兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第109回 やめてよベスト7】
若年性認知症を患う兄と2人暮らし中、兄の生活をサポートをするライターのツガエマナミコさん。できなくなったことが増え、不可解な行動も目立ったきた兄への対応に苦慮しながらも、状況を受け入れようと努めて日々を過ごしています。とはいえ、どんどん進む兄の病状を目の当たりにし…。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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兄の語彙力低下が止まりません
この夏、1年弱務めてまいりましたマンション理事長のお役を無事に終了いたしました。理事会の中では若めの女性、且つ引っ越して来て2年の新参者だったので周りがフォローしてくださいましたが、理事長印を押すだけでも、一応資料に目を通さなければならないので大変でした。その重責から解放され、改めまして会計理事となったツガエでございます!
ここでは誰もが理事は2年間連続で担当し、1年ごとにお役目が変わるという習わしのようです。今回から理事長印の代わりに銀行印を管理することになりました。このマンションが積み立てている莫大な財産の印鑑でございます。考え様によっては理事長印よりも重い押印の責任になります。マンションにとって初めての大規模修繕が、来年着工に向けて準備が始まっておりまして、いよいよ大きなお金が動くという時に会計になってしまったわが身を呪わずにはいられません。
もしも、兄が認知症でなければ兄任せだったと思うので、兄がボケてくれたお蔭で、いい勉強をさせてもらっております。
兄は相変わらず、一日中家でテレビを観て過ごしております。動かない、しゃべらない、趣味もない、感情の起伏もない…のないないづくし。「こういう生活が記憶の低下を加速させていく」という典型的な家庭環境のような気がいたします。
ただ、認知症の人が問題行動を起こすのは、周りから注意されたり、自分を否定されたりすることが引き金になると何かで読んだ気がいたします。
わたくしは、努めて兄を見ないように生活しております。見てしまうと腹が立って「やめてよ」と言いたくなることばかりだからです。
もう聞き飽きたわ~と言われるでしょうけれども、改めて「やめてよベスト7」を申し上げると、スリッパのままベランダに出ること、そこでオシッコをすること、そのスリッパでリビングに上がってくること、その手で窓やカーテンをベタベタ触ること、トイレのあとキッチンで手を洗うこと、くずかごのティッシュを取り出してテーブルを拭くこと、トイレの棚の物陰に丸めたトイレットペーパーや抜け毛を隠し置くこと。以上でございます。
現実問題、今の兄は、言語が通じないと思った方がいいくらい、語彙が乏しくなっており、「バスタオルを自分の部屋に持って行って」が通じません。「バスタオルとはなんぞや? 自分の部屋ってあったっけ?」と外国人のように両手を広げてしまうのです。
「〇〇の中に」とか「××の上に置いておいて」と言っても信じられないくらいに通じません。例えば食べ終わった食器を流しまで運んでくれて、「これはここでいいの?」と言うので「ありがとう、その流しの中に入れておいて」と言ったら「流し?流しって?」となって、流しの目の前にいるのにキョロキョロしているのです。しまいには排水溝のカバーを取って、その中に入れようとしたりいたします。奇想天外、摩訶不思議! それでも、何か役に立とうとしてくれているのですから良しとしなければいけませんね。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