夫が死ぬ前に【相続】で確認すべき5つのこと|財産把握シート付き
いつかは夫に先立たれ、ひとり暮らしを余儀なくされる人が多いことが予想される。女のひとり暮らしに備えて、夫が元気なうちにできることは、家のリフォームの準備。そして、家や財産を失わないために相続について考えておく必要が。相続に手間取らないためにも、夫が元気なうちに全財産を把握しておきたい。
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夫亡き後の妻の相続に必要な準備とは
いつか訪れるひとり暮らしに備えて、快適にリフォームしておいた「家」。しかし、いざ相続するとなるといちばん厄介なのも「家」だ。もし自宅が夫名義だった場合、家を含む遺産の相続人は妻と子供だけではない。子供がいなければ、夫の両親、次いできょうだいにも相続権が発生するのだ。
遺産は、家や車、金融資産などすべての財産を金額に換算したものを相続人に分配する。そのため、金融資産が少ないのに相続人が多いと、分配のために住む家を手放さざるを得なくなるケースもある。
相続実務士の曽根恵子さんが言う。
「そうならないために、まずは夫が元気なうちに全財産を把握して、遺産総額と相続人を確認しておくべきです。できれば、相続人全員が、どんな財産があるかを事前に共有するのが理想です。夫がリタイアするタイミングで確認しておくといいでしょう。最近は60代でも働いている場合が多いので、70才くらいを目安にして」
1.家は「所有権」か「配偶者居住権」かを選ぶ
妻が家を相続する場合、従来の「所有権」と、所有権を持たなくても配偶者ならそのまま住み続けられる「配偶者居住権」のいずれかを選べる。
配偶者居住権のメリットとは
「配偶者居住権は、遺産の分配のために妻が家を手放さなくてもいいように、今年4月から新たに始まった権利です。これを選んだ場合、所有権は子供など妻以外に渡りますが、住み慣れた家でずっと暮らしたいという人は、配偶者居住権を選ぶといいでしょう」(曽根さん・以下同)
配偶者居住権を選ぶと、所有権を相続しない分、預貯金など金融資産を多く相続できるメリットがある。
所有権のメリットとは
一方の所有権は、住むも売却するも自由。“ひとり暮らしになってこんな広い家はいらない”と、住み替えや介護施設への入居などを考えているなら、所有権を選ぶのがいい。
「所有権を選ぶと配偶者居住権よりも多く相続税がかかりますが、『配偶者控除』によって1億6000万円までは非課税になるので、多くの場合、この非課税枠の中に収まるはずです」
ひとり暮らしになる場合は、家を売却して住み替え費用に充てることもできる所有権の方が、自由度が高いといえそうだ。
2.財産をリストアップして把握する
いずれにしろ、どちらを選ぶかはそのほかの財産がどれだけあるかにかかってくる。金融資産が多ければ、配偶者居住権を選んだとしても妻の老後は立ち行くだろうし、そのほかの財産が少なければ、その後の生活を考えて家を売ることも考えなくてはならない。しかし、財産の把握はそう簡単な話ではない。
「いま、夫から月々の生活費を受け取ってやりくりしていますが、銀行預金などの大きなお金は夫任せで、どこにどれだけあるか、よくわかっていません。夫はまだ元気で“おれに任せておけ”と言うばかりですが、先立たれたときのことを考えると…」(60代・主婦)
こんなふうに、夫が全財産を管理している家庭も少なくない。
「しかし、いざ夫に先立たれると、気持ちが落ち着いていない中で財産を探さなければいけないのは時間も手間もかかる大変な作業です。そうならないためには、とにかく生前に情報を共有しておくことが重要です。
財産把握シートを書き込んでみよう
不動産はもちろん、銀行口座や株式・投資信託などの金融商品、生命保険、車のほか、住宅ローンや借り入れなどの“負の遺産”も含め、ありとあらゆる財産をすべてリストアップして、まとめておくこと。ネット銀行やネット証券の取引などは、IDやパワードも記録して、厳重に保管してください。貸金庫の有無も忘れずに(財産把握シート参照)」
3.夫の年金手帳のありかを明らかに
夫の死後は遺族年金の手続きなどもあるため、年金手帳のありかも明らかにしておくべきだ。
「夫が亡くなったら、年金事務所に死亡届を提出しなければならないうえ、その後の手続きも年金手帳があった方がスムーズです。日本年金機構から毎年送られてくる『ねんきん定期便』などの封書や基礎年金番号がわかれば、年金手帳代わりになるので、とっておいた方がいい。“共働きで自分の年金があるから大丈夫”とは思わず、きちんと把握しておいてほしい」
生前に財産の把握ができていないと、戸籍謄本を取り、夫の相続人であることを証明したうえで、心当たりのある金融機関を手当たり次第に回って確認していくしかない。戸籍謄本に夫が亡くなったことが記載されるまでには、3週間前後はかかる。
4.夫の生前に遺言書を書いてもらおう
「全財産が把握できたら、生前に遺言書を書いてもらうのが、面倒ごとを避ける最善策。遺言書には、自分で書く『自筆証書遺言』と公証役場で作る『公正証書遺言』があります。公正証書遺言の作成は、財産額によっては30万円前後かかる場合もありますが、“内容に不備があって遺言書が無効になった”といったトラブルがなくなります」
「誰に何をどのくらい相続させる」という意思を明確にし(遺言書)、そのうえで全財産を漏れのないように記載(財産目録)しなければ、遺言書は効力を持たない。できる限り、専門家の力を借りて作るのが得策だ。
「自筆証書遺言を作成する場合、これまでは自宅で保管することが多く、紛失や改ざんのリスクがありましたが、今年7月から法務局で保管できるようになりました。内容についてのアドバイスはしてもらえないものの、家庭裁判所の検認(遺言書を確認してもらう手続き)が不要になったほか、財産目録はパソコンでの作成も可能になりました。不動産の登記事項証明書や通帳、保険証券などのコピーを添付することもできるようになり、自筆証書遺言の作成は以前よりかなり手軽になっています」
5.生前贈与という選択も…
あらかじめ財産を分けておく「生前贈与」というやり方もある。
「夫が元気なうちに、妻が自分名義の口座を持っておくことをおすすめします。夫から渡される毎月の生活費のうち、残った金額を自分の口座に入れておくといい。生前贈与は、年間110万円までなら非課税で、申告も不要。前もって相続財産を減らすことで、相続税対策にもなります」
相続を“争続”にしないためには、事前の把握と、家族での情報共有が重要だ。
教えてくれた人
相続実務士・曽根恵子さん
※女性セブン2020年10月22日号
https://josei7.com/