「僕にとって離婚は勲章、あなたにとっては傷」…絶句『大豆田とわ子』5話
とわ子(松たか子)が突然現れた取引先からプロポーズを受けた。すわ、4回めの結婚? と思いきや、それはとんでもない罠でした。折り返しを迎えた『大豆田とわ子と三人の元夫』5話を、ドラマ大好きライター・釣木文恵さんが振り返ります。
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プロポーズが一転、悪気のない侮辱に
「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉を、ときおり思い出す。『大豆田とわ子と三人の元夫』5話を見て、やはりその言葉を思い出した。悪意がないほうがタチが悪いなと思うことがたびたびある。取引先の社長(谷中敦)がとわ子へのプロポーズのあと、彼女に語った言葉はたぶんすべて本心なのだろう。だからこそなおさら、理解し合えない、と思ってしまう。
若者にも人気のアートプロジェクトに設計・建築面で関わることになったとわ子の会社。先方の社長・門谷はその内容を打ち合わせで高く評価し、契約もそこそこにプロジェクトが走り出すことに。そんな中で、門谷もバツ3であることが判明。そして彼は突然とわ子にプロポーズする。かなりの追加費用も発生したところで、改めて契約の話をしに行くと「(プロポーズの返事)考えてくれましたか」と門谷は次々と言葉を続ける。
「あなたをお守りしたいと思っているんです」
「あなたのようなかわいそうな人を見るとほっとけないんですよ」
「どうもだめな女性にひかれるところがあるんですよね」
「僕にとって離婚は勲章みたいなものですけど、あなたにとっては傷でしょ。僕はその傷をまるごと受け止めてあげようと思ってるんです」
どれも絶句してしまうほどの侮辱だけれど、たぶん本人は気づいていない。背が高くスタイルも顔もいい門谷の強い口調からは、「あなたは間違っている」と周りから言われたことのない彼の人生が見えるようだ。その後、「追加予算があるなら契約破棄をする」ととんでもないことを通告し、それをたてにとわ子をひとり車に乗せることさえ、彼の中では正当な駆け引きでしかないのかもしれない。
勘がいいから気づいてしまった真実
そんな門谷の発言に、「失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」と返したとわ子に拍手を送りたい。そして「おかしいでしょ、おかしいよ」「人を侮辱してるよ、最低だよ」「当たり前でしょ、許せないよ」と珍しく本人以上に怒ってくれる最初の夫・八作(松田龍平)の存在がとわ子にいてくれることの救いを感じる。
しかし次の瞬間、とわ子はさらに深く傷つくことになる。彼女も大人だから、門谷のとんでもない侮辱に対しては「こういう人もいる」と割り切ることができるかもしれない。けれど最初の夫の好きな人が自分の親友・かごめ(市川実日子)だったと15年経ってようやく気づいてしまったその気持ちは、「持ち帰って整理」するにしてもなかなか整理しきれそうにない。
勘だけはいいから、20代のとわ子は最初の夫に他に好きな人がいることに気づいたし、いまのとわ子は社員たちが自分のサプライズパーティーを計画していることに気づいたし、そして自分の誕生日に八作から渡された靴下が、実はかごめに渡したかったものであること、好きな相手はかごめで、その思いは今もおそらく続いていることに気づいてしまった。
元夫たちとの関係は彼らが築き上げたもの
門谷に追加費用と契約の件を直談判しに行ったまま連絡を寄越さないとわ子。「人を傷つけるのは他人だから、慰めてもらうのも他人じゃないと」と、3番目の夫・慎森(岡田将生)と2番目の夫・鹿太郎(角田晃広)もとわ子を案ずる。傷つけてしまったけれど、八作の「大豆田とわ子はずっと最高です」の言葉に嘘はない。心配してくれる人がこれだけいるのはやはりひとつの幸福だし、それは彼らが互いに別れたあとも(基本はドライだけれども)思いあえる関係をつくってきた彼ら自身の資質と努力によるものに他ならない。きっとこれは、門谷には存在しない関係性だろう。
今回、オープニング恒例の伊藤沙莉によるダイジェストナレーション、「今週、こんなことが起こった」に並んだのはこの4つだった。
自分のサプライズパーティーが計画中であると知ってしまった大豆田とわ子。
足がつってる真っ最中にプロポーズされた大豆田とわ子。
最初の夫の片思いの人を知った大豆田とわ子。
消えた大豆田とわ子。
消えたとわ子はどうやって帰ってくるのだろう。6話は今夜。
文/釣木文恵(つるき・ふみえ)
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。