橋田壽賀子さんは83才から!いつからでも始められるエクササイズをトレーナーが伝授
年々、延びつつある日本人の平均寿命。たとえ長生きしても、体に問題を抱えて日常生活が制限されてしまってはつまらない。「人生100年時代」のいま、重要視されるのが「健康寿命」だ。
「自分のことは自分でやる」の言葉通り、最期まで自分の足で歩き、生涯現役で過ごした脚本家の橋田壽賀子さん(享年95)は、「寝たきりになりたくない」と一念発起し、83才から始めたトレーニングを亡くなるひと月前まで12年間も継続した。
橋田さんが週3回、継続して取り組んだトレーニング内容は、どのようなものだったのか。マンツーマンで橋田さんをサポートし続けたトレーナーの八代直也さんに、教えてもらった。
筋トレは“あせらずマイペース”が続けるコツ
橋田さんは、最初からすべてのトレーニングをこなそうとせず、自分の体と相談しながら段階的に回数を増やしていった。83才から始め、12年間も続いた秘訣はそこにある。少しずつ重ねた努力は、5年、10年後に大きく花開くこととなる──。
橋田さんは、約30分のストレッチで体をほぐした後、座位と立位のエクササイズを行った。そのメニューは、以下の通り。
【1】体感
バランスボールに座り、腕を上げて手を組む。腕は耳の横がベスト。手のひらは上でも下でもOK。息を吐いて上体を右、吸って真ん中、吐いて左。骨盤が傾かないように注意。左右10回。
【2】胸椎
バランスボールに座り、息を吸いながら肩甲骨を真ん中に近づけるように肘を後ろに引く。胸椎を伸ばす意識で。次に息を吐きながら腕を前に伸ばし、背中を丸めて肩甲骨を広げる。10回。
【3】肩関節
指先で肩を触り、肘で大きな円を描くように前回し8回、続けて後ろ回し8回。呼吸は肘を上げるときに息を吸い、下ろすときに吐く。肩甲骨から動かすイメージで。肩が上がりやすいので注意。
【4】肩関節の回旋運動 I
腕を左右に伸ばし、右腕を外旋(外側に回す)、左腕を内旋(内側に回す)させる。続けて右腕を内旋、左腕を外旋。左右交互に繰り返す。外旋した指先に顔を向けると首筋も伸びる。10回ずつ。
【5】肩関節の回旋運動 II
右腕を外旋させながら上げる。左腕は内旋させながら下に。続けて左右反対の動きで、呼吸を止めずに上(外旋)、下(内旋)を繰り返す。肩が上がりやすいので注意。左右10回ずつ。
【6】バランスボールバウンス
股関節と膝が90度になるようにバランスボールに座る。手は腰に、背筋を伸ばし上に弾む。お尻がボールから離れないぐらいが◎。10回。両足バウンスができる人はウオーキング(写真)に挑戦して。
【7】バランスボールスクワット
バランスボールに寄りかかるように背中と壁で挟む。足は肩幅(つま先は外に向け)、手は胸の前で交差。背筋をまっすぐにキープしたまま、息を吸って下がり、息を吐きながら上がる。10回。
【8】ふくらはぎ
壁を押すように両手をつく(肩の高さ)。足は前後に開き、かかとを床につける。後ろの膝を伸ばし、ふくらはぎ、アキレス腱の伸びを感じながらかかとの上げ下げ。左右各10回。
【9】らせん状筋膜リリース
壁に寄りかかるように肩の高さに肘をつき、足を前後に開く。前足と同じ側の腕を斜め後ろに開く。肘は曲げてもOK。背筋を伸ばし、上体のひねり、胸の開きを意識してひと呼吸。左右各10回。
【10】もも・ふくらはぎ
かかとがしっかり床につく高さの椅子に座る。手は座面を握り、背筋を伸ばし、足首は直角のまま、かかとを前に突き出すように膝を伸ばす。かかとを床につけたままでもOK。左右各10回。
【11】スクワット
足は肩幅、つま先は外向き。両手は頭の後ろ、または胸の前で交差。息を吸って下がり、息を吐いて上がる。曲げた膝がつま先より出すぎないように10回。椅子を置き、椅子にお尻をタッチさせる上げ下げでもOK。
【12】つま先デッドリフト
足は肩幅、つま先は外向き。背筋を伸ばし、手は体の横。背筋から首筋までまっすぐをキープしたまま、膝と腰を曲げて指先でつま先をタッチ。息を吸って下がり、吐いて上がる。10回。
「先生はバランスボールが大好きだったのでボールに座ってやっていましたが、椅子に座って行っても構いません。【2】は鎖骨からみぞおちの胸椎のストレッチにもなります」(八代さん、以下同)
【4】【5】はスイマーだった橋田さんらしい運動だ。
