認知症の母の「ものとられ妄想」息子が辿り着いた究極の解決法とは?
認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さんは、現在岩手に帰省中だ。しまった場所を忘れてしまう母の愛用品を探すのも工藤さんの日課なのだが、意外なある物が消えてしまったという。今回は、認知症とものとられ妄想にまつわるエピソードだ。
母のモノが次々と消える!?|ものとられ妄想とは
わが家では、財布やメガネ、バックなど、いろいろなモノがなくなります。
「ねえ。わたしの財布、どこにいったか知らない?」
母のこの一言を合図に、なくなったモノ探しが始まります。
財布は、母だけが触るものなので、母しか財布のありかは分かりません。しかし、しまった場所を忘れてしまうので、息子に質問するのです。わたしも分からないというと、ヘルパーさんが持っていたなど、他人のせいにしてしまいます。
これは認知症の代表的な症状である「ものとられ妄想」ですが、今回は思いもよらないモノが、消えてしまったお話です。
何度もなくなるあるモノとは?
「電子レンジのターンテーブルがなくなってます!」
岩手の実家に訪問リハビリで来ていた理学療法士さんが驚いて、東京のわたしに連絡してきました。
母はシャルコー・マリー・トゥース病という難病が原因で、手足の筋肉が萎縮しているため、歩行機能訓練やストレッチを自宅で行っています。基本メニューのほかに、認知症のリハビリとして母が得意だった料理を繰り返し行うこともあります。
今回は料理の最中に電子レンジを使おうとして、ターンテーブルがないことに気づいたようです。
連絡を受け、普通なら驚くところですが、母はこれまでもターンテーブルを台所の細長い棚や、日用品を保管している押し入れに片づけることがあったので、それほど驚きはしませんでした。
しかし、最初は理学療法士さんと同じような反応でした。まさか、ターンテーブルがなくなるなんて想像もしていないので、かなり戸惑いました。どこに片づけたのか、見当もつかず、引き出しや押し入れを手あたり次第、開けました。
その後も同じことが何度もあったおかげで、母が片づける場所を予測できるようになり、すぐ見つけられるまでに成長しました。
それでも、介護保険サービスに含まれない「ターンテーブル探し」を、理学療法士さんにお願いするわけにはいきません。
岩手に居る妹にLINEでターンテーブルの捜索を依頼し、その日は帰ってもらいました。
→認知症の母が暮らす極寒の岩手で悲鳴…冬の介護に必要なものとは?
妹に捜索依頼…見つかった場所は?
妹には、台所の細長い棚か日用品の入った押し入れに、ターンテーブルがあるかもしれないと伝えました。
あっさり見つかるかと思いきや、連絡がありません。妹にも家庭があるため、あまり時間はかけられません。後日、改めて捜索すると思っていたところに、こんなLINEがきました。
ターンテーブルは、冷凍庫の中でキンキンに冷えた状態で見つかったのです!
まさか、冷凍庫とは…。さらに妹のLINEの文字を読み間違うほど意外な場所でした。
母がなぜ、ターンテーブルを冷凍庫にしまったのか、理由は分かりません。
ただ、カチカチに凍った生ゴミは、冷凍庫からよく出てきます。また、冷蔵庫と冷凍庫の違いが分からず、冷蔵庫でドロドロになったアイスクリームを見つけたことはあります。
おそらくですが、母が目に入った片づけられる場所なら、温度とか関係なく、どこでも片づけてしまうようです。母はキレイ好きで、モノを出しておくことを嫌うので、それも理由のひとつかもしれません。
キーファインダーで財布探し
わが家ではほぼ毎日、何かしらのモノがなくなります。わたしが探す役割を担っているのですが、毎日数十分はモノ探しをしています。
捜索時間の短縮のため、財布など大切なものには、キーファインダーを取り付けています。キーファインダーは本来、鍵やスマホなど失くしやすいものを見つけるためのもので、受信機と送信機リモコンで構成されています。
よく失くすものに受信機を取り付け、送信機リモコンのボタンを押すと音が鳴る仕組みで、場所の特定ができる便利グッズです。
メガネが見つかるのはなぜか…
財布はキーファインダーのおかげで、短時間で見つけられるのですが、最近はメガネがよくなくなります。残念ながら、メガネにはキーファインダーを取り付けられないので、音で探すことはできません。
メガネが1週間以上見つからず、新しいメガネを買おうと検討したこともありましたが、母が片づける場所が分かったため、割と早く見つけられるようになりました。その場所がまた、普通では思いつかない場所なのです。
メガネはいつも、母の寝室にあるタンスの下着の入った引き出しに紛れています。何度もパンツの中からメガネが出てくるのですが、こればかりは理由が分かりません。
ものとられ妄想の対処法
認知症の人から泥棒扱いされると、介護者はあまり気持ちのいいものではありません。グッとこらえ、否定せず、よく話を聞いてあげましょうと介護の教科書に書いてあります。
わたしもそのとおり実践してみたのですが、残念ながらモノが見つかるまで、ものとられ妄想は続いたので、最近ではモノを早く見つけることに注力するようになりました。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。