えてもらった。
栄養補助食品・タイプ別特徴と選び方の注意ポイント
「栄養補助食品とは、普段の食事では足りない栄養を補うことを目的とした商品のこと。食事だけでは十分な栄養確保ができない場合、栄養補助食品を取り入れることで、必要な栄養素を補うことができます。
エネルギーがしっかり摂れて体に必要なたんぱく質を補えるものを選ぶといいですね」
栄養補助食品には、ゼリー、ムース、半固形、スープなどさまざまな形状があるが、選ぶときは、注意が必要なものもあるという。
「ゼリータイプは、咀嚼(そしゃく)の必要がなく、飲み込みやすいというメリットがありますが、ゼリーの状態によっては、水分と固形分が分離する“離水”するものもあり、水分によって誤嚥の心配も。
キャップ付きで袋を押して出す“スパウトパウチ”タイプの商品なら、分量の調節ができるので誤嚥のリスクを抑えられると思います。
また、ムースタイプなら離水することもなく、誤嚥しにくいといえますが、パッケージの形状によっては、指先に力が入りにくい人にとってフタが開けにくいというものもあるようです」
飲料タイプならストローで吸いこむことができるかなど、本人に合うものを選びたい。
ただし、栄養補助食品はあくまでも食事の“補助”的な役割として活用してほしいという。
「食事には、ただ単に栄養を摂るだけでなく、食べる楽しみを提供する大事な役割もあります。食事で摂れない分の栄養を補うためのサポートとして栄養補助食品を上手に活用してくださいね」
プロおすすめの栄養補助食品7選
栄養補助食品もさまざまな商品がある中で、徳田さんが注目するのが、食事に簡単に取り入れやすく、少量で高栄養を摂れるもの。おすすめの7つをピックアップ!
1.「クノール たんぱく質がしっかり摂れるスープ コーンクリーム」/味の素
1食でたんぱく質8gが摂れるほか、ビタミンDやカルシウムといった高齢者に必要な栄養も摂取できる。熱湯を注ぎ15秒かき混ぜるだけ。手軽だから食事にプラスしやすい。コーンクリームのほか、ポタージュもある。
・カロリー:コーンクリーム130kcal/1袋(ポタージュ110kcal/1袋)
・価格:238円(1箱2袋入り)※編集部調べ
「牛乳約235ml(コップ1杯強)相当のたんぱく質がこれ1食で摂れます。牛乳が苦手な人にもおすすめです。馴染みのあるスープなので、いつもの食事と合わせやすいですね」
2. 「和風だし香る茶碗蒸し」/クリニコ
80gの食べ切りサイズで、たんぱく質5.0gと茶碗に小盛り白米の半分相当の100 kcalのエネルギーが摂れる。容器のまま湯せんでき、温めても食べられる。かつお風味、ほたて風味、かに風味、ゆず風味、とり風味、まつたけ風味の6種の味が選べる。
・カロリー:100 kcal/1個
・価格:4147円(1ケース24個入り)
「おかずの1品として取り入れることができるので、食事量が減っている方には負担が少なく、和風だしの旨みが食欲を刺激してくれますよ」
3. 「高カロリー豆腐」/井村屋
1個75gで100kcalと高カロリー。たんぱく質も4.2g摂取でき、体内に吸収されやすい中鎖脂肪酸オイルを使用。高齢者にもフタが開けやすい仕様なのも嬉しい。
・カロリー:100 kcal/1個
・価格:756円(7個入り/冷蔵)
「なめらかな食感が高齢者にはよいですね。食事の1品として、また豆腐のアレンジレシピにも活用できるので便利です」
4.「アイソカル ゼリー ハイカロリー」/ネスレ
食が細い人でも食べやすいゼリータイプ。りんご、もも、あずき、スイートポテト味ほか、10種の味が楽しめ、少量でも高カロリーで良質なたんぱく質などの栄養も摂れる。医療・介護現場でも30年以上の実績を誇るブランド。
・カロリー:150 kcal/1個
・価格:3192円(1箱24個)※ネスレ通販オンラインショップ価格
「飲み込みやすいゼリーで味のバリエーションも豊富です。1個66gとコンパクトですが、おかゆ約1杯分(全粥食230g)のカロリーが摂取できます。賞味期限も長くストックしやすいですね」
5.「明治メイバランス Miniカップ」/明治
たんばく質、ビタミン、食物繊維など体に必要な6大栄養素が1本で摂れる栄養調整食品。125mlでご飯約1杯分(精白米120g弱)相当の200 kcalが摂取できる少量高栄養の設計。ミルクテイスト、ヨーグルトテイスト、Argの3シリーズで合わせて13種類の味が楽しめる。
・カロリー:200 kcal/1個
・価格:248円
「メイバランスシリーズは、商品や味のバリエーションが豊富。飲料、ゼリー、アイスなどのタイプがあり、日々変化する体調に合わせて選べます。常温保存でき備蓄も可能です」
6.「ブイ・クレス ハイプチゼリー」/ニュートリー
1個23g(大さじ約1杯半)とミニサイズだが、小盛りのご飯半分相当のカロリーを補給できる。12種のビタミンやミネラル、吸収が速く効率的にエネルギーとなるMCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)を配合。
・カロリー:80 kcal/1個
・価格:1710円(1袋24個入り)※通信販売参考価格
「ミニサイズ(1個23g)なので小食の方にも適しています。ビタミンバランスがよく、ソフトな食感で飲み込みやすいです。間食として活用していただきですね」
7. 「栄養プラス ココア」/アサヒグループ食品
10種のビタミンや食物繊維などを配合。お湯や温めた牛乳を2回に分けて加え、かき混ぜるだけでおいしく作れる。体を温めてくれるので、寒い冬にはとくにおすすめ。
・カロリー:145kcal/1回分(35g)
・価格:529円
「1杯35gで145kcalのエネルギー補給ができます。牛乳で作ればたんぱく質を、ココアは食物繊維も摂れるので、便秘が気になる高齢者の方にもおすすめです」
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記者の父が高齢者施設に入居した86才当時、環境の変化もあってか食が細り、やせてきていた。そこで、施設の栄養士と相談し、栄養補助食品を差し入れることに。
施設の食事とは別に、飲料タイプやゼリータイプの商品を1日1個追加した。半年ほど続けると、すっかり体重が戻って元気を取り戻した経験がある。バラエティ豊富な栄養補助食品を上手に活用して、高齢者が健康で楽しい食生活をサポートしてほしい。
※栄養補助食品の効果には個人差があります。体調に不安がある場合は、主治医や施設スタッフ、管理栄養士などにご相談ください。施設への差し入れに関しては、施設へご相談ください。
教えてくれた人
管理栄養士、調理師・徳田泰子さん
病院勤務の後、管理栄養士として独立。利用者目線に立った健康メニュー提案、充実した高齢者食提供の支援など「おいしく・楽しく・健康な暮らし」を実現するため起業。栄養コンサルティング会社「株式会社ヘルシーオフィスフー」を設立し代表を務める。高齢者食専門サイト『スマイリーフード』を運営し、介護予防のための食に関する情報も発信している。https://foo.co.jp/
取材・文/本上夕貴