四十肩・五十肩をセルフチェック!肩の痛みの原因、症状と対処法|医師、五十肩専門整体師が解説
長時間のテレワークやスマホの見すぎが原因で、肩の痛みを訴える人が増えている。高齢者はもとより、若年層にも広がっている「五十肩」の正しい対処法とは。「そのうち治る」と思って、放っておくのは大間違い。五十肩専門整体師が、簡単五十肩体操を伝授します!
五十肩かも?肩の痛みをセルフチェック
つらい肩の痛み。症状や生活習慣よって、対処法やケアも変わります。まずは、8つの質問に〇か×で答えて判定してみましょう。
Q.腕や肩に違和感があり「五十肩かも?」と感じていたら、その症状について左の質問に答えてください。
【1】パソコンや事務作業、家事など、前屈(かが)みになる作業が多い。
【2】手を前に上げたとき、90度以上上げることができる。
【3】【2】で○の人で、上げたときに肩に痛みを感じる。
【4】【2】で○の人で、左右とも同じ高さに上げることができる。
【5】夜中に肩の痛みで目が覚めることがある。
【6】髪の毛を洗ったり、下着や服の着脱をするとき、痛くてつらい。
【7】時々、肩に激痛が走る。
【8】肩の痛みが3か月以上続いている。
<判定>
・【1】【2】【3】【4】が○の人→「肩関節周囲炎」の疑い
・【1】【2】【5】【6】【8】が○の人→「五十肩」の疑い
・【2】【4】が×、【5】【6】【7】【8】が○の人→「拘縮肩(凍結肩)」「腱板不全断裂」「石灰沈着性腱板炎」などの疑い
<肩の痛みの病名と症状>
●肩関節周囲炎
痛みが出てから半年以内で、痛みがあるが、肩は動く。1~2年以内に自然治癒する。
●五十肩
痛みが半年以上続き、肩の動きが悪い。腕の上がり方に左右差があったり、夜間痛がある。自然治癒しない場合も。整形外科ではヒアルロン酸注射などで処置する。
●拘縮肩(凍結肩)
五十肩が重症化した状態。痛みが3か月以上続き(拘縮・こうしゅくが進み、すでに痛みがない場合もある)、腕が90度以上上がらない。自然治癒は不可能。整形外科ではヒアルロン酸注射などで処置するほか、肩関節鏡視下手術という選択肢もある。検査をして腱板不全断裂や肩石灰沈着性腱炎など、ほかの疾病が判明した場合は、症状に応じた治療が必要になる場合も。
五十肩とは? 症状には3段階ある
肩関節外来のある日暮里整形リウマチクリニック院長の神戸克明さんによると、五十肩とは「肩に痛みがあり、可動域の制限を伴う病気」のことで、症状には幅がある。
「欧米では、五十肩に相当する症状を『凍結した肩』、それ以前の状態を『凍りつつある肩』と区別します。ところが日本では、ひとくくりに『五十肩』となる。そこで私は、前述の五十肩より肩が動く段階を『肩関節周囲炎』、そして『五十肩』、重症化したものを『拘縮肩』と3段階に分けています。残念ながら、早期に自然治癒するのは『肩関節周囲炎』だけです」(神戸さん・以下同)
ちなみに、四十肩と五十肩は同義語で、
「30代から五十肩の症状が出る人もいて、中高年の病気とは言えない状況です」。
若年層にも増えている原因は、姿勢の悪さにあるという。
「長時間のテレワークやスマホの見すぎで前屈みの姿勢が続くと、肩甲骨が前にずれていきます。そうしたズレを重ねるうちに肩の位置が不安定になり、五十肩の根本原因となる“肩のトゲ”が登場するのです」
●「五十肩」の一般的な経緯
・急性期(3か月~半年)
腱にキズができ、炎症が起きている状態。ズキズキとした痛みが大きく、肩のみならず首や腕までじりじりとした痛みが起きる。
・慢性期(半年~1年)
ひどい痛みは落ち着くが、肩まわりがじわじわと硬くなって動きにくくなる。
・回復期(1年~2年)
徐々に痛みが治まり、肩関節周囲炎であれば治癒する。
五十肩の原因は肩の“トゲ”
神戸さんは肩の内視鏡手術を行う中で“トゲ”を発見。それを削ると症状が改善した。
「トゲの正体は、猫背の姿勢により、肩甲骨の前方にある骨と腱(けん)が摩擦してできた、骨と靱帯(じんたい)の“出っぱり”なのです(下段囲み参照)」
痛みのもとは、トゲで損傷した腱板。これが五十肩や拘縮肩を起こし、摩擦が進んで腱板が切れると、「腱板不全断裂」という疾病に変化。また、腱板に石灰が生じる「石灰沈着性腱板炎」も激痛を伴い、いずれも治療が必要だ。
五十肩になりやすい人にはどんな傾向があるのだろう。
「糖尿病や心肝疾患のある人は要注意ですね。私が調べた学術論文では、肩が痛い人の3割が糖尿病でした。(※1)血糖のコントロール不良で傷が治りにくいのが理由です。また、左の背中に冷や汗が出るほどの激痛が起きた場合は狭心症や心筋梗塞の疑いが強いです」
五十肩で日々気をつけることは?
