年をとって「記憶力がよくなった」人たちがしている3つのこと 読者調査で判明
物忘れが増えてくると、「年だから仕方ない」と思いがちだが、本当にそうだろうか? 世間には50才を過ぎて司法試験に合格する人もいれば、医師免許を取得した人もいる。彼らはどこが違うのだろうか? その答えは、女性セブンが実施したアンケートにあった。年齢を重ねて、「むしろ(記憶力が)よくなった」人たちに共通する生活習慣があることがわかった――。
「年を重ねるほど記憶力が悪くなる」はウソだった!?
女性セブン(小学館)のメルマガ会員クラブ『女性セブン倶楽部』にてアンケートを実施したところ、「以前より物覚えが悪くなった」「少し悪くなった」という人の合計が8割を超えた。これだけ見ると、加齢による記憶力の低下は仕方ないことのように思えるが、本当にそうだろうか?
■あなたは、以前に比べて物覚えが悪くなったと感じていますか?
●結果
・悪くなった:29.4%
・少し悪くなった:51.3%
・以前と変わらない:19.0%
※『女性セブン倶楽部』会員にwebにて「記憶力に関するアンケート」を実施(有効回答者数1524人)。
20代と60代で記憶力に差はない
「『年をとると記憶力が低下する』というのは誤りです」と語るのは、精神科医の和田秀樹さんだ。
「長年、老年精神医学に携わっていますが、加齢とともに進行する脳の萎縮を止める方法は、脳科学的には見つかっていません。でも、エビングハウス(※1)の忘却曲線によると、20代と60代で記憶力に大差がありませんでした。つまり、加齢で記憶力が低下するわけではないことが複数の研究で明らかになっているのです」
特に注目なのは、脳の萎縮は40代から始まるが、脳が同じくらい縮んでいても、「できる人」と「ボケる人」に分かれるという点だ。
「たとえ脳が縮んでいても、使えるか、使えないかの違いは、頭を使う習慣があるかどうかで決まります。筋肉同様、毎日使わないと脳も衰えてしまうのです」(和田さん)
だからこそ、日頃から脳の健康を維持し、適度に刺激する習慣がより重要になる。些細な物忘れは認知症への不安を招くが、心配しすぎることはない。脳を活性化させ、“使える脳”にするための習慣を身につければいいのだ。ではどこを見直せばいいのか? 次の項目で見てみよう。
(※1)…ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが発見した、時間の経過とともに物事を忘れる法則。人間は1時間後に56%を、1日後に74%を忘れるが、この法則に年齢差はないという。
物覚えのいい人がしている3つのこと
脳科学的には、年齢と記憶力の低下に関連性がないものの、現実には多くの中高年が加齢とともに物覚えが悪くなったと感じている。このギャップについて、前出の和田さんはこう解説する。
「年をとって記憶力が悪くなったと嘆く人には、『意欲が低下した』『時間をかけて復習しなくなった』という人が多い。意欲を持ち続けるには、好きなことやこれまでの経験が生かせる得意分野を選んで学ぶことがコツといえます」
今回のアンケートで「物覚えがよい」人と「物覚えが悪い」人の差がはっきりした。それが下の結果だ。
★あなたは何か習い事や勉強をしていますか?
「物覚えがよい」と答えた人の6割が習い事をしているのに対し、「物覚えが悪い」と答えた人で習い事をしている人は2割に満たない。向学心や意欲の違いが、大きな分かれ目となっている。
★あなたは覚えたことを人に話しますか?
「物覚えがよい」人の4割は、自分が覚えたことを他人に話している。一方、「物覚えが悪い」人はそれが2割未満にとどまっている。他人に話すことで自分の考えが整理され、理解が深まり、記憶の定着が進むのだ。
★あなたは日記をつけていますか?
「物覚えがよい」と答えた人の4割が「ほぼ毎日」「たまに」日記をつけていると回答。日々の出来事を書き出すことが記憶の定着によい影響を与えているようだ。
1.6割が習い事や勉強をしていた
「物覚えがよい」と答えた人の6割が、「習い事や勉強をしている」と回答。これは、好奇心・向学心があり、積極的に新しいことを吸収しようとする人の記憶力が衰えないことの証明といえよう。では、具体的に、どんな習い事をしている人が多いのだろうか。アンケートの回答からいくつか引用しよう。
■遺伝子、栄養、健脳食育など、健康に関する講座を2~3年前から受講しています。(46才・会社員・大阪府)
■茶道を習っていますが、お茶会で着物を着る機会が多く、着付けも習い始めました。いまは、華道も習っています。(56才・契約社員・栃木県)
■10年前から手話を習っています。耳の不自由なかたと友達になったものの、意思の疎通があまりできず、いつか手話を覚えてみたいと思い続け、50代になって始めました!(61才・主婦・山口県)
2.「人と話す」「声に出して読む」ことが脳の刺激に
年をとってから始める習い事や学びの方向性について、認知症予防の専門家・今野裕之さんは、次のようにアドバイスする。
「認知症予防という面から、楽器を弾く、歌を歌う、韓流ドラマが好きであれば韓国語を習うなど、好きなことに関連した勉強を深めるのがおすすめです。
手を使う・口をよく動かしてコミュニケーションをとるという面では、囲碁や将棋、対戦型のゲームもいいですね。ひとりで黙々と勉強するより、人と話したり、書いたり、声に出して読んだりする方が、脳にはいい刺激になります」
近年、記憶を定着させるには、ひたすら暗記をして脳内にインプットするより、書く・声に出す・人に話すなどのアウトプットが重要なことがわかってきている。
アンケートでも、「覚えたことを人に話しますか?」という質問に対して、「物覚えがよい」と答えた人の8割が、「いつも積極的に話す」「割と話す」と答えているが、このことからもアウトプットの大切さがわかる。
3.物覚えがよい4割の人が日記をつけている
同様に「日記をつけているか?」という質問では、「物覚えがよい」と答えた人の4割が「ほぼ毎日」「たまに」と答えている点に注目したい。このほか、「ランニングをしながら頭の中を整理する」など、記憶の定着のために運動を習慣にしている人も多い。
「運動は、脳の血流をよくすることで、記憶の定着をサポートします。運動をしすぎると体の酸化を進めて老化につながるので、つらさを感じない程度の運動を毎日するのが重要です。好きな俳優や推しのアイドルグループを追っかけるなどといった“疑似恋愛”も、覚える意欲を高めるのに有効です」(和田さん)
教えてくれた人
和田秀樹さん/精神科医
『和田秀樹こころと体のクリニック』院長。国際医療福祉大学大学院 臨床心理学科教授。近著に『60代から心と体がラクになる生き方 老いの不安を消し去るヒント』(朝日新書)。
今野裕之さん/認知症予防専門家。著書に『最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術』(青春新書インテリジェンス)
取材・文/北武司 イラスト/田中斉
※女性セブン2021年6月17日号