記憶力が劇的に回復するメモ術5行日記|あれあれ症候群や認知症対策にも!
「あれあれ症候群」を年のせいにして諦めていないだろうか。今回紹介するのはその予防策──それはずばり、“手書きでメモ”をすること。今日からできる簡単メモ術で脳をよみがえらせて、思い出せない生活から脱却しよう!
「あー、あの女優きれいだったわよね。あれよ、あれ…あのドラマに出てたあの人…顔はわかるのに名前が出てこないわ!」
人の名前や作品のタイトルなど、知っているのにどうしても思い出せない経験は、誰にでもあるだろう。そんな「あれあれ症候群」は、50才前後から起こりやすくなるという。
加齢のためだけではなく、単調な毎日を送っていると脳への刺激が少なくなり、結果的に脳の働きが悪くなると話すのは、認知症の専門医である長谷川嘉哉さんだ。
「20才を過ぎると1日10万個の神経細胞が死滅するといわれています。しかし、脳を的確に刺激することで、何才からでもパフォーマンスを向上させることは可能です」(長谷川さん・以下同)
必要なことが思い出せないと、記憶が消えたと思いがちだが、そうではない。
「記憶は“物事を覚える”→“記憶を脳に保存する”→“思い出す”という3つの工程から成り立っています。一度脳に記憶しても、必要な時に情報を引き出せなければ、『あれあれ症候群』に陥ってしまうのです」
では「あれあれ症候群」を回避するにはどうしたらいいのか。
その鍵となるのは、“ペンを握ってメモを取る”というアナログな方法だ。
脳に入った情報を“書き出す作業”を
認知症予防に「箇条書き・5行の手書き日記」
「あれあれ症候群」だけでなく認知症予防に有効なのは“手書きで日記を書くこと”だと長谷川さんは言う。
「手書きをする際、脳内では記憶の形成や想起に重要な役目を果たす海馬から、記憶を引っ張り出します。そしてそれを、記憶を言語化する前頭前野で文章として組み立て、指先を繊細に動かして書くという作業を行います。手書きという何気ない作業ですが、脳はかなり刺激されます。手書きと比較して、スマホやパソコンで文字を打ち込む時には、決まった法則でしか指を動かさないため、脳はあまり刺激されません」
日記といってもいきなり長い文章を書かなくてもいい。
「日記自体は“箇条書き・5行”で充分です。慣れれば1分で書くことができます」
この5行日記には2つの利点がある。
1つは、インプットされた情報を整理し、それを書き出すというアウトプットにより、限りある脳の容量が空くことだ。脳には、入ってきた情報を一時的に保存し、優先度をつけて処理する「ワーキングメモリ(作業記憶)」という領域がある。このことから、ワーキングメモリは“脳の司令塔”と呼ばれている。家事をしながら次の予定を立てて、かかってきた電話に対応して…なんてことができるのも、ワーキングメモリのおかげだ。
しかし、同時に処理できる情報はせいぜい7つ程度。しかも50代になると5つほどに減ってしまうことがわかっている。
「ワーキングメモリの容量は限られているため、たくさんの情報を抱えるとメモリの働きが鈍くなり、都度必要な記憶を引き出しにくくなります。やるべきことの優先順位をメモしたり、仕事を人に任せたりしてワーキングメモリの容量を空けると、脳が活発に働いてくれます」
5行日記の一例
5行日記は、その日に起こったことを朝から順に思い出し、以下のように箇条書きにするだけでもいい。
●その日の天気
●その日食べたもの
●その日の服
●その日何をしたか
●一日の感想
とても簡単な作業のように思えるが、書く内容の取捨選択が行われるので、脳がフル稼働して活性化する。
ただし、毎日続けることが大事になってくる。なぜなら知らず知らずのうちに日記を書く、つまり記録を残すという前提で行動するようになり、充実した生活に変化してくるというメリットもあるからだ。
脳に定着しやすい“エピソード記憶”
5行日記のもう1つの利点は、“一日を思い出す”ことにより記憶が定着し、引き出しやすくなることだ。
記憶には大きく分けて“意味記憶”と“エピソード記憶”の2種類がある。
“意味記憶”とは、一般的な知識などに関するもの。例えば歴史の年号や英単語などがこれに当てはまる。覚えようと努力しないと覚えることができず、また、覚えたとしても思い出しにくいのが特徴だ。
対して“エピソード記憶”とは、簡単にいうと“思い出”のこと。感情を伴った記憶は、定着しやすいだけでなく、容易に思い出せる。つまり、記憶を引き出しやすくするためには、できるだけエピソード記憶として覚えた方がいい。
「エピソード記憶として覚える時、感情を司る扁桃核という部位が働きます。扁桃核と、記憶を司る海馬が結びつくことで、明確な記憶となって定着するのです」
思い出話が認知症治療に
認知症治療の1つに“回想療法”がある。これは、思い出を語ることで認知症の進行を遅らせ、精神的な安定を図る心理療法のこと。
思い出を語る時、脳内ではエピソード記憶が引き出されている。つまり、回想療法も日記と同じで、エピソード記憶を引き出す訓練になる。
「懐かしい昔の話をすると、人は心地よさを覚えるなど感情が動きます。それによって感情を司る扁桃核が刺激されるのです。認知症になると、扁桃核は、記憶を司る海馬より先に萎縮し始めます。ですから扁桃核を刺激することにより、認知症の進行を遅らせたり、予防したりすることができるのです」
長谷川さんは“回想療法”を、ワーキングメモリが減っていく50代に入る前から始めることを推奨する。
「子供時代のこと、趣味のことなど、テーマは何でもいい。認知機能を維持するためにも、仲間と思い出話をして、扁桃核を刺激してあげるといいでしょう」
“思い出せなかったノート”も効果的
日記のほかにも認知症予防に効果的な方法がある。その1つが“思い出せなかったノート”だ。
「『あれあれ症候群』で出てこない言葉でも、できるだけ自力で思い出す努力をするといいです。“あれ”の関連事項を思い浮かべていくと、いくつかは見つかります。そのように脳内でタグづけされ保管されている言葉をたぐり寄せる時、脳はフル回転し、あらゆる場所が刺激されます」
また、思い出せない言葉には、人それぞれ傾向があると長谷川さんは言う。
「ど忘れしてしまった単語や事柄を“思い出せなかったノート”に記録し時々見返すことで、弱点を見つけ補強することもできます」
もう1つは “新聞コラムの書き写し”だ。
「記事を読んで書き写すことを繰り返すと、ワーキングメモリが鍛えられます。また、スマホやパソコンの変換機能に頼らず書くことで、忘れていた漢字が書けるようになってくる。文章力もアップします」
手遅れだと悲観する必要はない。脳は何才からでも進化する。続けられそうなものから始め、日々脳に刺激を与えてあげよう。
※女性セブン2019年10月31日号
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