五十肩で日々気をつけることとは?
「傷んだ腱板にトゲを当てない“外旋(外側への回旋)訓練”をしましょう。背中にある棘下筋(きょくかきん)(次ページの筋肉図参照)のあたりが凹んできたら、五十肩の危険信号。左の体操で予防を。続ければ、傷ついた腱板も太く丈夫になり、少々のトゲなら弾力で跳ね返せます。腕立て伏せやダンベル運動などは五十肩を悪化させるだけ。絶対にやらないこと」
病院を選ぶ際は、五十肩(肩関節周囲炎)を診ているかを前もって調べておこう。
(※1)Kanbe K. J Orthop Surg Res.2018 Mar 16;13(1):56.
肩のトゲはなぜできるの?
日頃の悪姿勢で「肩甲骨が前傾→元に戻る」を繰り返すうちに、肩峰(けんぽう)(肩のいちばん端にある骨)とその下の腱板がこすれ、トゲができる。同じ動きを1日に何万回と繰り返すために腱板が傷つき、腕を上げる(=トゲが腱板に当たる)たびに痛くなる。ほとんどのトゲは2~5mm程度だが、なかには1cmほどに伸びている人もいるという。痛みがまったく出ない人もいれば、基礎疾患のある人は症状が重くなりやすいなど、個人差がある。
肩のトゲに…「肩関節鏡視下手術」とは
太さ4mm、斜め奥まで見える超高性能4Kカメラを搭載した内視鏡を肩に挿入し、トゲを削り取る1泊2日の手術。トゲがなくなると腱板の炎症も治まり、白くて健康な腱板が復活する。はじめに、手術に適した状態かを判定する綿密な術前検査を行う。専門技術を要するため、同手術ができる病院は全国でも限られている。
1日3セット!簡単な五十肩体操
五十肩専門の整体院で日々肩の痛みと対峙する橋垣さんに、簡単な五十肩体操を教えてもらった。
【どうぞ体操】1セット10回
ひじを脇につけ、手のひらを天井に向けて「どうぞ」のポーズを作る。脇を締めたまま、ひじから下だけを外側に開く。
「45度開けば合格です」(神戸さん・以下同)。
【ヤッター体操】1セット5回
ひじを曲げ、腕は、顔の前を通過するように斜め45度前方に上げ、ひじは曲げたまま「ヤッター」のポーズをとる。
「腱板のこすれを防ぎながら可動域を高めます」。
【ペンギン体操】1セット10回
両手をまっすぐ後ろに伸ばし、手を合わせるように肩甲骨を寄せる。
「肩が痛い人は腕が平行になりませんが、平行になるようがんばってみましょう」。
【カエル体操】1セット10回
両ひじを曲げ、手のひらを前にして腕を両脇に引きつける。そのまま腕を斜め上に上げ、ひじが胸の高さに来たら下ろす。「肩甲骨の奥のインナーマッスルが鍛えられます」
教えてくれた人
医師 神戸克明さん
日暮里整形リウマチクリニック院長。700人以上(うち五十肩は200人以上)の肩関節鏡視下手術を行う五十肩のスペシャリスト。著書に『五十肩の根本治療』(東京図書出版)。
柔道整復師 橋垣好人さん
五十肩を追求し続け、大阪に橋垣整体院を開業。著書に『私も治った! 「五十肩」の治し方―上がる、眠れる、着替えられる』(セルバ出版)。
イラスト/さややん。 写真/時事通信社 取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2021年3月11日号
https://josei7.com/