「肩関節を柔らかくするためのエクササイズで、四十肩や五十肩の予防にもなります。なるべく肘を曲げないように行います。先生は最初は腕だけでしたが、上手にできるようになったので、首筋を伸ばす首の回旋運動も同時にやっていました。年を重ねると首筋が固まりやすいものですが、先生の首は柔軟でした」
首の寝違えや肩こりがつらいときにやると改善が期待できるという。
【6】は橋田さんが大好きなメニュー。
「先生が好きだったのがバウンスウオーキング。『これならいくらでもやれる』と、疲れるまで好きなだけやっていました(笑い)。でも、これはやってみると実は疲れるんですよ。背筋はまっすぐにキープしてくださいね」
【7】はバランスボールを背中でしっかり押しながら、しゃがめるところまでしゃがんで行う。膝や腰が痛いかたはできるところまで。
「私がボケてるなと思ったら、言ってね」
橋田さんは83才からトレーニングを始めたが、最初からいきなりすべてができたわけではない。
段階的にできるようになり、継続していたから90才を超えてもできていたのだという。つまり、こうしたトレーニングは、誰でもいつからでもスタートできるのだ。
「先生は『周りの人に迷惑をかけないで生きていきたい。ジジババ扱いされたくない。そのためにも健康でいたい』と繰り返しおっしゃっていました。周囲から気を使われすぎることをあまり好まず、車の乗り降りに手を貸そうとしたときも、先生は『自分で歩くから大丈夫』とお断りになります。トレーニング中は『これは闘いよ!』と自らを叱咤されていました。先生は耳も口もよくて、トレーニング中はずっとしゃべってました。『私が同じ話を繰り返したり、ボケてるなと思ったら言ってね』なんて言うんですが、そんなこと一度もありませんでした(笑い)。先生はとにかく話題が豊富でした。新聞は毎日すみずみまで読むし、テレビは時事問題からドラマ・情報番組の類いまでまんべんなく。いつも何にでも好奇心いっぱいでした」
また、食生活はメリハリあるものだった。
「トレーニングの日の朝ご飯は、梅干し2個と金柑の煮ものと黒豆ですませ、そのほかには、筋肉を作るために毎日お肉を200g食べる、とおっしゃっていました。運動だけしていても健康になれるわけではありません。運動、食事、休息のバランスが大事なのです」
最後のトレーニングは今年2月末。自分の足で歩いて来店し、靴の脱ぎ履きも自分で行った。
「先生はよく、『晩年でいちばんよかったことは、あなたと出会えたこと』とほめてくれました。そうでなければ車椅子になるか死んでしまっていたと。たしかに、何もしなければ筋力は落ちるし、寝たきりにならないためにはトレーニングは大事です。1時間ずつ週3日、12年間継続すると、延べ1900時間近く。先生は努力の積み重ねによって、実年齢より確実にお若い体を保っておられました。“若返りトレーニング”を続けたことが最期までお元気でいらした秘訣だと、改めて感じています」
目標があるから続けられる!
昨年はコロナ禍で外出を制限していたものの、橋田さんはトレーニングだけは続けていた。その原動力となったのが“世界を巡る旅”だ。
「『世界一周クルーズにいずれまた行きたい。そのためにも体力を維持したい』とおっしゃっていました」(八代さん)
そのほかにも、「一年のうちでたった2週間しかない“アラスカの夏”を再び体験したい」とか、「ヒマラヤの標高何千mかのところに日本人がやっているホテルがあって、ヘリコプターで行けるから一度行きたいんだ」などと目を輝かせながら語っていたという。楽しみや生きがいを持ち、その実現のために頑張る姿勢を私たちも見習いたい。
プロフィール
■フィジカルコーチ、コンディショニングトレーナー・八代直也さん/1971年生まれ。脚本家の橋田壽賀子さんをはじめ、大相撲の第71代横綱・鶴竜、女子プロゴルファーの渡邉彩香など、トップアスリートから小学生まで、年間1500人のコンディショニング指導を行っている。
■橋田壽賀子さん/1925(大正14)年生まれ。1949(昭和24)年、松竹に入社。テレビドラマの脚本家として、『おんな太閤記』『おしん』(ともにNHK)、『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)など数多のヒット作を世に送り出した。
取材・文/伏見友里 撮影/関谷知幸(八代さん)、太田真三(橋田さん)
※女性セブン2021年7月15日